上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 午前6時半。

 朝の光が差し込んでいる庭に出た。夏真っ盛りだというのに涼しい。話した通り、朝ご飯は空港へ向かう途中で食べることになった。たしか、ランチタイムで入ったことがある。中庭に面したテラスがあったが、あの日は雨だったから選べなかった。今日は天気がいい。

 昨日は黒崎が定時に帰って来た。とにかくお腹が空いていて、晩御飯の後、夜食も食べていた。今朝はまだお腹が空いていないわけだ。俺も付き合った。

 畑で水やりを済ませた。九条ネギとトマトが生き生きと育っている。5月に植えたナスもよく育ち、また収穫ができそうだ。15本の苗から何個も実り、食べるのが追いつかない時期もあった。この環境がいいからだ。

「黒崎さーん。明日は揚げナスの煮びたしを作るからさ、ランチは気をつけてね」
「ああ。覚えておく。いわゆるコンプリートだった」
「面白かったね、先週の献立。うへへ」

 黒崎の昼ご飯と、我が家の晩御飯の献立が見事に重なっていた。チキン南蛮、スパニッシュオムレツ、あさりのスープパスタ。鶏肉のトマト煮込みも重なっていた。チキン南蛮はめったに作らないのに。

 カレーは香辛料の匂いが付きやすいからと、ランチミーティングでは避けている。その日、食べたいなと思ったそうだ。そこで、うちへ帰って来ると、晩御飯がカレーだったわけだ。それが面白くて、先週は毎日晩御飯を作った。黒崎から無理をするなと言われつつも。

「……昨日言ってた話だけど。料理を覚えたいの?スープご飯づくりが出来るようになったじゃん。十分だよ?」
「鮭フレークをかけただけだ。ほとんどお前が支度しただろう」
「スープを温めて、茹でアサリと、ネギを入れて作ってくれた日があったよ?下ごしらえ済の材料だけど。うんうん」
「いやなのか?散らかるのか?」
「うんっ。……冗談だよ。卒業した後が心配?どんなスケジュールなのか掴めていないけど、今より忙しくないと思う。大学がない分ね。いきなり詰め込まないよ」
「それまでに調整しておこう。ハウスクリーニングを頼んでおく。夏と冬の年2回のままか?……いいや、譲らない。もっと増やす」
「好きなんだよ~、掃除するのが。ステンドグラスも磨くんだ」
「……水回りとテラス周辺でどうだ?二か月に一度でも構わない。これは言うことを聞いてくれ」
「うん……。そうするよ。ありがとう」

 音楽の仕事は詰め込んでいない。華々しく表に出るのではなく、コツコツと経験を積み上げていく活動を選んだ。年数が経つごとに、歌もステージもよくなるミュージシャンを目指している。当時を振り返って、“下手くそだ"と恥ずかしくなるぐらいになりたい。

 すると、黒崎がまぶしそうに目を細めて、ある方向を眺めた。池のそばに建てた噴水コーナーだ。この庭の住人として馴染んだ。

 腰の辺りまでの高さなのに、実際に水を通すと高く見える。堀の部分は広くしなかった。こじんまりした、池のそばにあるモニュメントといった風だ。

 子供時代の黒崎が勇気と好奇心を出して、ナツツバキが生い茂る向こうへ進むと、あの噴水を見つけられただろう。やや暗かったそうだから、怖かったかもしれない。今のタイミングでよかったのかな。聞いてみよう。
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