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24-12(黒崎視点)
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午前10時。
羽田空港の国際線ターミナルに到着した。12時半のフランクフルト空港行の便で、二葉が出発する。直行便を手配したのは、もう後戻りができない意識を持たせるためだ。前を向いて進んで行けという意味だ。さっきの店で夏樹から指摘され、自分に置き換えて考えていることを自覚した。
(旅行先から帰るのは当たり前だ。こうも心配になる理由が分からない。俺が中学生なら喜んで行くぞ。土産は何がいいのか、拓海兄さんに聞いて……。ああ、そういうことか……)
黒崎家を出て行った日のことを思い出した。国内線の搭乗入り口まで、拓海兄さんに付き添われた。烏丸の祖父が空港へ迎えに来て、同じ便で向こうへ出発した。家を出る時から新しい家へ着くまで、俺は一人で歩いていなかった。それでも、3人で向かい合わせで話していた時、漠然とした不安を抱えていたはずだ。
(……烏丸さん。圭一のことを、よろしくお願いします)
(月に一度、そちらへ戻らせます。アップライトのピアノがあるぞ。グランドピアノは置けなかったが)
(ありがとう!ピアノが弾けたらいいんだ。おじいちゃん、よろしくお願いします)
(よろしく。うちの家は海が近いから気持ちがいいぞ)
(よかったな。いつもの圭一は、どこへ行った?……すみません。この子は引っ込み思案な面があります)
(そんなことないよ!向こうで友達ができるよ。今はいないけど……)
(そうか。中学校は近所だ。友達が遊びに来やすい。すぐにできるぞ)
ああいう会話をしたはずだ。烏丸の祖父母には可愛がられた。親せきの集まりに出たことは、一度もなかった。10代の自分が面倒がったからだと思っていたが、あえて出席させなかったのだと理解した。"母親に捨てられた圭一"というのが、俺に対する評価だった。
いずれは黒崎家に戻るなら、どうして預かるのか?と、親せきや知人から聞かれたことも知っている。その集まりから遠ざけたのは、祖父母からの愛情だということも理解した。可哀そうなどとは思われたくなかった。
(二葉が可哀そうだと同情した。失礼だった……)
二葉のことは、母と再会した後からしか知らない。子供時代のことは、話の中から想像するしかない。普段の物の言い方と、普段の姿を見た上でのことだ。前を向いて歩いて来たことだけは事実だ。
空港内のアナウンスが響く中、手荷物預かりカウンターへと、急ぎ足で向かう姿が横切った。その中に、20代のスーツ姿の男性が目に留まった。どこかへ電話をかけている。相手が目の前にいないが、頭を下げている。国内の商談相手か、これから向かう相手に対してなのか。電話を終えた後、即座に前を向いて歩き始めた。
「黒崎さーん。あんたねえ。そんなに心配なら言っておけよ。なるべくバーテルス家の人と出かけろって。毅然とした態度で歩けとか。痴漢に遭わないようにさ」
「なんだと?それは娘じゃないか。そういうものだろう?」
「うん。会食で話題に出るんだね?あんたの発想にあるなら。……すぐに切り替えができないよ。俺でもそうだもん。二葉が女の子だからって、遠慮するときがあるんだ」
「お前がか?……そうかもしれない」
「うへへ、違うよーー。あんたが俺に対して言っていることだよ?……二葉には違う見方だけど。まだ子供だから心配しているってことだよ。伊吹お兄ちゃんと同じじゃないかな?……俺のことが、中学生に見えているそうだよ。ステージ立っているのを見て、色んな事を乗り越えた男の顔を見せてくれって言い出すんだ。……ええ?お兄ちゃんも一緒に行くの?」
「伊吹君は帰って来たばかりだ。見送りに来たのか。ありがたい」
「ふうーん?」
何気なく口にした言葉に反応して、夏樹から微笑みかけられた。そして、前を向いて顔を赤くした。伊吹が二葉に抱きつき、師匠を忘れるなと大声をかけているからだろう。そばには、理久と北岡さんの姿もある。
理久が不機嫌な顔になり、ノアと仲良くするなと言い出した。北岡さんが苦笑いした。ノア君には好きな人がいるのにと言いながら。二葉が笑って頷いている。
今の環境に根差しているということだ。いつか花を咲かせるだろう。その日が来るのを待っている。夏樹の手を強引に引いて、彼らの元へ向かった。小さな抵抗を感じながら。
