上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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17-1 夏樹の誕生日

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 4月20日、土曜日。午前9時。

 今日は俺の誕生日だ。22歳になる。拓海さんのお墓参りは、明日行くことになった。朝から天気がいいから、テラスで洗濯物を干している。太陽と風の自然の中で乾かすのが好きだ。昨日まで雨続きだったから、久しぶりで気持ちいい。

 今日は夕方から出かけて、クラシックコンサートを聴きに行く。それまでに家事や絵本の連載分を仕上げて、のんびりと過ごす。黒崎とイチャつくのが楽しみだったのに、今月2回目の喧嘩をした。たぶん仲直りが出来るだろう。

「干した方が畳むのが楽だからねえ。これいいなあ。買ってよかった。クルクル回って、回転木馬メリーゴーランドみたい。俺達も回っているよ」

 くるくる回るタイプの洗濯物干しを、背の高いスタンドへぶら下げた。最近までまどろっこしいから使っていなかったが、店で見つけて気になって買った。パラソルハンガーZという。スーパーの隣に建った、新しいホームセンターで見つけた。

「たまにはウロつくのがいいね。新鮮なアイデアが出るし。絵本の構想にもいいし、歌の表現、歌詞の作成にも。黒崎さーん。そうだよね?」

 庭に出ていたはずなのに返事が無い。耳に痛いということか?欲しいものがあれば、ネットか電話をして届けてもらえ。そう言い切る人は、どこへ行ったのか。俺を外に出さないためだ。

 もう少し買い物に出かける回数を増やしてくれ。それを22歳の誕生日プレゼントにしてもらった。黒崎としては、出かけるのを面倒がっていない。危ないからという理屈は通用しない。2人で行くから危険が無い。

「愛されているんだよね。俺のことを見られたくないってさ。分かっているけどね?気軽に話せるからダメって。スーパーは近所の人しかいないじゃん。黒崎さーん。あんたは見られ放題だよねー?」
 
 先々週の歓送迎会から戻った夜、女性名の名刺が何枚も出て来た。ワタベ電機さんとばったり会い、お付き合いでクラブへ遊びに行ったそうだ。それには妬きようがない。お義父さんが通っている店であり、”末っ子坊やが立派になった”という扱いだと知っているからだ。お義父さんに連れて行かれた時に教えてもらった。その後、共通の取引先に会い、社交は一度に済ませておくから、ラウンジで飲んだそうだ。その時に渡されたいろんな名刺だ。

 黒崎はこうして色んな人から名刺をもらうのに、俺が名刺を渡されるのは気に入らないようだ。TDDの仕事の打ち合わせ後、軽く食事をする話になった。その店がラウンジ系だったから、俺には場違いかも知れないと思って面食い、そして、名刺を受け取った。もちろん黒崎に見せてある。

「黒崎さーん。本当にいないなあ?アンもいない。もう……」

 張り付いている人が居なくなると、どうも手持ち無沙汰だ。残りを干し終えて、彼らを探しに行った。リビングにいないし、畑周辺にも見当たらない。ぐるっと一周して玄関へ入ると、黒崎が出て来た。俺のことを探していたと言われた。

「俺も探したんだよ。リビング、畑、煉瓦道。呼んだんだよ?」
「完全なすれ違いだな。どうしてそう拗ねているんだ?探しに行っただろう」
「声をかけてよ。心配したんだ」
「喧嘩中だ。相手にして貰えなかった。機嫌を直してくれ」
 
 黒崎から謝られて抱き寄せられた。そろそろ許してもいいから大人しくした。背中に両手を回して抱き返し、たくましい胸もとに顔をすり寄せた。なんせ2日半ぶりの距離に気分がほぐれた。

 ふいに顔を持ち上げられて、唇を啄むようなキスをされ始めた。もう避けないから身を任せると、角度を変えながら深まってきた。

「んん……、息ができないよ。待ってよ。ふう……」
「リビングとベッド、どちらがいい?」
「どっちも嫌だよ。仲直りしたもん。夜まで待ってくれないの?」
「まだ怒っているのか。……今夜はコンサートに出かけるだろう。焦らしているのか?」
「だったら明日にするよ。早く眠くなるかも知れないけど?」
「出かけるまで休んでおけ。疲れが出てくる頃だ」

 とても休ませてもらえそうにない。頭を撫でていた手が下りて行き、腰を撫でながら壁に体を押し付けられた。身じろぐと手を握られて、誘うように微笑まれた。誕生日を祝うと言いながら。
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