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あの日の渋谷での事を振り返った。ファンが集まったことで、さらに混雑していた状況だ。俺達は4画面同時に流れるPVを眺め、感動していた。
2回続けて流れた後、大きな歓声が広がった。放映が終わり、次第にバラけていく人波の中、足早に立ち去ろうとした。あのタイミングで離れなければ、大きな騒ぎになる。
すでに夏樹と悠人に気づいたファンが数人いたが、軽く手を振るだけで声を掛けて来なかった。他にも同様のファンがいると、長谷部さんが話していた。
(いいファンに恵まれたな。見守られているじゃないか)
(うん。嬉しいよ。忘れないよ……っ)
(なつきー、裕理さん。こっちだよ。……えええ?げええええっ)
人波をかいくぐり、伊吹が走って来るのが見えた。しかも、弟の名前を呼びながらだ。あの混雑の中で、よく俺達の姿を見つけられたものだ。そして、感動に打ち震えたと言い、夏樹のことを抱きしめた。
一斉に注目が集まった直後に、彼らをそばのタクシーへ押し込み、黒崎家へ帰させた。俺と早瀬には車の運転があり、タクシーにはバーテルス氏に同乗してもらった。
ノアと二葉を連れて黒崎家へ戻ると、タクシーの到着よりも早かった。門のそばで待っていると、タクシーから降りた夏樹が、真っ赤な顔をして怒り出した状況があった。原因は伊吹に決まっている。
バーテルス氏へ、自分の子供時代の話や、俺との馴れ初め、結婚に至るまでの話をされたからだ。あの渋滞中に、40分もあれば多くの話ができる。伊吹の話術に興味を持っていたバーテルス氏が、うまく話を引き出した。その結果、洗いざらい出されてしまったわけだ。
その後、ノアとバーテルス氏のことを庭へ案内し、和やかな時間を過ごすことが出来た。夏樹をなだめたからだ。それでも恥ずかしさが消えるわけがない。どれだけの混乱状態を経て、今の二人になったのかと語られては。俺は何も恥ずかしくはないのだが。
(そろそろ家に帰したい。声が掠れているぞ……)
夏樹に電話を代わるように言うと、すぐに交代された。家まで送ってもらった後は、介抱は要らないと言っている。
「夏樹。伊吹君に頼んでおいた。帰るまで連絡が取れない可能性がある」
「うん。分かった。お兄ちゃんに居てもらうよ……。ごほっ。咳が出てきたんだ……」
「無理に話さなくて構わない。土産を用意すると伝えてくれ。気をつけて帰れ」
「はーい。大魔王さん」
通話を終えると、桜木が林田と話をしていた。林田は早瀬の秘書を務めていたが、去年の秋に移動になった。桜木とは接点があったのか。
挨拶のみで戻ろうとすると、”あんたとは付き合えない”という桜木の言葉が聞こえてきた。恋愛感情のもつれだろうか。助け舟を出すべきかと待つと、桜木から”助けてください“と、直球で言われた。桜木は人の動きを読むのが上手い。上役からの横やりを入れられた形にするのがベストだ。この場においては。事実、林田が焦る顔をした。
「桜木君は食堂のランチを予約済みだ。麻婆豆腐が冷めてしまう」
「ランチにはお付き合いできません。では失礼しまーす」
「あ……、桜木君」
桜木が上着を直しながら歩いて行った。これは林田と視線を合わせない口実になる。そして、エレベーターへ乗り込まずに、向こうにある吹き抜けの階段を降り始めた。全てがいい選択をしている。
「常務!失礼いたします」
林田が会釈をした後、エレベーター前へ歩いて行った。どうやら伊吹の評判が耳に届いていない様子だ。秘書を経験したのなら、社内でのコミュニケーションが取れているだろうに。
2回続けて流れた後、大きな歓声が広がった。放映が終わり、次第にバラけていく人波の中、足早に立ち去ろうとした。あのタイミングで離れなければ、大きな騒ぎになる。
すでに夏樹と悠人に気づいたファンが数人いたが、軽く手を振るだけで声を掛けて来なかった。他にも同様のファンがいると、長谷部さんが話していた。
(いいファンに恵まれたな。見守られているじゃないか)
(うん。嬉しいよ。忘れないよ……っ)
(なつきー、裕理さん。こっちだよ。……えええ?げええええっ)
人波をかいくぐり、伊吹が走って来るのが見えた。しかも、弟の名前を呼びながらだ。あの混雑の中で、よく俺達の姿を見つけられたものだ。そして、感動に打ち震えたと言い、夏樹のことを抱きしめた。
一斉に注目が集まった直後に、彼らをそばのタクシーへ押し込み、黒崎家へ帰させた。俺と早瀬には車の運転があり、タクシーにはバーテルス氏に同乗してもらった。
ノアと二葉を連れて黒崎家へ戻ると、タクシーの到着よりも早かった。門のそばで待っていると、タクシーから降りた夏樹が、真っ赤な顔をして怒り出した状況があった。原因は伊吹に決まっている。
バーテルス氏へ、自分の子供時代の話や、俺との馴れ初め、結婚に至るまでの話をされたからだ。あの渋滞中に、40分もあれば多くの話ができる。伊吹の話術に興味を持っていたバーテルス氏が、うまく話を引き出した。その結果、洗いざらい出されてしまったわけだ。
その後、ノアとバーテルス氏のことを庭へ案内し、和やかな時間を過ごすことが出来た。夏樹をなだめたからだ。それでも恥ずかしさが消えるわけがない。どれだけの混乱状態を経て、今の二人になったのかと語られては。俺は何も恥ずかしくはないのだが。
(そろそろ家に帰したい。声が掠れているぞ……)
夏樹に電話を代わるように言うと、すぐに交代された。家まで送ってもらった後は、介抱は要らないと言っている。
「夏樹。伊吹君に頼んでおいた。帰るまで連絡が取れない可能性がある」
「うん。分かった。お兄ちゃんに居てもらうよ……。ごほっ。咳が出てきたんだ……」
「無理に話さなくて構わない。土産を用意すると伝えてくれ。気をつけて帰れ」
「はーい。大魔王さん」
通話を終えると、桜木が林田と話をしていた。林田は早瀬の秘書を務めていたが、去年の秋に移動になった。桜木とは接点があったのか。
挨拶のみで戻ろうとすると、”あんたとは付き合えない”という桜木の言葉が聞こえてきた。恋愛感情のもつれだろうか。助け舟を出すべきかと待つと、桜木から”助けてください“と、直球で言われた。桜木は人の動きを読むのが上手い。上役からの横やりを入れられた形にするのがベストだ。この場においては。事実、林田が焦る顔をした。
「桜木君は食堂のランチを予約済みだ。麻婆豆腐が冷めてしまう」
「ランチにはお付き合いできません。では失礼しまーす」
「あ……、桜木君」
桜木が上着を直しながら歩いて行った。これは林田と視線を合わせない口実になる。そして、エレベーターへ乗り込まずに、向こうにある吹き抜けの階段を降り始めた。全てがいい選択をしている。
「常務!失礼いたします」
林田が会釈をした後、エレベーター前へ歩いて行った。どうやら伊吹の評判が耳に届いていない様子だ。秘書を経験したのなら、社内でのコミュニケーションが取れているだろうに。
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