上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 高校に入学した当時、ああやって校舎の前で待ってくれていた。いつの間にか別行動が増えて、久しぶりだねという言葉が出るようになった。一年生の間は、高校時代と大差なかったのに。今の自分は素直に思いを伝えられるから、戸惑うことなく、それを口にした。

「森本。高校一年生の時を思い出したよ。そうやって待ってくれていたね。俺が待っているよ。これからは」
「そうか?お言葉に甘える。マフィンを持って待っていてくれ」
「森本も変わったね。そういう事を返してくるタイプじゃなかったのに」
「夏樹のことが好きだった。恋心を抱えて、校舎の前で待っていた。それだけのことだ」
「ええ?マジで言っているのかよ?そんな素振りは感じなかったよ?」
「お前が嫌がるからだ。付き合いたいってわけじゃなかった。今から思うと、憧れていたのかもしれない。恋愛感情だと勘違いしたか、近いものがあった。黒崎さんと付き合い始めても平気だった。楽しそうにしているし、俺の事を忘れなかった。それで十分だ。……よく喋るようになっただろ?国府先輩からの影響だ」
「いろんな感情が出て来て、言葉が無いよ……」

 あの当時は、恋心を寄せられるのが迷惑だった。こうして、森本からの告白話を受け入れて、有難いと思えるようになった。胸が熱くなり、喉が熱くて声が震えて来た。ここで泣くものか。うれし泣きでも、回数を減らす努力中だ。

「好きになってくれて、ありがとう。まだお礼が言えていないんだ。中学の時から、ありがとう。心強かったんだ」
「夏樹……。ああー、悠人。おいー、鼻水が垂れているぞ。ティッシュはあるのか?夏樹、持っているか?」
「うん。あるよ。顔を上げてよ。鼻が拭けないからさー。笑わないから」
「うぇ……、うぇ……。年を取って涙もろくなったんだー。うぇ、うぇ」

 木の下へ連れて行き、悠人の顔を拭いてあげた。そして、彼の水筒を取り出して、紙ぶくろからマフィンを取った。森本が辺りを気にして、俺達が見えないように立った。その間に、悠人にお茶とマフィンを食べさせて、甘いものを補給させた。

「森本も食べようよ。3人前を用意してきたんだ。まだ時間があるだろ?10時半からだし」
「そうだな。ピクニックをするか。こっちに座れよ」
「ウンウン。はいはい、こっちに来ようね」
「ありがとう。うぇ……。感動したんだ。藍生が幼稚園の見学会に参加したんだ。すごい人見知りだから、泣いて帰って来たそうだよ。まだ2歳半だけど……、これから先も変わらないと思う。祖母代わりの佳代子ママと、玲子お母さんも言っていたし。様子を見ながらって。でもさー、夏樹がさー、うぇうぇーっ。成長してさーー」

 そうだったのか。ホッとして笑い出したい気分だが、それを押し殺して頷いた。森本と笑っていると、悠人が顔を上げて泣き出した。これも連想させるのか。とりあえず背中を向け合った。その後、森本がスマホを見て首を傾げた。

「あれ……。理学部のオリエンテーションの予定変更がある。全体分は通常だけど、環境学科は野外演習になっているぞ」
「どれどれ?ふうん……」

 小ホールでの講義形式ではなく、外を歩きながら行うようだ。顔ぶれが変わらないし、天気がいいからだと載っている。その内容を見て、笑いがこみ上げてきた。蝶を捕まえる内容だからだ。すぐに離して、同じ蝶を捕まえてはいけない。見分けがつかないかも知れないが、それも学びだと書いてある。

「ゆうとー。これを読んでよ。気分が変わるはずだよ」
「ふむふむ。あの池の地質を調べて……、げえええっ。どうしよう?やらないといけないよーー」

 悠人は虫全般が大の苦手だ。俺が代わりに捕まえて、悠人の分にカウントしよう。それを話しても泣き出したから、根気強く励ましておいた。
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