上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
120 / 514

13-8

しおりを挟む
 このマンホールには、階段の代わりにハシゴがあるようだ。バーテルスさんが下りてみたいと言い出したから、ノアが強く名前を呼び始めた。その甲斐あって、やっとのことでバリケードから出てきた。もちろん周りにお礼を言いながら。

「ユーリー、気が済んだ?」
「ああ。お待たせ。……ありがとうございました」
「とんでもないです。楽しめてよかったです」

 二葉とバーテルスさんが挨拶を始めた後、ノアのことも紹介した。バーテルスさんが、道案内から未知なる体験へ進み、僕達には共通点ができたねと笑っている。そして、面白くない冗談を言うなと、ノアが言い返したから笑い出した。初対面なのに、彼らの空気が馴染んでいる。

(気が合うのか。初めて分かったよ。この感じ……)

 この人とは話しやすいという漠然としたものを、目の前で見ることが出来た。伊吹も加われば、さらに楽しそうだ。聡太郎は中和役になるから、暑苦しさを抑えることが出来る。

「夏樹。いい体験が出来たな。さあ帰ろう」
「うん。なかなか出来ないよね」

 ふむふむと、悠人になった気分で観察していると、甘い匂いが漂ってきた。近くの店の、たい焼きが焼き上がった匂いだった。しかも、“かき氷”の水色の旗も出ている。食べたい。さっそく進行方向を変えようとすると、黒崎から止められた。阿吽の呼吸だ。

「食事が入らなくなる。昼食を大して食べていないぞ」
「今日は特別だよ。お客さんが来たんだし。分かったよ~。俺の分は玉子サンドにするからさ」

 駅のそばにある店で、新メニューが売り出された。厚焼き玉子サンドという。俺は厚焼き卵が好きだ。マニアとしては気になり食べたところ、一発で好きになった。

 ノアがかき氷を食べている間に、俺達は玉子サンドを買いに行った。そして、戻って来た時には、二葉達が意気投合していた。

(黒崎さんはどうかな?よかったって顔してるよ。お兄ちゃんなんだなー)

 黒崎の印象はこういうものだ。高層階にある店での食事と、夜景を眺めながらワインを傾ける姿。清潔感と迫力が同居したスーツ姿。どれも似合いすぎる。しかし、実際はこうだ。俺の食欲を気にしては、過保護ぶりを発揮する姿。さらに、後ろを歩く弟を気にする一面もある。

 まるで回転木馬メリーゴーランドのようだ。どれも黒崎には違いないのに、場所や状況が変わると全く違って見える。そして、正面に向いた時には俺がいる。

「ふふん。たどり着いたよ。俺がゴールだよね~」
「……電話が鳴っているぞ」
「……気づかなかった。悠人からだ。もしもしー?」

 何かあったのかな?電話に出ると、何も起きていないよと笑われた。そして、大型ビジョンを観に来ないかと誘われた。さっき悠人が観た方法である、大通りの車内からだ。事務所からは許可が出ているという。2人で行くのは駄目だと強く止められたのに、大丈夫だろうか。

「……これからの活動を自覚するためだって、頼んだんだ。OKが出たよ。次は一時間後だよ。初日だから人が集まっているんだ」
「ぜひ行くよ!黒崎さん、車を……。あれ?」

 黒崎の方には、長谷部さんから電話が入っていた。時間と注意事項の説明を受けている。このサポート体制に甘えさせて貰う。さっそくノア達3人へ事情を話して誘った。もちろん二つ返事でOKされて、急いで一旦、家に帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...