上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 17時。

 授業が終わった。あれから後、黒崎から心配する電話が入り、叱られずに済んだ。予想外の結果に安心した後、打った場所が痛くなった。そして、蝶探しから30分も経っていなくても休憩所に戻れと、黒崎から諭された。わらび餅アイスも用意するから、言う事を聞いてくれと。そこまで気遣われると、打っていない場所まで痛くなった。その時の会話を思い出した。今日は黒崎は歓迎会があるから、帰りが遅くなる。

(肘も痛むよ。打っていないのに……。昨日、拭き掃除中に打ったのかも)
(保健センターで診てもらえ。今日はタクシーで帰れ。……帰ったら、親父の家から一歩も出るな。土産を買って帰る)
(うん。マリーズカフェのナッツドーナツと、レーズンクリームサンドがいい。遅くなるなら、明後日でいいよ)
(一次会で帰る。役員連中か?向こうも多忙だ。……そう沈むな。心配しているだけだ)
(あの6文字言葉が欲しい……)
(帰った後だ。ナーバスにならないようにさせる。今日はEDENの発売日だ)
(せっかく思い出さないようにしてたのに。だって、怖いんだもん。そっか。前向きになれって事か。黒崎さん、大好きだよ~)

 休憩所のクーラーボックスと折り畳み机を片づけながら、繰り返し発売日のことを思い出していると、ぽつぽつと頬に何かが落ちてきた。

 湿った土の匂いと木の葉の音で、雨が降って来たことが分かった。悠人にレインコートを着るように促すと、持って来ていなかった。天気予報は晴れだったからだ。

「雨は降っていないよ?曇っているけど」
「そうかな?風に雨の匂いがするんだけど……。降っていないね。気のせいかな」

 まあいいか。降らない方がいい。机の上を布きんで拭いた後、日下たちが研究棟へ運んで行った。情報物理学科から借りてきたもので、生徒たちが運び入れを手伝い始めた。そして、掃除を済ませて解散になった直後、やっぱり雨が降って来た。空を見上げると、サーッと、大きな雲が流れて来た。

「ほらね~。自然の中に住んでいるから分かるんだ。整えてある庭だけど」
「君の特殊能力だよ。院生の先輩、山岳部なんだって。天気を読む人がビックリしているよ」

 正門の方へ振り向くと、森本とノアを見かけた。これから帰るのだろう。雨足も強まって来た。ノアが折り畳み傘を取り出したが、どうやら開きづらいようで、苦戦している。そばに行くと格闘していて、俺が挑戦した。

「ああー、骨の部分が調子悪いね。ここだよ。引っかかっているんだ」
「そうか。買ったばかりなのになー。これが本当の折りたたみ傘……」
「げええええっ。冗談を言うなよー。インテリジェンス風なのに」
「うひゃひゃ。はいはい。こっちで雨宿りだよ」
「理学部棟で傘を借りようよー。ふむふむ。あれー?」

 傘を借りに行っていると、背後から名前を呼ばれた。それは黒崎の声だったから、思わず声を上げた。そして、周りから注目を浴び、俺の方を見て納得して歩いて行った。いつも騒がしいからかも知れない。
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