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黒崎が笑いを押し殺しているのは、俺に気遣ってのことだ。それだけ俺が驚いているに違いない。恥ずかしくて、顔から湯気が出そうになった。すごすごとキッチンへ行き、布きんを水で濡らして顔に当てた。こうでもしないと落ち着かないし、火照りがおさまらない。
テレビから聞こえて来たのは、面白いお兄さんですねという評判の声だ。さすがはベテランアナウンサーさんだ。当たり障りが無くていいと思った。しかし、俺には心配なことがある。伊吹がヒートアップしないかということだ。
「デビュー時よりも気が楽だろう?伊吹君は会社の宣伝のみをしている」
「そうだねえ。でもさ、笑いに変えてくれているけど、夏樹の兄ですって、堂々と言ってもいいのかな?今更だけど。久弥さんとユート君とは、プライベートでも親交がありまして、なんて。テレビで流れたら、悪く言う人が出てくると思うけど」
「それはあり得る。ほんの一時の事でも返ってくる。……それを見越してのことだ。彼の方からテレビ局に、インタビューを自由に使ってくれと言ったそうだ。……PVが良く仕上がったな。別人のようだ」
伊吹の顔から切り替わり、PV映像が流れ始めた。TDDのデビュー曲、”EDEN”の歌詞から連想した内容で、教会の中をバックに取ってある。ヴィジブルレイのデビュ一発目のPVと同じ背景なのは、狙ってのことだ。
約1年前にデビューした新人の成長と、その違いを知ってもらう目的がある。今回は白い檻が存在しない代わりに、夜空を連想させるシーンを入れてある。上弦から満ちて行く月が、白っぽく描かれている。弓張り後の達成を意味している。そうなるのが目標だ。
クラシックの音楽とアップテンポなギター音が流れ出した後、後ろにあるステンドグラスが映し出された。かなり高い天井を仰いでいる。実際にある教会の映像で、加工して使用された。たしか、ドイツのエアフルトだと聞いた。
「これは、エデンから連想した理由だよ。願う、祈る場所として」
「……カインとアベルの関係か。兄弟仲が良くなるようにだと?達成している」
「そうだね~。おかげさまで。ふふん……」
楽曲が始まると、ボーカルのアップが登場した。左額の傷が分かるようにしてある。俺にとってのトレードマークにした。左手甲の傷跡を消してあるのは、自分達だけの絆にしたいからだ。
「親父が喜んでいたぞ。こういう形で思い出を見られるなら、神さまに感謝したいと言っていた」
「そうだったんだね。俺には言わないからさ……。うちの両親も同じみたいだよ」
「今は十分に気をつけているじゃないか」
「うん。ありがとう」
黒崎の中では、大きな後悔が残っている。この家に慣れていない状況で、背の低い花壇は視界に入りづらい。後で作り直せばいいから、平らにしておく。そう思いながら、忙しさを理由に後回しにした結果だと言っていた。
(俺の性格を知っているのにって。そんな事ないのに……)
集中しすぎるタイプなのが原因だ。一つのことに集中すると、周りが見えなくなる。高校生の頃は、何でも時間を決めてやっていた。それが終わった後は、気持ちをリセットする為に、肩や足を軽く叩く。それをすっかり忘れていた。それこそ、引越しや進学の忙しさで脇に置いていたものだ。
「夏樹。肩を叩いてやる。画面を見すぎだ」
「はーい。二葉がやってくれたから思い出せたよ。伊吹お兄ちゃんが俺にやってくれていたんだ」
黒崎がこう言った。二葉は俺と似た感じがあるそうだ。近くで暮らすと分からなかった部分が出てくるから、けっこう楽しいと思っている。
同年代が集まって来た中、悠人の性格が際立ってきたのも面白い。こうして、ああして、こうだからねと、効率よく調整できるからだ。決して押しつけがましくない。それをお義父さんが伝えると、そそっかしい分だけ慎重だから、そういう部分が生かされたと言って感動していた。
「お義父さんが話してくれたから、悠人が喜んでいたよ。リーダーの素質そのものだぞって」
「親父のいい部分だ。昔から見極めることには長けていたようだ。お前のことも」
「妬くなよ~。あんたこそ影響されているじゃん。育った環境じゃないもん。元からの特技だよ。あれー、ノアからだよ。……庭を見せてもらいたい。今月の予定はどうかな?って」
ノアからラインが入った。前から遊びに来たいと話していた。TDD始動のお祝いがてら、バーテルスさんも連れて行きたいと、次のラインで入って来た。もちろんOKだ。
今日は伊吹が仕事だから声が掛けられない。本気で残念だなと思ったのは、あまり我が家に遊びに来ないからだ。忙しいし遠慮があるように思う。ああ見えても。
「せっかくだ。今日はどうだ?聞いてみろ」
「……電話が入ったよ。もしもしー?ドイツ語だ……、日本語で話してよ。えーっと」
「こら。煎餅を食べながらはやめろ」
