上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 12時半。

 徒歩15分の隣のキャンパスへ移動した。2年生までの拠点地であり、久しぶりにやって来た。ほんの10日前には、ここには200近い数のテントが並んでいた。

 せっかくの桜並木を楽しもうにも、一旦立ち止まると、大変な状況に追い込まれる。新入生が入学前の手続きに一斉に訪れる2日間、サークル勧誘が行われるからだ。

 目当てのサークルがあり、そのテントへ目指している男子学生がいたが、その手前で抱かかえられて、連れ去られた出来事があった。

 彼が入りたいのは、工学系の発明サークルだった。連れ去ったのは剣道部の2人だ。その様子を見ていた、剣道部OBとして来ていた伊吹から、大きな雷が落ちた。てっきり褒められるかと思ったそうだ。図々しい姿を噂で聞いたり、テレビ等で見たりして、全てが成果主義だと思い込んでしまった結果だ。

(人の気持ちを無視するな。無理に始めた剣道で、何が学べるんだ。無理やりに習わされた子供の気持ちを想像しろ。それなら分かりやすいだろう……)

 その場には俺もいて、さすがは兄だと感動した。俺が新入生の時も守られるという結果になったからだ。講堂を出て帰ろうとしたら囲まれてしまったが、中山伊吹の弟だと知り、先輩達が走って逃げて行った。聡太郎のオーラにも圧倒されていた。

「うっうっ。でも、一瞬だけだったよ~」
「そうだったね。夏樹の顔が青ざめたり赤くなったりして、信号機みたいになっていたよ。Tシャツがクリーム色だから、余計に分かったよ……」

 それだけ細かく覚えている程に、印象的な展開だった。その男子生徒は、高校時代から発明系の分野で有名であり、伊吹が社員に欲しがった。だから良いところを見せたのだと分かった。2年生からブロッコリー社のインターンに来いと言い、その子は乗り気になった。伊吹の発言に心を動かされたし、仕事内容に興味が引かれたからだ。伊吹はその場で連絡先を交換し、発明サークルのメンバーとも知り合った。その後、伊吹からぶっ放された話が問題だった。

「”これで優秀な人材を確保した。恩を売ったし、情の厚さを植え付けられた。サークルメンバーにも。……真羽。どうしてそんな顔をしているんだ?君の入社申し込みは拒んでいない。R&W社で腕を磨いて転職を受け入れする。個人の資質を見ているわけだ“って。ヒョーー……」

 一緒に学食へ向かっているメンバーが、ため息をついた。誰も言葉を出さなくなった。今日のランチイベントには、その男子学生も参加するから、とても気まずい。まだ伊吹のことをよく知らない状態だ。

「なつきーー。着いたよーー」

 いつの間にか”薄味”へ到着した。520席のうち、100席分を利用させてもらう。出入口には“ドイツ語クラス・ランチ会”という張り紙がしてある。それを見て気を取り直せた。

 悠人がミュージシャンモードに切り替わり、キリっとした空気感を醸し出している。自動ドアの向こうでは、絵理奈が司会者として動いている。そして、俺達に気づいて大きく手を振って来た。

(新しいTシャツだから、ヨレていない。パーカーも。大丈夫、大丈夫……)

 どうも落ち着かず、胸の鼓動が早くなった。自分の服装も気になった。ちゃんとレクチャーできるかという思いが浮かび、足が止まった。しかし、そうは言っていられない。近所の人に会うイメージをして、ドアをくぐった。

 ガーー-。

 学食の自動ドアをくぐった。さすがに今日は客席が賑わっている。ゴールデンウィーク明けには通学する生徒が減り、この学食内も静まり返る。混雑しているという滅多ににない光景を目にして、フレッシュな心地になった。悠人と森本が席を確保し、俺のことを見守っている。普段なら、テラス側の窓側テーブルに座るのに、俺の近くに座ってくれた。

「なつきー。ここに居るよ。黙って見ているからね」
「向こうで座っていてよ。いい天気だしさ。はいはい……」

 2人の荷物を取る仕草をして促したが、悠人が鼻息を荒くして首を振った。森本は我関せずで、新メニューをチェックしている。そして、新入生の流れを眺めては、歩くコースを確認している。俺のサポートをするためだ。
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