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キッチンへ入り、ほうじ茶の入った缶を開けた。買ったばかりだから香りがいい。一口サイズのカステラを用意していると、黒崎が降りて来た。すっかり体調が良くなり、見るからに元気だ。
「……お疲れ様。イベントの段取りか?」
「うん。マップの全体を頭に入れておいたよ。危ない男の人を、先月の学祭でも見かけた話を聞いたんだ。やっていることが似ているよ」
「同じ奴の可能性が高い。同性だから警戒心が薄れる」
「今回のイベントは出店が出て、誘いやすいからね。危機管理?大袈裟だよ……」
「それが大事だ。チームワークもいい」
「うへへ……。いたたた!」
珍しく褒められて照れくさい。黒崎のことを叩くつもりが、カウンターへ手が当たってしまった。避けられたわけではない。黒崎が苦笑している。ばかやろうと言わないだけ成長したようだ。
「角が丸いから助かったよー」
「見せてみろ。……ささくれが出来ている。手入れをしてやる」
「明日でいいよ。ゆっくり寝ようよ。……そういう意味じゃないよ。あ、そうだ。イベントの時、ウロついてもらえないかな?あんたが通りかかったら、変なことが出来ないもん。知り合いの子じゃなくても。つねるなひょ……」
「オフィスで言われたばかりだ。インターン会場に張りつけと。田所常務からだ」
笑いを堪えないと、もっと意地悪をされるだろう。お茶を持って行くふりをして背を向けると、耳たぶへ歯を立てられて、ぶるっと震えた。
「意地悪を言う子だ……」
「黒崎さんっ、だめだって……」
狼狽える間もなく首筋へ吸い付かれ、肩へも軽く噛みつかれた。後ろから両腕を回されて抜け出せない。足のかかとで押しのけたところで、やっと離してもらえた。意地悪そうに笑っているが、言い返さずにしておいた。
リビングへ移動した。ほうじ茶を飲みながら会場マップを眺めていると、細かく対策を取っていると感心された。去年のマップと比べると、よく分かるそうだ。
人の流れから外れた場所に休憩所を作り、理学部棟の裏側へ行かないようにもしてある。ここが一番危ない場所だ。
「なるほど。行かない仕組みだ。”行けない”、じゃない」
「うん。神仙教授の相談コーナーを用意したんだ。レポート課題のこと、理学部内での悩み、漠然とした不安のこと。高校生も歓迎だよ。パーテーションを置いて、人目に配慮したよ」
相談コーナーのイメージは応接室だ。重厚なソファーセットは、理学部長室から借りて来る。冷蔵庫やポットも置くから、居心地のいい場所になるだろう。
神仙教授としては、普段通りのデスクワークができる。たまに話し相手が来る。イベントに張り付く仕事も担当できる。いいことづくめだ。切羽詰まった学生でないと近づくことが無い。そういう空気を醸し出した人だからだ。
「神仙教授に会ったことがあるが、そこまで嫌われる人か?」
「最初はそうだよ。4年生は嫌っていないはずだよ。このバリケード設置ができたから良かった……」
「そうか。明日は収録があるだろう?……もう寝ておけ」
パソコンを閉じて、テーブルの上の片づけを手伝ってくれた。明日と明後日は忙しいからと、何かと甘やかされた。それを悪くないと思ったのは、図々しくなったからだ。
「……お疲れ様。イベントの段取りか?」
「うん。マップの全体を頭に入れておいたよ。危ない男の人を、先月の学祭でも見かけた話を聞いたんだ。やっていることが似ているよ」
「同じ奴の可能性が高い。同性だから警戒心が薄れる」
「今回のイベントは出店が出て、誘いやすいからね。危機管理?大袈裟だよ……」
「それが大事だ。チームワークもいい」
「うへへ……。いたたた!」
珍しく褒められて照れくさい。黒崎のことを叩くつもりが、カウンターへ手が当たってしまった。避けられたわけではない。黒崎が苦笑している。ばかやろうと言わないだけ成長したようだ。
「角が丸いから助かったよー」
「見せてみろ。……ささくれが出来ている。手入れをしてやる」
「明日でいいよ。ゆっくり寝ようよ。……そういう意味じゃないよ。あ、そうだ。イベントの時、ウロついてもらえないかな?あんたが通りかかったら、変なことが出来ないもん。知り合いの子じゃなくても。つねるなひょ……」
「オフィスで言われたばかりだ。インターン会場に張りつけと。田所常務からだ」
笑いを堪えないと、もっと意地悪をされるだろう。お茶を持って行くふりをして背を向けると、耳たぶへ歯を立てられて、ぶるっと震えた。
「意地悪を言う子だ……」
「黒崎さんっ、だめだって……」
狼狽える間もなく首筋へ吸い付かれ、肩へも軽く噛みつかれた。後ろから両腕を回されて抜け出せない。足のかかとで押しのけたところで、やっと離してもらえた。意地悪そうに笑っているが、言い返さずにしておいた。
リビングへ移動した。ほうじ茶を飲みながら会場マップを眺めていると、細かく対策を取っていると感心された。去年のマップと比べると、よく分かるそうだ。
人の流れから外れた場所に休憩所を作り、理学部棟の裏側へ行かないようにもしてある。ここが一番危ない場所だ。
「なるほど。行かない仕組みだ。”行けない”、じゃない」
「うん。神仙教授の相談コーナーを用意したんだ。レポート課題のこと、理学部内での悩み、漠然とした不安のこと。高校生も歓迎だよ。パーテーションを置いて、人目に配慮したよ」
相談コーナーのイメージは応接室だ。重厚なソファーセットは、理学部長室から借りて来る。冷蔵庫やポットも置くから、居心地のいい場所になるだろう。
神仙教授としては、普段通りのデスクワークができる。たまに話し相手が来る。イベントに張り付く仕事も担当できる。いいことづくめだ。切羽詰まった学生でないと近づくことが無い。そういう空気を醸し出した人だからだ。
「神仙教授に会ったことがあるが、そこまで嫌われる人か?」
「最初はそうだよ。4年生は嫌っていないはずだよ。このバリケード設置ができたから良かった……」
「そうか。明日は収録があるだろう?……もう寝ておけ」
パソコンを閉じて、テーブルの上の片づけを手伝ってくれた。明日と明後日は忙しいからと、何かと甘やかされた。それを悪くないと思ったのは、図々しくなったからだ。
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