上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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26-1 リッターラグナ

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 9月12日、木曜日。17時。

 我が家の畑に立って空を見上げると、日暮れ前になったから、薄い雲がかかって赤みが差していた。9月中旬に入り、もう夏の盛りを超えたようだ。

 ここから見える広い花壇の彩りも秋らしい。白とピンク色がメインに変わった。今年の秋はコスモスを植えている。

 12月には新しい花が仲間入りして咲く予定だ。今年の冬は、真っ白な花壇になりそうだ。先週晴海さんがやってきて、その花の球根を植えて整えてくれた。スノードロップという。初めて咲かせる。

 黒崎が大好きなコスモスを眺めつつ、タンブラーから珈琲を飲んだ。あの風にそよぐ可憐な姿がお気に入りのようだ。花言葉を知っている。遊びに来ている悠人が、綺麗な花壇だなあと笑顔で言った。

「……調和、平和、謙虚。美しい。the joys that love and life can bring。愛と人生がもたらす喜び。……懐かしいなあ。黒崎さんと公園を歩いている時に話題に出たんだよ。あんたに似合わないってイジっていたんだよ」
「ほおーー。今の黒崎さんに合っているよ。いつだった?君が高校生ぐらいの時?」
「うん。無口でねーー、ささくれ立っていた頃だよ。寂しくてさ。住んでいたマンションに遊びに行ったとき、キッチンには何も置いていなかったんだ。グラスだけだった。ポットもないし」
「ふむふむ。ほとんど家に居なかったんだろ?帰っても楽しくないもんねー」
「うん。家事代行サービスの会社の人しか来ていなかったよ。どこもかしこも綺麗にしてあって、ホテルの部屋みたいだった。洗濯機はあるんだけど、セットしたこともないんだよ。今でもそうだけど」
「なつきー。キミが世話を焼くからだよ。珈琲の担当に据え置いたらー?」
「俺がやった方が早いもん。ああいう何もできない人が可愛いし。食器の置き場所を知らないし、覚える気もないんだ。俺がいるからだろー?ふふん……」
「ふむふむ。アホらしいなー。このネギを洗うんだよねー?行ってくるよ……」
「黒崎さんが帰ってくる時間だ。ご飯を食べていくだろ?」
「遠慮するよー。みそ汁よりもアツアツだからさーー」

 結局はノロケじゃないか。悠人が笑いながらテラスの水場に行った。今夜は早瀬さんが出張で留守にするから、久しぶりにお義父さんの家に泊まりに来た。3か月ぶりだ。悠人の方が忙しくて、誘ってみても来られなかった。やっと一息付けた状況だ。

 2週間前に新曲の上弦の月の天使が発売し、聡太郎と大和のことも、メディアで紹介できた。とてもいい記事を書いてもらえたから嬉しい。11月発売のアルバムではサポートメンバーして参加し、コンサートでは聡太郎も出演する。

 みんなと力を合わせて、落ち着いて活動を進めているところだ。羽音さんが教えてくれた、”おおきなかぶ”の話のように。

 イベントではトラブルが起きていた。原田さんのベテルギウス加入が決まった頃、サポートドラムのメンバーが悔しさから荒れてしまった。それが大和の怪我の理由だ。出演者がステージに向かっている途中で、大和が八つ当たりを受ける空気を感じて、遠竹さんが先回りして庇った。そこで、コーラをかけられてしまったそうだ。植本さんが笑いを取って流そうとしたら、さらに険悪な方に流れてしまい、殴り合いに発展するところだった。

 俺の方は、オープニングの準備があり、早めにステージに到着していた。ちゃんと様子を見ないといけないと思った。そう久弥に言うと、こう言われた。

(……こらー、夏樹。君が知らせを受けて駆け付ける時間はない。リーダーとしての領域にならない。悪いと思うなよー。悪い男になーーれ!)

 今度のことを思いめぐらせていた時、久弥から笑い飛ばされた。真面目すぎる。だからこそ、悪い男風の衣装にしたんだぞと言われた。
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