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これ以上は文句を言わないでおく。わざと言葉を返すことなく、黒崎のことを見つめた。聖河さんと話を続けているが、もうすぐでフォローしてくるはずだ。
”これは他人のケースだ。俺のことじゃない。一般的な相づちだ”と、そういう言い訳が返ってくるのを待った。期待しているといってもいい。怒りすぎた自覚はしている。しかし、一向に音沙汰なしだ。こう変化は欲しくないのに。
(なんで?全然そんな素振りを見せないんだけど……。スルーじゃないけどさ。ああ、こっちを見た。ふうん。苦笑いもしていないのか……)
帰るまで口を聞かない。帰りも別々にしたい。しかし、IKUの送迎車を使うのはやりすぎだから、それまでに機嫌を直すと思っているだろう。我ながら性格が悪いと思う。
あともう少しで出番がくる。ホワイトボードのタイムスケジュールを確認すると、ちょうどいい頃合いだった。悠人に声をかけると、両頬を紅潮させて、黒崎のことを見つめていた。
「悠人も怒っていたんだね。うんうん……」
「なつきー。違うよ。今の姿にシビれたんだ!わざと尻に敷かれているふりをして、負けてあげる姿だよ」
「理想の男性像なのかよ?こういうケースが?」
「夏樹がプンプン怒っても、動じていないっていう面もだよ。でも、完全スルーをしていないっていう加減が、自然とできるのが理想だよー」
黒崎の方を見ると、何ともない感じで視線を返してきた。聞こえているだろう。さらに悠人が赤くなったから、本気で言ったのが分かった。寡黙で優しくて、ドンと構えている男。たしかに言うとおりだ。それは置いておいて、早瀬さんが俺みたいな反応を見せたときは?と聞きたい。
「ゆうとー。早瀬さんに俺みたいな反応をされたら?……”裕理さんが怖いから助けてくれ”って言うのかよー?」
「うん。そうしたい。まだできないからねー」
「そっか……。早瀬さんが枝川さんのケースになったら?飲み会に誘われて行ったら、合コンだったってオチだよ」
「それはべつだよー」
「そうだよね~。悠人が怖いから助けてくれって言われたら?」
「もうーー。黒崎さんにクールにされたからって、ぷんぷん怒るなよ。男はどんと構えていればいい!そのうちフォローされるからさー」
頭をぐりぐり撫でられて、そばの椅子に促された。ドリンクバーでアイス珈琲を淹れている後ろ姿を眺めた。ピシッという程は姿勢が伸びていないが、悠人らしい柔らかさがある。
ガムシロップを入れるのか?と聞いてきた声は、少しハスキーだ。以前は高めの声をしていた。俺が返事をしなくて振り返った顔を見て、胸がドキッとした。
顔立ちこそ変わらないが、目元のラインがピンと張っていて、頬のラインがシャープになっている。戦っている顔だ。いつか、久弥のように目じりが下がるのだろうか?悠人ならそうなるに違いない。
「これを飲んで機嫌を直せよー。世話がかかるね。赤ちゃんみたい。藍生はしっかりしているよー」
「兄貴の背中を見たからじゃないかな?ギタリスト祭典のリハーサルの間、膝の上に両手を置いて座っていたよ。悠人が仕事をしている時だからって、久田さんが教えたんだよね?」
「うん。そこまでするなって言ったけどね。俺みたいになると嫌だから。でもさー、藍生が駄々をこねていたからOKだよ。……おかげで可愛がってもらえたよ。植本さんには、ジュースを買いに連れて行ってもらったし。へへへ。要領のいい子になるといいなー」
藍生ちゃんの話をしたら、急に目じりが下がった。元から上がっている口角がさらに笑みの形をとって、パッと明るくなった。
悠人がきょとんとした顔をしたから、指先で口元に触った。今の顔もいいよと言いたくて。しかし、何をするんだ?と、眉を寄せられた。
”これは他人のケースだ。俺のことじゃない。一般的な相づちだ”と、そういう言い訳が返ってくるのを待った。期待しているといってもいい。怒りすぎた自覚はしている。しかし、一向に音沙汰なしだ。こう変化は欲しくないのに。
(なんで?全然そんな素振りを見せないんだけど……。スルーじゃないけどさ。ああ、こっちを見た。ふうん。苦笑いもしていないのか……)
帰るまで口を聞かない。帰りも別々にしたい。しかし、IKUの送迎車を使うのはやりすぎだから、それまでに機嫌を直すと思っているだろう。我ながら性格が悪いと思う。
あともう少しで出番がくる。ホワイトボードのタイムスケジュールを確認すると、ちょうどいい頃合いだった。悠人に声をかけると、両頬を紅潮させて、黒崎のことを見つめていた。
「悠人も怒っていたんだね。うんうん……」
「なつきー。違うよ。今の姿にシビれたんだ!わざと尻に敷かれているふりをして、負けてあげる姿だよ」
「理想の男性像なのかよ?こういうケースが?」
「夏樹がプンプン怒っても、動じていないっていう面もだよ。でも、完全スルーをしていないっていう加減が、自然とできるのが理想だよー」
黒崎の方を見ると、何ともない感じで視線を返してきた。聞こえているだろう。さらに悠人が赤くなったから、本気で言ったのが分かった。寡黙で優しくて、ドンと構えている男。たしかに言うとおりだ。それは置いておいて、早瀬さんが俺みたいな反応を見せたときは?と聞きたい。
「ゆうとー。早瀬さんに俺みたいな反応をされたら?……”裕理さんが怖いから助けてくれ”って言うのかよー?」
「うん。そうしたい。まだできないからねー」
「そっか……。早瀬さんが枝川さんのケースになったら?飲み会に誘われて行ったら、合コンだったってオチだよ」
「それはべつだよー」
「そうだよね~。悠人が怖いから助けてくれって言われたら?」
「もうーー。黒崎さんにクールにされたからって、ぷんぷん怒るなよ。男はどんと構えていればいい!そのうちフォローされるからさー」
頭をぐりぐり撫でられて、そばの椅子に促された。ドリンクバーでアイス珈琲を淹れている後ろ姿を眺めた。ピシッという程は姿勢が伸びていないが、悠人らしい柔らかさがある。
ガムシロップを入れるのか?と聞いてきた声は、少しハスキーだ。以前は高めの声をしていた。俺が返事をしなくて振り返った顔を見て、胸がドキッとした。
顔立ちこそ変わらないが、目元のラインがピンと張っていて、頬のラインがシャープになっている。戦っている顔だ。いつか、久弥のように目じりが下がるのだろうか?悠人ならそうなるに違いない。
「これを飲んで機嫌を直せよー。世話がかかるね。赤ちゃんみたい。藍生はしっかりしているよー」
「兄貴の背中を見たからじゃないかな?ギタリスト祭典のリハーサルの間、膝の上に両手を置いて座っていたよ。悠人が仕事をしている時だからって、久田さんが教えたんだよね?」
「うん。そこまでするなって言ったけどね。俺みたいになると嫌だから。でもさー、藍生が駄々をこねていたからOKだよ。……おかげで可愛がってもらえたよ。植本さんには、ジュースを買いに連れて行ってもらったし。へへへ。要領のいい子になるといいなー」
藍生ちゃんの話をしたら、急に目じりが下がった。元から上がっている口角がさらに笑みの形をとって、パッと明るくなった。
悠人がきょとんとした顔をしたから、指先で口元に触った。今の顔もいいよと言いたくて。しかし、何をするんだ?と、眉を寄せられた。
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