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19時半。
イベントがオープニングを飾り、一時間が経った。控え室内にあるモニターではステージの様子が流れていて、植本さんと羽音さんのコラボ演奏が進行中だ。植本さんがヘヴィメタル以外のジャンルを弾くのは珍しい。
他の控え室では、モニターにくぎ付け状態になっている人だらけだ。このTDDの控え室内も同じだ。集中できないという状況でも。
大和が聖河さんから逃げている。病院に行きたくないからだ。もう15分以上も説得を受けている。上半身の動きの鈍さがあるという。病院で検査を受けさせるのは念のためであり、極度の肩こりが原因だろうという見立てだ。7月初めからアルバム収録に入り、それに並行してスタジオ練習を積んでいる状況だ。
「山岸先生ーー。病院には行きたくないので!」
「念のための検査だよ。IKUエンタテイメントから指示が出たので、受診してください。2時間以内に病院を出られる。来週の月曜にしましょう。……長谷部さん。よろしいでしょうか?」
「はい。了解しました。私が大和君を連れて行きます」
「長谷部さん。俺はーー」
「……大和君。一人で来るのか?」
聖河さんが本気で大和に声をかけた。大和が言いたいのは、”付き添いが恥ずかしい”という意味だ。それを別の意味に受け取り、真面目な顔をして長谷部さんを見た。これならよろしいでしょうか?と。
一体どんなアイデアが飛び出してくるだろうかと、俺と悠人も黙って見守った。すでに面白い人だとチーム内で認識されていて、ちょうど入って来たスタッフまで立ち止まった。
「……大和君。お父さんに付き添ってもらおう。一番安心できるね?……今から連絡を取っていただけませんか?急には無理でしょうから」
「あらーー。お父さんに来てもらいたいのー?」
「それなら一人で行きます!……いえ。長谷部さんにお願いします」
パチパチパチ!
自然と室内から拍手が起こった。スタッフさん達が部屋から出ていき、廊下にいた黒崎が入ってきた。ついさっき枝川さんが到着して、黒崎と早瀬さんとで話していた。それが終わったようだ。
早瀬さん達は入らずに、向こうの方へ歩いて行った。室内の様子を見届けた後で。これから理久のところに行くのだろう。枝川さんの迎えを待たせている。しかし、理久は会いたくなさそうだったという。
明日は二葉とツインで誕生日だから、理久には帰るときには笑っていて欲しい。たぶん、ここにいる間に日付を超える。悠人が黒崎に声をかけて、出番が終わった後で様子を見に行くと言った。
「大勢が行ったら……、気分が変わると思うので。理久はどこで待っていますか?」
「久弥さんの控え室に移動した。一貴と二葉が一緒にいるから、枝川が入ってきても平気なはずだ」
「うひぇー。あの二人は連れ戻した方が。わわわっ、すみません」
「……怪しい男がいたら枝川が焦る。いい薬だ」
「黒崎さーん。何があったの?」
「喧嘩だ」
黒崎の笑顔を見てほっとした。枝川さんと喧嘩していることは、理久から聞いた。不安定な気分になっている時だから、それ以上は聞かないようにしていた。話したがってもいなかった。
そして、黒崎から事の真相を教えてもらい、複雑な気分になった。枝川さんが大学時代の友達に誘われて飲みに行ったら、合コンの席が用意されていたそうだ。恋人がいてもいいから、カッコいい人が来ると盛り上がるからだという理由だ。俺でも嫌な気分になる。悠人が苦虫を潰したような顔になった。
「げええええっ、それは嫌ですよーー」
「うんうん。その場で帰って来たんだよね?その友達に文句を言えるもん」
「……いや。気を遣って、最後までいたそうだ。それを、理久君が営業企画部に寄った時に小耳に挟んだ。タイミングが悪い」
「ひいいいいっ、サイアクだーー」
「黒崎さーん。タイミングが悪い発言っていうのは?どういうことだよ?それ自体が悪いことだってニュアンスじゃないよね。……どうして笑うんだよ~。ふん」
黒崎は困った顔をしなかった。肩を揺らして笑いながら、聖河さん達の方を向いた。怖いから助けてくれと言いながら。そういう目に遭っていないが、これは聞き捨てならない。
