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母が黒崎家で過ごしたことが、今の心に影響したのだろうか。生まれ持った性格だろうか。拓海兄さんの名前を出さずとも察した母が、一切の否定の言葉を返してこない。どういう意味か?という質問のみだ。
「あんたは何をやろうとしたんだ?」
「いいえ、何もないわ。亡くなった人って言うからよ……」
「騒動を起こしていないのならよかった。拓海兄さんは、あんたのことを嫌っていたそうだな?」
「ええ!最初は優しかったのよ。無理をしないでくださいって。結婚するときには、圭一のことは心配ないと、約束までしてくれたわ」
「どうして嫌われたんだ?あんたが余計な感情を寄せたからか?」
「それはないわ。同じ家の中にいる人よ!?」
「フラれたのか?」
「どういう意味よ……」
胸をなで下ろしたい気分だ。あの芝生に囲まれた墓地に眠るのは、この人のせいもある。この件を父は知っていたはずだ。どうして早くに出て行かさない?この人に愛情があったからだ。皮肉なことだ。自分を愛してくれている女性に囲まれながらも、この人のことを選んだのか。
なんのために、父が早瀬家に頭を下げたというのか?同じ屋根の下で暮らす息子を視界にも入れることさえできない人が、仲の良かった女性の子供を欲しがった。
父はやり直したかったのだろう。裕理が姉夫婦の養子になり、新しい家に住み、近所の子供と走り回っている姿を見て、黒崎家に迎えるのをあきらめた。それに対して、母が失望したのか?
ここで答えを聞いたところで、本当のことは返ってこない。常に平然と嘘をつく人だ。自分のためなのか、論点を逸らすためなのか。母のことも、父への弓矢が何本も返ってきた結果だと思っていたが、全て当てはまらなかった。俺は黒崎家に来て、拓海兄さんから面倒を見てもらった。今は晴海兄さん達がいる。賑やかな黒崎家を、夏樹が一緒に作ってくれた。
「あんた自身のコミュニケーションの取り方の意味が分からない」
「冷たい家だったもの。寂しかったの。みんなで食事に出かける機会がなくて……、相談相手もいなくて」
「自分がキッチンに立つ発想はなかったのか?俺は偉そうなことを言えない。今は覚えたことがある。自分で温かい家を作ればいい。……あんたに何度も話しかけた。一つも答えてもらったことがない。質問じゃなかったぞ。ママ、どこに行くの?一緒にお菓子を食べない?そういう話だった」
「質問だったわよ?分からないから答えなかったの。どこに行くのか分からないもの。お父さんの言いなりだから。……二葉たちにも同じように接したのよ?お母さんのことが好きだって言ってくれていたのよ?だから……、あなたが!」
背中が冷たくなった。母が本気で答えている。相手は小さな子供だ。言いたいことを、正しく伝えるには未熟だ。それを理解していなかったのか?相手に共感すらしないのか?
俺は子供時代に諦めていた。二葉と朝陽も同じだったと聞いた。しかし、必死で愛情を求め続けたことも聞いた。他に拠りどころがなかったからだ。倉口の方が、母よりも優しかったのだろう。
二葉が従順で、親の愛情を求めようとした時代はよかった。今の二葉は、母親が毒のある人だったと認識することができた。常に母を庇う言葉のみを口にしていたが、やっと”会いたくない”と口にできた。それは、朝陽も同じだ。
それを口に出すことはできない。この人の怒りの矛先が向かってしまう。やっと居場所を見つけた二人には、同じ想いをさせない。
「どうしてそんなに変わったんだ?一生懸命に、親父のことを支えようとしただろう?完璧主義過ぎて、追い詰められたと思っていた」
「私は変わっていないわ。あなたの勘違いよ!……板挟みよ!お父さんとそっくりね!一つだけ教えてあげる。ものすごく誤解をしているわ!」
言葉もない。具体的な話が全く出てこない。声を荒げた方が勝ちだと言いたいのか。当時から何も変わっていないということだ。
「あんたは何をやろうとしたんだ?」
「いいえ、何もないわ。亡くなった人って言うからよ……」
「騒動を起こしていないのならよかった。拓海兄さんは、あんたのことを嫌っていたそうだな?」
「ええ!最初は優しかったのよ。無理をしないでくださいって。結婚するときには、圭一のことは心配ないと、約束までしてくれたわ」
「どうして嫌われたんだ?あんたが余計な感情を寄せたからか?」
「それはないわ。同じ家の中にいる人よ!?」
「フラれたのか?」
「どういう意味よ……」
胸をなで下ろしたい気分だ。あの芝生に囲まれた墓地に眠るのは、この人のせいもある。この件を父は知っていたはずだ。どうして早くに出て行かさない?この人に愛情があったからだ。皮肉なことだ。自分を愛してくれている女性に囲まれながらも、この人のことを選んだのか。
なんのために、父が早瀬家に頭を下げたというのか?同じ屋根の下で暮らす息子を視界にも入れることさえできない人が、仲の良かった女性の子供を欲しがった。
父はやり直したかったのだろう。裕理が姉夫婦の養子になり、新しい家に住み、近所の子供と走り回っている姿を見て、黒崎家に迎えるのをあきらめた。それに対して、母が失望したのか?
ここで答えを聞いたところで、本当のことは返ってこない。常に平然と嘘をつく人だ。自分のためなのか、論点を逸らすためなのか。母のことも、父への弓矢が何本も返ってきた結果だと思っていたが、全て当てはまらなかった。俺は黒崎家に来て、拓海兄さんから面倒を見てもらった。今は晴海兄さん達がいる。賑やかな黒崎家を、夏樹が一緒に作ってくれた。
「あんた自身のコミュニケーションの取り方の意味が分からない」
「冷たい家だったもの。寂しかったの。みんなで食事に出かける機会がなくて……、相談相手もいなくて」
「自分がキッチンに立つ発想はなかったのか?俺は偉そうなことを言えない。今は覚えたことがある。自分で温かい家を作ればいい。……あんたに何度も話しかけた。一つも答えてもらったことがない。質問じゃなかったぞ。ママ、どこに行くの?一緒にお菓子を食べない?そういう話だった」
「質問だったわよ?分からないから答えなかったの。どこに行くのか分からないもの。お父さんの言いなりだから。……二葉たちにも同じように接したのよ?お母さんのことが好きだって言ってくれていたのよ?だから……、あなたが!」
背中が冷たくなった。母が本気で答えている。相手は小さな子供だ。言いたいことを、正しく伝えるには未熟だ。それを理解していなかったのか?相手に共感すらしないのか?
俺は子供時代に諦めていた。二葉と朝陽も同じだったと聞いた。しかし、必死で愛情を求め続けたことも聞いた。他に拠りどころがなかったからだ。倉口の方が、母よりも優しかったのだろう。
二葉が従順で、親の愛情を求めようとした時代はよかった。今の二葉は、母親が毒のある人だったと認識することができた。常に母を庇う言葉のみを口にしていたが、やっと”会いたくない”と口にできた。それは、朝陽も同じだ。
それを口に出すことはできない。この人の怒りの矛先が向かってしまう。やっと居場所を見つけた二人には、同じ想いをさせない。
「どうしてそんなに変わったんだ?一生懸命に、親父のことを支えようとしただろう?完璧主義過ぎて、追い詰められたと思っていた」
「私は変わっていないわ。あなたの勘違いよ!……板挟みよ!お父さんとそっくりね!一つだけ教えてあげる。ものすごく誤解をしているわ!」
言葉もない。具体的な話が全く出てこない。声を荒げた方が勝ちだと言いたいのか。当時から何も変わっていないということだ。
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