434 / 514
26-2
しおりを挟む
大和の右手が赤くなっていたのは、遠竹さんの身体を守ったからだ。壁に右手を叩きつけることで、相手が来るのを阻んだ。おかげで、誰も相手の身体に触れていない。
咄嗟にやった事だと大和は言っていたが、たぶん冷静だったろう。本当に思いつかないなら、相手に抱きつくか、遠竹さんの前に割り込む方法しか取れない。ステージの後で右手を消毒して、絆創膏を貼り付けるだけの処置で済んだ。聖河さんがいて助かったと実感した。
その時、疑問が浮かんでいた。どうしてすぐに争いが収まったのか?と。帰るときに大和に聞いてみたら、あっさり納得いく結末があった。聡太郎が理由だった。ちょうどトイレから出てきた時に騒ぎを目撃して、聡太郎が大きな悲鳴を上げた。それに驚いた人たちが走ってきて、5人がかりで止めたから収まったそうだ。
「……ふうー。聡太郎君の機転もすごいなあ。ゆうとーー、お義父さんの家に持って行こうね。んん?……わああーー」
「……悲鳴か?失礼な声をあげるな」
低い声が近くで聞こえた直後、腰を撫でる手の感触が起きた。すけべじじいが帰って来たのか。振り向くと、黒崎がネクタイを解きながら笑っていた。
「おかえりなさーい。腰を撫でるために、気配を消したのかよ?」
「今日のジーンズが似合っている」
「キャーーー!」
アホらしい。今度は俺の方が呆れ笑いを返した。すると、悠人から声を張り上げて名前を呼ばれた。誤解をさせたのか?
「おーい。大丈夫ー?」
「大丈夫だよ。痴漢みたいな人が帰って来たんだ」
「そうだったのか。……黒崎さん。お邪魔していまーす」
「いらっしゃい。すまなかった」
「いえ、俺の早とちりです」
悠人が照れくさそうに笑った。頭をかいている。俺の方は、黒崎の腰を叩いてやった。あんたが悪いと言いながら。
「そろそろお父さんの家に行くよ。カズさんがTシャツを見せてくれるんだ」
「そっか。もうそんな時期だね。あとで煮物を届けるよ」
「……悠人君。俺たちも散歩したい」
「もうーー」
迷子予防のためだ。悠人が黒崎の冗談に笑っている。いつも敬語を使っていたのに、くだけたものに変化した。いいことだ。
ガーーー。
するとその時だ。向こうの門から車が入ってきた。ユリウスのイラスト付きだ。一貴さんが運転席の窓から顔を出して、乗っていけと声をかけてきた。お義父さんの家は目と鼻の先なのに。
「カズさーん。後で部屋に行くから待っててよー」
「パズルも見せたい。乗ってくれ」
「もう……。じゃあ乗るよ。また後でねーー」
「ごめんね。面倒をかけるよ。このネギも渡してね」
「オッケー。バタン!」
悠人が助手席に乗り込んだ姿を見送り、俺たちは我が家に向かった。
サーーー。
風が吹き込んできた。西日が消えて、コスモスたちが青っぽい色合いに変わった。この庭は彩り豊かだ。先月の夏よりも。まるで黒崎のようだと思う。
悠人と話したところだ。生活感のないマンションで暮らした約10年間の後、ウサギのモニュメントを玄関に置く人になった。しかし、荷物が少ないのは変わりない。それを口にした。
「あんたって、服も本棚も増えないね。最初のマンションは閑散としていたよ」
「お前は荷物が多い」
「あんたが俺の服を買うじゃん。クローゼットに入りきらないのに。調理グッズは俺の希望だけどさ」
「身に着けるものぐらいは束縛させてくれ」
「黒崎さん……。可愛いことを言うなよ~。煮物のサービスをするよ」
不意を突かれて胸がキュンとした。今度は優しい力で黒崎の背中を叩きながら、玄関に入った。さあ、晩御飯の支度を始めるとしよう。
咄嗟にやった事だと大和は言っていたが、たぶん冷静だったろう。本当に思いつかないなら、相手に抱きつくか、遠竹さんの前に割り込む方法しか取れない。ステージの後で右手を消毒して、絆創膏を貼り付けるだけの処置で済んだ。聖河さんがいて助かったと実感した。
その時、疑問が浮かんでいた。どうしてすぐに争いが収まったのか?と。帰るときに大和に聞いてみたら、あっさり納得いく結末があった。聡太郎が理由だった。ちょうどトイレから出てきた時に騒ぎを目撃して、聡太郎が大きな悲鳴を上げた。それに驚いた人たちが走ってきて、5人がかりで止めたから収まったそうだ。
「……ふうー。聡太郎君の機転もすごいなあ。ゆうとーー、お義父さんの家に持って行こうね。んん?……わああーー」
「……悲鳴か?失礼な声をあげるな」
低い声が近くで聞こえた直後、腰を撫でる手の感触が起きた。すけべじじいが帰って来たのか。振り向くと、黒崎がネクタイを解きながら笑っていた。
「おかえりなさーい。腰を撫でるために、気配を消したのかよ?」
「今日のジーンズが似合っている」
「キャーーー!」
アホらしい。今度は俺の方が呆れ笑いを返した。すると、悠人から声を張り上げて名前を呼ばれた。誤解をさせたのか?
「おーい。大丈夫ー?」
「大丈夫だよ。痴漢みたいな人が帰って来たんだ」
「そうだったのか。……黒崎さん。お邪魔していまーす」
「いらっしゃい。すまなかった」
「いえ、俺の早とちりです」
悠人が照れくさそうに笑った。頭をかいている。俺の方は、黒崎の腰を叩いてやった。あんたが悪いと言いながら。
「そろそろお父さんの家に行くよ。カズさんがTシャツを見せてくれるんだ」
「そっか。もうそんな時期だね。あとで煮物を届けるよ」
「……悠人君。俺たちも散歩したい」
「もうーー」
迷子予防のためだ。悠人が黒崎の冗談に笑っている。いつも敬語を使っていたのに、くだけたものに変化した。いいことだ。
ガーーー。
するとその時だ。向こうの門から車が入ってきた。ユリウスのイラスト付きだ。一貴さんが運転席の窓から顔を出して、乗っていけと声をかけてきた。お義父さんの家は目と鼻の先なのに。
「カズさーん。後で部屋に行くから待っててよー」
「パズルも見せたい。乗ってくれ」
「もう……。じゃあ乗るよ。また後でねーー」
「ごめんね。面倒をかけるよ。このネギも渡してね」
「オッケー。バタン!」
悠人が助手席に乗り込んだ姿を見送り、俺たちは我が家に向かった。
サーーー。
風が吹き込んできた。西日が消えて、コスモスたちが青っぽい色合いに変わった。この庭は彩り豊かだ。先月の夏よりも。まるで黒崎のようだと思う。
悠人と話したところだ。生活感のないマンションで暮らした約10年間の後、ウサギのモニュメントを玄関に置く人になった。しかし、荷物が少ないのは変わりない。それを口にした。
「あんたって、服も本棚も増えないね。最初のマンションは閑散としていたよ」
「お前は荷物が多い」
「あんたが俺の服を買うじゃん。クローゼットに入りきらないのに。調理グッズは俺の希望だけどさ」
「身に着けるものぐらいは束縛させてくれ」
「黒崎さん……。可愛いことを言うなよ~。煮物のサービスをするよ」
不意を突かれて胸がキュンとした。今度は優しい力で黒崎の背中を叩きながら、玄関に入った。さあ、晩御飯の支度を始めるとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる