上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 何か言われるだろうか。ここで目をそらすと、いかにも見惚れていましたと言っているようなものだ。冷涼マットが気持ちいいという口実で寝転がり、反対方向を向いた。笑われてもかまわない。

 ギシ……。

 背後の気配が動いて、背中全体が温かくなった。首筋へ息がかかり、キスをされているのが分かった。さらにパジャマの中に手がもぐり込んできて、わき腹と胸元、鎖骨へと撫でられた。その間も耳元で息をされて、身体がぞくっと震えた。

 今日は二葉を空港へ見送りに行くから、だるい感じになりたくない。イチャついた後の気だるさが長く続くからだ。動きづらくないのに。

「あのさ、本当にマズいから。恥ずかしいから」
「普通にしているじゃないか。終わった後はダルそうにしているが」
「長く続くんだよ~、ああー、もう。変なことを言わすなよ」

 人のせいにした自覚はある。今更こういう話題を出す自分が不思議だ。黒崎のことをオヤジだと言い続けているのに。上半身裸で門の外へ出るし、下着だけで家の中をうろつくことも珍しくない。そして、今は別の意味で狼狽えている。

(黒崎さんは知っているんじゃないかな?どんな理由か答えを……。何か変えたのかな?触り方とか、色気を出しているとか……)

「あんたに狼狽えているよ。今だよ……」
「俺には分からない。お前の心の中のことだ」
「すぐに見抜くのに?嘘をつけないし。笑っているじゃん~。ああ……」
「引っかかたな。やっとこっちを向いてくれた」

 自分の方から黒崎を見上げている。簡単に手を握られて、逃げる動きを止められた。手首に唇を押し当てて軽く歯を立てて吸い付かれた。それが二の腕まで上がっていく。

 舐めるなら、アイスクリームにしてもらいたい。ムードを台無しにできるだろう。これも俺らしくない気がする。うっとりするような触れ合いを望んでいるのに。どうしてだろう。

「アイスクリームを舐めてよ……っ」
「ムードを壊しているのか?無駄だ。ますます燃え上がる」
「変態だねー、どういう心境の変化……、変なことを……」
「恥ずかしがらせたい。優しいだけでいいのか?」
「うん、激しいのは嫌だよ。しないけど……」
「そういうことはしない。嫌がることもしない。したくない」
「もう……。意地悪をしたいだけって?」

 おいで。少しかすれた低い声が響いた。まだ完全に目が覚めていないようだ。もう一度、黒崎の胸の上に寝かされた。腰回りを撫でていた手が止まり、すまないと謝られた。

(大切にされているなあ。俺もだよ……)

「まだ起きなくて構わないだろう?空港へ行く途中で、朝食を取ってもいい」
「どこで食べる?二葉が一貴さんの車で行くからさ。先に誘っておこうよ」
「……二人で行きたい。やっと休める」
「黒崎さーん。可愛いなあ。うへへ」
「あの二人は騒がしい。朝から聞きたくない」
「あんたねえ。俺の胸キュンを返せよ。んん……」
「こういう返し方はどうだ?……逃げるな」
「黒崎さん……」

 なんて甘い眼差しだろう。静かに髪の毛をかき上げて、左側の額をペロッと舐められた。くすぐったい。これ以上寝転がっていると、本気になりそうだ。

「……うまく逃げたな」
「頬っぺたにチュッて。それだけだよ?あ、明るくなってきたよ」

 窓の外から朝の光が差し込んできて、さーっと室内が明るくなった。おはようと挨拶し合って、一緒に寝室から出た。
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