上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
331 / 514

22-21

しおりを挟む
 昨日からどうしたんだろう?出張に出る前日はイチャつくし、帰った日の夜も触れ合う。今日の黒崎は普段に増して強引な感じがある。魅力的だと思った分だけ、ニヤけた顔が元に戻らない。顔全体が熱くなった。湯気が出そうだ。

 悠人から促されて歩きつつ、保冷剤を包んだタオルハンカチで顔を覆った。今日の湿気と体温で、すぐに溶けそうだ。

「なつきー。転ぶよ。仲のいいのは良いことだよ」
「うん。たまにはいいなって。出張先から電話って、離れている分ね……。帰って来なくていいよって思わないよ?」
「それは聞いていないよー。カズさん、夏樹の手を引いてよ、危なっかしいからさー」
「えーっとね、うへへ」

 照れくささを隠したくて、あれこれと言い訳を思い浮かべた。なんとか平常心を保とうにも、愛しているという低い声を思い出して、胸の鼓動が高鳴りっぱなしだ。自分から促したとはいえ、不意打ちの囁きだ。

 近くの駐車場へ到着し、一貴さんの車に乗り込んだ。ユリウスが座る専用のクッションがセットされていて、身体を支える仕組みになっているから、スゴイと思った。一貴さんが最近作ったやつだ。しかし、当の本人は座ろうとしない。

「そうだ、長谷部さんの用事って何か聞いた?迎えに来れないって、珍しいからさ」
「桜木さんのことで、音楽関係からIKUへ問い合わせが入ったんだ。ミーティングするんだよ。バンドコンテストの動画アップが出て来たんだって」
「黒崎製菓の社内でも広まっているよ。開発部へ行った時に聞いたんだ。仕事の引き継ぎの話が出たからだよ」

 聡太郎のTDDへの正式加入が決まり、本人と契約を結ぶ段階になった。それに合わせて、退職日と仕事の引継ぎを話し合う。アマチュアバンドの間では、聡太郎は有名になっていたから、たくさんの動画があるだろう。

 今の自分には、何ができるだろう?久弥が引退した3月から、大和と聡太郎がメンバーとして活動する計画だ。ミュージシャンとして、アルバム収録に参加するし、ステージ練習も重ねていく。普段通りにしようと思っても、それが分からない。それを話すと、悠人も同じことを思っていた。

「久弥のファンの中には、後任を認めないっていう人もいるはずだよ。俺達が、どんと構えていればいいんだよー。それから、俺の方もギタリスト祭典で認められると、安心できるんだ!」
「ゆうとー。ポジティブにならなくていいよ?繊細でもOK、失敗してもOK。ヴィジブルレイのラストコンサートなんて、ファンから笑いが起きたんだよ?TDDの曲ですけど、今やりまーす!っていうくだりで。盛り上がったよね?」
「おおーー、恵まれているよ。漠然とした不安を抱えないように、やっぱり俺がギタリスト祭典で認められたら……。あああーー」
「ゆうとー。そうネガティブになるなって。新しいスタートなんだよ?大和と聡太郎君が入って楽しいからね。そういうことだよ。うんうん」

 こういう時は、俺の方が別の事をするといい。悠人のモヤモヤした思いが空振りになって、良い意味で方向性を失うからだ。

 さっそく、ドイツの観光スポットのページを開き、二葉へ見せる分を準備した。食べることが好きだから、悠人の意見を聞いてみよう。

 そこへ、長谷部さんからラインが入った。久弥と伊吹のコラボが公式発表されること、伊吹の担当楽器がタンバリンに決まったと書いてあった。そして、音楽性というよりも、中山社長という存在感で勝負するそうだ。いかにも本人らしくて、変な汗をかいてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...