上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
307 / 514

21-33

しおりを挟む
 高校時代を思い出した。登校中に正門まで男から追いかけられたのは、今の自分にとっては面白い思い出だ。変な大人から興味を持たれた経験は、ケースによっては笑い話にできる。雑誌のインタビューでも、先輩ミュージシャンが似た話をしているのを読んだ事がある。

 高校時代よりも、視野が広がった。芝生の上で両手をついて座ったままで、黒崎と達也のことを眺めている。俺は強くなったのか。すると、達也が黒崎に言った。

「どんなことか聞かないんですか?他にもあります」
「興味がない」
「今は違う人間だってこと?それが何だよってー?何をされたのかも覚えていないの?」
「それ以上でも、それ以下でもない。……すれ違ったぐらいでも、外見を覚える。忘れるかもしれないが、再会時に思い出すだろう」

 達也の表情から笑顔が消えた。黒崎の方は淡々としている。何を言っているのかと、呆れ半分といった感じだ。一貴さんが考える仕草をしながら見守っている。そして、達也がイライラしている。

「……夏樹君!君の中で、俺は居ないの?こっちはそうじゃない。……君が知っている字の名前が使えなかった。3回目の逮捕だと、経歴も変えたくなった。周りから変えさせられた。君のせいだよ!警察に喧嘩じゃないって言ったから、面倒なことになった。夏樹君、君のことを知っているよ」
「……黒崎さん。俺の方から答えるよ。おしまいにしたいからさ」

(俺の方こそ、上から土を被せていたんだ。どっかで怖がっている。これをクリアしよう……)

 無視することはできない。目の前の事実を乗り越えたい。どんな用なのか?それを聞くだけで構わない。

 ショールを取り、悠人達から止められても、黒崎の元へ行った。達也の顔が違うから、整形したのか?記憶違いなのか?どうでもいいことだ。

「夏樹君、やっぱり君だったのか。久しぶりだね。覚えているだろう?」
「……達也君だっけ?」
「そうだよ。デビューした時は驚いたよ。インターンシップで一緒になったけど、声をかけられなかった。途中で帰ったから。佐伯君と友達になったよね?その時、同じ会場に居たんだよ」
「うん、それで?」
「……近くにいたんだ!」
「そう、近くにいたんだね」
「……っ」
「今も近くにいるね。……あの当時の件は、解決済みだよ。示談が成立した。お詫びの手紙を受け取って、納得したからだよ。もう、あんなことをしちゃダメだよ?俺から言えるのはこれだけ……、あ……」

 するとその時だ。日差しが降り注ぎ出した。眩しくて目を細めると、一瞬ぼやけた視界の中に、達也の姿が見えた。後ろ姿だ。静かに立ち去っていく姿を見つめた。

 彼との事は笑い話に出来ない。それで構わない。また夢に見るかもしれなくても、前よりマシだろう。俺のことで噂を広められたところで、大したことは無いだろう。しかし、そうではないかもしれない。

 万理に起きた事件のことは広めたくない。万理は随分と強くなり、俺が表に出る仕事をすることに賛成してくれている。達也は万理のことも言いたかったのだろう。

 また争いの日々が待っているのだろうか。その時は、俺はどんな反応をするのだろうか。今の自分は22歳だ。多少は成長しているはずだ。受け止めたい。ここには仲間がいる。達也から俺のことを守ってくれた。

「暑くなったね。ふうー。え、これって……」

 背中が冷たくなっていたのに、今度は暑くなり、手元にあったもので顔を扇いだ。それは、”漠然とした不安”という紙だった。帰って来たのか。新しい不安に襲われた俺のことを見て、みんなから笑いが起きてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

好きです、今も。

めある
BL
高校の卒業式に、部活の後輩・安達快(あだち かい)に告白した桐越新(きりごえ あらた)。しかし、新は快に振られてしまう。それから新は大学へ進学し、月日が流れても新は快への気持ちを忘れることが出来ないでいた。そんな最中、二人は大学で再会を果たすこととなる。 ちょっと切なめな甘々ラブストーリーです。ハッピーエンドです。

処理中です...