羽田空港の国際線ターミナルに到着した。12時半のフランクフルト空港行の便で、二葉が出発する。直行便を手配したのは、もう後戻りができない意識を持たせるためだ。前を向いて進んで行けという意味だ。さっきの店で夏樹から指摘され、自分に置き換えて考えていることを自覚した。
(旅行先から帰るのは当たり前だ。こうも心配になる理由が分からない。俺が中学生なら喜んで行くぞ。土産は何がいいのか、拓海兄さんに聞いて……。ああ、そういうことか……)
黒崎家を出て行った日のことを思い出した。国内線の搭乗入り口まで、拓海兄さんに付き添われた。烏丸の祖父が空港へ迎えに来て、同じ便で向こうへ出発した。家を出る時から新しい家へ着くまで、俺は一人で歩いていなかった。それでも、3人で向かい合わせで話していた時、漠然とした不安を抱えていたはずだ。
(……烏丸さん。圭一のことを、よろしくお願いします)
(月に一度、そちらへ戻らせます。アップライトのピアノがあるぞ。グランドピアノは置けなかったが)
(ありがとう!ピアノが弾けたらいいんだ。おじいちゃん、よろしくお願いします)
(よろしく。うちの家は海が近いから気持ちがいいぞ)
(よかったな。いつもの圭一は、どこへ行った?……すみません。この子は引っ込み思案な面があります)
(そんなことないよ!向こうで友達ができるよ。今はいないけど……)
(そうか。中学校は近所だ。友達が遊びに来やすい。すぐにできるぞ)
ああいう会話をしたはずだ。烏丸の祖父母には可愛がられた。親せきの集まりに出たことは、一度もなかった。10代の自分が面倒がったからだと思っていたが、あえて出席させなかったのだと理解した。"母親に捨てられた圭一"というのが、俺に対する評価だった。
いずれは黒崎家に戻るなら、どうして預かるのか?と、親せきや知人から聞かれたことも知っている。その集まりから遠ざけたのは、祖父母からの愛情だということも理解した。可哀そうなどとは思われたくなかった。
(二葉が可哀そうだと同情した。失礼だった……)
二葉のことは、母と再会した後からしか知らない。子供時代のことは、話の中から想像するしかない。普段の物の言い方と、普段の姿を見た上でのことだ。前を向いて歩いて来たことだけは事実だ。
空港内のアナウンスが響く中、手荷物預かりカウンターへと、急ぎ足で向かう姿が横切った。その中に、20代のスーツ姿の男性が目に留まった。どこかへ電話をかけている。相手が目の前にいないが、頭を下げている。国内の商談相手か、これから向かう相手に対してなのか。電話を終えた後、即座に前を向いて歩き始めた。
「黒崎さーん。あんたねえ。そんなに心配なら言っておけよ。なるべくバーテルス家の人と出かけろって。毅然とした態度で歩けとか。痴漢に遭わないようにさ」
「なんだと?それは娘じゃないか。そういうものだろう?」
「うん。会食で話題に出るんだね?あんたの発想にあるなら。……すぐに切り替えができないよ。俺でもそうだもん。二葉が女の子だからって、遠慮するときがあるんだ」
「お前がか?……そうかもしれない」
「うへへ、違うよーー。あんたが俺に対して言っていることだよ?……二葉には違う見方だけど。まだ子供だから心配しているってことだよ。伊吹お兄ちゃんと同じじゃないかな?……俺のことが、中学生に見えているそうだよ。ステージ立っているのを見て、色んな事を乗り越えた男の顔を見せてくれって言い出すんだ。……ええ?お兄ちゃんも一緒に行くの?」
「伊吹君は帰って来たばかりだ。見送りに来たのか。ありがたい」
「ふうーん?」
何気なく口にした言葉に反応して、夏樹から微笑みかけられた。そして、前を向いて顔を赤くした。伊吹が二葉に抱きつき、師匠を忘れるなと大声をかけているからだろう。そばには、理久と北岡さんの姿もある。
理久が不機嫌な顔になり、ノアと仲良くするなと言い出した。北岡さんが苦笑いした。ノア君には好きな人がいるのにと言いながら。二葉が笑って頷いている。
今の環境に根差しているということだ。いつか花を咲かせるだろう。その日が来るのを待っている。夏樹の手を強引に引いて、彼らの元へ向かった。小さな抵抗を感じながら。
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