「ノアー。今日、うちにおいでよ。……うん。そうだよ。駅まで迎えに行くよ。……うん。また後でね」
挨拶ぐらいドイツ語で話せと、黒崎からツッコミが入りつつ、無事に会話を終えた。ドイツ語クラスで学んだのに、会話はできないという例を思い知った。
テレビから聞こえて来たのは、面白いお兄さんですねという評判の声だ。さすがはベテランアナウンサーさんだ。当たり障りが無くていいと思った。しかし、俺には心配なことがある。伊吹がヒートアップしないかということだ。
「デビュー時よりも気が楽だろう?伊吹君は会社の宣伝のみをしている」
「そうだねえ。でもさ、笑いに変えてくれているけど、夏樹の兄ですって、堂々と言ってもいいのかな?今更だけど。久弥さんとユート君とは、プライベートでも親交がありまして、なんて。テレビで流れたら、悪く言う人が出てくると思うけど」
「それはあり得る。ほんの一時の事でも返ってくる。……それを見越してのことだ。彼の方からテレビ局に、インタビューを自由に使ってくれと言ったそうだ。……PVが良く仕上がったな。別人のようだ」
伊吹の顔から切り替わり、PV映像が流れ始めた。TDDのデビュー曲、”EDEN”の歌詞から連想した内容で、教会の中をバックに取ってある。ヴィジブルレイのデビュ一発目のPVと同じ背景なのは、狙ってのことだ。
約1年前にデビューした新人の成長と、その違いを知ってもらう目的がある。今回は白い檻が存在しない代わりに、夜空を連想させるシーンを入れてある。上弦から満ちて行く月が、白っぽく描かれている。弓張り後の達成を意味している。そうなるのが目標だ。
クラシックの音楽とアップテンポなギター音が流れ出した後、後ろにあるステンドグラスが映し出された。かなり高い天井を仰いでいる。実際にある教会の映像で、加工して使用された。たしか、ドイツのエアフルトだと聞いた。
「これは、エデンから連想した理由だよ。願う、祈る場所として」
「……カインとアベルの関係か。兄弟仲が良くなるようにだと?達成している」
「そうだね~。おかげさまで。ふふん……」
楽曲が始まると、ボーカルのアップが登場した。左額の傷が分かるようにしてある。俺にとってのトレードマークにした。左手甲の傷跡を消してあるのは、自分達だけの絆にしたいからだ。
「親父が喜んでいたぞ。こういう形で思い出を見られるなら、神さまに感謝したいと言っていた」
「そうだったんだね。俺には言わないからさ……。うちの両親も同じみたいだよ」
「今は十分に気をつけているじゃないか」
「うん。ありがとう」
黒崎の中では、大きな後悔が残っている。この家に慣れていない状況で、背の低い花壇は視界に入りづらい。後で作り直せばいいから、平らにしておく。そう思いながら、忙しさを理由に後回しにした結果だと言っていた。
(俺の性格を知っているのにって。そんな事ないのに……)
集中しすぎるタイプなのが原因だ。一つのことに集中すると、周りが見えなくなる。高校生の頃は、何でも時間を決めてやっていた。それが終わった後は、気持ちをリセットする為に、肩や足を軽く叩く。それをすっかり忘れていた。それこそ、引越しや進学の忙しさで脇に置いていたものだ。
「夏樹。肩を叩いてやる。画面を見すぎだ」
「はーい。二葉がやってくれたから思い出せたよ。伊吹お兄ちゃんが俺にやってくれていたんだ」
黒崎がこう言った。二葉は俺と似た感じがあるそうだ。近くで暮らすと分からなかった部分が出てくるから、けっこう楽しいと思っている。
同年代が集まって来た中、悠人の性格が際立ってきたのも面白い。こうして、ああして、こうだからねと、効率よく調整できるからだ。決して押しつけがましくない。それをお義父さんが伝えると、そそっかしい分だけ慎重だから、そういう部分が生かされたと言って感動していた。
「お義父さんが話してくれたから、悠人が喜んでいたよ。リーダーの素質そのものだぞって」
「親父のいい部分だ。昔から見極めることには長けていたようだ。お前のことも」
「妬くなよ~。あんたこそ影響されているじゃん。育った環境じゃないもん。元からの特技だよ。あれー、ノアからだよ。……庭を見せてもらいたい。今月の予定はどうかな?って」
ノアからラインが入った。前から遊びに来たいと話していた。TDD始動のお祝いがてら、バーテルスさんも連れて行きたいと、次のラインで入って来た。もちろんOKだ。
今日は伊吹が仕事だから声が掛けられない。本気で残念だなと思ったのは、あまり我が家に遊びに来ないからだ。忙しいし遠慮があるように思う。ああ見えても。
「せっかくだ。今日はどうだ?聞いてみろ」
「……電話が入ったよ。もしもしー?ドイツ語だ……、日本語で話してよ。えーっと」
「こら。煎餅を食べながらはやめろ」
「ノアー。今日、うちにおいでよ。……うん。そうだよ。駅まで迎えに行くよ。……うん。また後でね」
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