上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 昨日の夜、おすそ分けのお礼を渡しに行った時に、黒崎が風邪を引いたことを話した。一貴さんがいるから、何かあっても心強い。そして、母ぐらいの年齢の女性が近くにいると安心する。

「圭一君の熱はどう?疲れが出たんでしょう。ひと段落が着いた後だから……」
「昨夜よりも下がったよ。38度近いけど」
「咳は出ているかしら?……この蓮根を食べてね。もっちりして美味しいのよ。すりおろしても、喉に通りやすいでしょうから」
「いつもありがとう。……遠藤さんも風邪を引いたんだね。気温差があるから」
「夏樹君も気をつけないと。悠人君が様子を見に来てくれるから、元気になりそう。そっちに寄るかも」
「うん。話していたよ」

 じゃあねと手を振り、佳代子さんが家へ入って行った。悠人が遠藤夫妻と養子縁組をしたことで、一気に家が賑やかになったそうだ。親子になり、遠慮なく家に呼べると喜んでいる。うちに寄ったときは、一貴さんが文字どおりに悠人に引っ付いている。見ていて面白いぐらいで、黒崎が呆れている。妙な兄貴がすまないと言いながら。

 今日は大学の授業が入っておらず、仕事の予定もない。タイミングが良かった。リビングのテラスから外を眺めると、あの池が見える。いい景色になりそうだ。黒崎もリラックスするだろう。

 キッチンへ入って朝ごはんの支度を始めると、朝の情報番組が流れ出した。星座占いが始まり、12匹のウサギが走り出して、射手座が一着ゴールを決めた。

「やったーー。後で教えてあげようっと。そうだ、今日で3年目だった……」

 この家に引っ越して来たのが、3年前の今日だ。カレンダーアプリを見ると、たしかに今日になっている。こうして記念日を入れてある。ただし多すぎるから、すぐに探せない。

 朝ごはんの方が先だ。もうすぐで黒崎が起きて来るだろう。そう思っていたら階段から音がして、黒崎がキッチンへ入って来た。わりと顔色がいいから良かった。

「おはよう。よく眠れたみたいだね?咳が出なかったから」
「午前中に御園クリニックへ行く」
「わあー、えらいね。自分から言い出したね~」
「心配そうな顔をさせたくないからだ。来月は出張もある。アン、心配するな」

 黒崎がアンのモコモコの毛を撫でて、ひと息ついた。リボンが曲がっているぞと直し始めたのを見て、吹き出して笑った。そして、俺の方を向いて頬を引っ張って来た。大きな差がある。

「アンが心配しているからだ」
「これでも飲めよ~。遊ばないでさ。ジンジャーシロップだよ」

 マグカップを渡してソファーへ連れて行き、星座占いの結果を教えた。今日の運勢は一位で、ラッキアイテムは、紺色のグッズだ。

「黒崎さん。あのTシャツを着たら?紺色だし。似合っていたよ」
「ああ。そうしようか」

 あのTシャツを着ろと勧めた後、強引に隣へ座らされた。頭を撫でられながら見上げると、黒崎が熱っぽい目していた。早くベッドへ戻らせよう。クリニックはまだ開かない。
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