イベントがオープニングを飾り、一時間が経った。控え室内にあるモニターではステージの様子が流れていて、植本さんと羽音さんのコラボ演奏が進行中だ。植本さんがヘヴィメタル以外のジャンルを弾くのは珍しい。
他の控え室では、モニターにくぎ付け状態になっている人だらけだ。このTDDの控え室内も同じだ。集中できないという状況でも。
大和が聖河さんから逃げている。病院に行きたくないからだ。もう15分以上も説得を受けている。上半身の動きの鈍さがあるという。病院で検査を受けさせるのは念のためであり、極度の肩こりが原因だろうという見立てだ。7月初めからアルバム収録に入り、それに並行してスタジオ練習を積んでいる状況だ。
「山岸先生ーー。病院には行きたくないので!」
「念のための検査だよ。IKUエンタテイメントから指示が出たので、受診してください。2時間以内に病院を出られる。来週の月曜にしましょう。……長谷部さん。よろしいでしょうか?」
「はい。了解しました。私が大和君を連れて行きます」
「長谷部さん。俺はーー」
「……大和君。一人で来るのか?」
聖河さんが本気で大和に声をかけた。大和が言いたいのは、”付き添いが恥ずかしい”という意味だ。それを別の意味に受け取り、真面目な顔をして長谷部さんを見た。これならよろしいでしょうか?と。
一体どんなアイデアが飛び出してくるだろうかと、俺と悠人も黙って見守った。すでに面白い人だとチーム内で認識されていて、ちょうど入って来たスタッフまで立ち止まった。
「……大和君。お父さんに付き添ってもらおう。一番安心できるね?……今から連絡を取っていただけませんか?急には無理でしょうから」
「あらーー。お父さんに来てもらいたいのー?」
「それなら一人で行きます!……いえ。長谷部さんにお願いします」
パチパチパチ!
自然と室内から拍手が起こった。スタッフさん達が部屋から出ていき、廊下にいた黒崎が入ってきた。ついさっき枝川さんが到着して、黒崎と早瀬さんとで話していた。それが終わったようだ。
早瀬さん達は入らずに、向こうの方へ歩いて行った。室内の様子を見届けた後で。これから理久のところに行くのだろう。枝川さんの迎えを待たせている。しかし、理久は会いたくなさそうだったという。
明日は二葉とツインで誕生日だから、理久には帰るときには笑っていて欲しい。たぶん、ここにいる間に日付を超える。悠人が黒崎に声をかけて、出番が終わった後で様子を見に行くと言った。
「大勢が行ったら……、気分が変わると思うので。理久はどこで待っていますか?」
「久弥さんの控え室に移動した。一貴と二葉が一緒にいるから、枝川が入ってきても平気なはずだ」
「うひぇー。あの二人は連れ戻した方が。わわわっ、すみません」
「……怪しい男がいたら枝川が焦る。いい薬だ」
「黒崎さーん。何があったの?」
「喧嘩だ」
黒崎の笑顔を見てほっとした。枝川さんと喧嘩していることは、理久から聞いた。不安定な気分になっている時だから、それ以上は聞かないようにしていた。話したがってもいなかった。
そして、黒崎から事の真相を教えてもらい、複雑な気分になった。枝川さんが大学時代の友達に誘われて飲みに行ったら、合コンの席が用意されていたそうだ。恋人がいてもいいから、カッコいい人が来ると盛り上がるからだという理由だ。俺でも嫌な気分になる。悠人が苦虫を潰したような顔になった。
「げええええっ、それは嫌ですよーー」
「うんうん。その場で帰って来たんだよね?その友達に文句を言えるもん」
「……いや。気を遣って、最後までいたそうだ。それを、理久君が営業企画部に寄った時に小耳に挟んだ。タイミングが悪い」
「ひいいいいっ、サイアクだーー」
「黒崎さーん。タイミングが悪い発言っていうのは?どういうことだよ?それ自体が悪いことだってニュアンスじゃないよね。……どうして笑うんだよ~。ふん」
黒崎は困った顔をしなかった。肩を揺らして笑いながら、聖河さん達の方を向いた。怖いから助けてくれと言いながら。そういう目に遭っていないが、これは聞き捨てならない。
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