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この女性と罵りあいになることすら恥になるが、それでもいいと思えた。男性関係を責められても平気だろう。罪悪感がない。プライドも高い。口達者で魅力的なのだろう。自分で手を下すこともしない。平然と嘘をつき、相手の感情に訴えかける人だ。
(……こういう人に情で接すると、痛い目に遭う。俺は選ぶものを間違えた。母が俺のことを嫌う大義名分を言おう……)
「その写真を見た。60歳の誕生日を祝ってもらったのか?61歳だろう?指の関節の皺だけは、実年齢を感じさせている」
「失礼ね……」
「聞いただけだ」
「私は悪くないの!あなたを産んだ後で、お父さんからの束縛が始まったの。……ええ。あなたが一歳ぐらいの頃からよ。全く自由がなかったわ。どこに行くのにも付き添いがいた。苦しかったわ。圭一も理解できるでしょう?夏樹君にもそうしたじゃない」
「必要に駆られた親父の判断だ。本来の意味を理解しようとするな。あんたは自分で選択をしてこなかった。選択しない選択をしてきた。だから自分は悪くないと言い切れる。……どこか身体に悪いところができたら連絡をくれ。できる限りのことをさせてもらう」
「圭一!話を聞いて……」
「さようなら」
「もう会ってもらえないの?」
(この光景だ……)
母が涙を流して見上げてきた。この姿には記憶がある。昔会っていた女性たちに言わせていた言葉だ。ホテルの部屋で、同じように見上げてきた。母に向かって首のみを振り、NOだと意思を伝えると、今度は批難がましい視線を向けられた。これも同じだ。
どの相手にも、恋人にならない前提で付き合いを始めた。女性も納得したうえだ。しかし、人の心が約束通りに収まるとは限らない。誤解を生むほどに優しく接していることも分かっていた。そして、自分の心のみ、変化がなかった。
(大事な人には矢を返さないでくれ……)
人を傷つけたままで済まされるわけがない。ここで一本の矢が返された。慕っていた人に会えた代わりに、二度と会わない選択をする結果を迎えた。
二葉は十分な治療を受けられたのだろうか?あの七夕の日の後、もっと周囲に細かく目を向けるべきだった。今の自分なら気づくだろうか。
「……ママ。産んでくれてありがとう。2度目のさようならだ」
「……っ」
母からの恨みを受け取る。理不尽なものでも。
ガチャ……。
母のことを振り返ることなく、この部屋から出た。ドアの重みは一切感じなかった。室内と廊下の圧迫感の差がない。何も変わらない。
無機質で乾いた空気の空間が広がっている。社員には彩りがあり、花壇のようになっている。それを母は視界に入れようとしなかった。そして、向こうからも視界に入れてもらえない。
この空間を作ったのは、自分だけの力ではない。それを分かっているマネージャーを、部下たちが慕うのは、自然なことだ。同じ船で沈みたくもない。
受付の社員に会釈をして通り過ぎた。入る時と変わりない光景が広がっていた。そして、このロビーを歩き進み、正面エントランスから歩道に出た。
(……こういう人に情で接すると、痛い目に遭う。俺は選ぶものを間違えた。母が俺のことを嫌う大義名分を言おう……)
「その写真を見た。60歳の誕生日を祝ってもらったのか?61歳だろう?指の関節の皺だけは、実年齢を感じさせている」
「失礼ね……」
「聞いただけだ」
「私は悪くないの!あなたを産んだ後で、お父さんからの束縛が始まったの。……ええ。あなたが一歳ぐらいの頃からよ。全く自由がなかったわ。どこに行くのにも付き添いがいた。苦しかったわ。圭一も理解できるでしょう?夏樹君にもそうしたじゃない」
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「圭一!話を聞いて……」
「さようなら」
「もう会ってもらえないの?」
(この光景だ……)
母が涙を流して見上げてきた。この姿には記憶がある。昔会っていた女性たちに言わせていた言葉だ。ホテルの部屋で、同じように見上げてきた。母に向かって首のみを振り、NOだと意思を伝えると、今度は批難がましい視線を向けられた。これも同じだ。
どの相手にも、恋人にならない前提で付き合いを始めた。女性も納得したうえだ。しかし、人の心が約束通りに収まるとは限らない。誤解を生むほどに優しく接していることも分かっていた。そして、自分の心のみ、変化がなかった。
(大事な人には矢を返さないでくれ……)
人を傷つけたままで済まされるわけがない。ここで一本の矢が返された。慕っていた人に会えた代わりに、二度と会わない選択をする結果を迎えた。
二葉は十分な治療を受けられたのだろうか?あの七夕の日の後、もっと周囲に細かく目を向けるべきだった。今の自分なら気づくだろうか。
「……ママ。産んでくれてありがとう。2度目のさようならだ」
「……っ」
母からの恨みを受け取る。理不尽なものでも。
ガチャ……。
母のことを振り返ることなく、この部屋から出た。ドアの重みは一切感じなかった。室内と廊下の圧迫感の差がない。何も変わらない。
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受付の社員に会釈をして通り過ぎた。入る時と変わりない光景が広がっていた。そして、このロビーを歩き進み、正面エントランスから歩道に出た。
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