上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 ドリンクバーのそばに荷物を持って行く姿を眺めた。何も教えていないのに、どこに置くのか分かっているから凄い。さすがだねと声をかけると、他に置く場所がないだろう?と、何でもないといった顔で振り向いた。

「同じ書類が積まれているから、ここに置くべきだ」
「分からないときは?」
「これを待っている相手に聞けばいい。まわしてきた人に聞くのは避ける。結末を知らないケースがある」
「なるほど。秘書さんだねえ。ボスが読むのを前提だろ?」
「そうだ。凄いことか?褒めるぐらいなら優しくしてくれ」
「素っ気なくしていないよ?そばにいるのに」
「もっと優しい言い方をしろ」
「黒崎さーーん。何か拗ねているのかよ?俺が他の人と喋っていたから?あれはステージ上だよ。仕事だもん」
「そろそろ家の中の夏樹に戻れ。怖い顔をしているぞ。俺と似ている」
「ヒャーー。それはいけない。鏡を見てくるよ。一緒に行こうね~。んん、黒崎さーん」

 黒崎の腕を引っ張ったが、動かなかった。だったら実力行使をする。体重をかけるように腰を落として、両手で腕をつかんで引っ張った。しかし、びくともしない。黒崎が両足に力を入れているからだ。なんだか悔しくなってきた。

「夏樹。鏡の前に行ってやる。手を離してくれ」
「いやだよ。足に力を入れているじゃん」
「あのなあ。行くぞ……」
「だめだよ。あんたをヨロけさせて連れて行くんだ。そうすると、ミッションクリアだよ~~」
「……お前は何になりたいんだ?」
「……もっと優しい言い方をしてよ」
「……そうだった」

 黒崎が肩をゆらして笑い出した。わけの分からないことを言い出したし、大きな鏡に映っている俺の姿にも違和感があるそうだ。それはそうだろう。今俺は、色気男風で悪い男風のスタイルをしている。このまま家に帰ることにしたからだ。そこへ、悠人から声をかけられた。

「なつきー。おとぎ話みたいだね?"大きなかぶ"っていう、絵本を読んだことがあるよ」
「うんうん。たしかにそうだね~。みんなで引っこ抜いてゴールだよ。ねえ、手伝ってよ」
「黒崎さんが困っているからやらないよー」
「いいじゃん。わあーー」
「悪い男なんだろう?いい子になりたいのか?」

 黒崎から引っ張り返された。それをなんとか持ち堪えていると、悠人が俺の背中にすがりついた。しぶしぶと。そして、力を入れて引いてくれた。

「もうーー。どっこいしょー」
「はははーー、何をやっているんだー?俺はクールな男だから参加しない」

 大和が長谷部さんと並んで笑っている。こういう面では大人なのか?また新しい一面を発見した。率先して参加すると思って、声をかけなかったのに。

「どっこいしょーー」
「黒崎さんが……抜けません~~」
「勘弁してくれ……」
「わわわーー」
「おっと、フェイントをかけたね。えーーい!」

 黒崎の行動は予想していた。俺たちを転ばせることなく上手に腕を引かれた後、その反動のどさくさに紛れて黒崎の胸にすがりつき、鏡の前に引きずろうとした。

 コンコン!

 軽いノック音がした。そう大きくないのに聞き取りやすいものだ。きっと羽音さんだと予想すると、その通りの人が入って来た。俺達のことを見るなり、快活な笑い声をあげた。当時の久弥がふざけている錯覚をしたそうだ。

「あははは!ナンパか?」
「連行でーーす」

 意外なことに、黒崎から身体を離されなかった。羽音さんのことを警戒するわけがない。無意識のうちになのか、俺の背中に両手を当てさすりだした。俺の身体を落ち着かせているのか、様子を見ているのかな。
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