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お義父さんは理解している。わざと質問と答えを繰り返す会話をしていることを。誤解していた思い出と、嫌な気持ちになった記憶を再現することで、大人になった今の気持ちを一緒に眺めている。
「どうして俺に話さなかった?あの人のことを。ここで暮らし始めたならいいだろう」
「悪いことを吹き込みたくなかった。彼女の方も、お前には一切、私のことを吹き込まなかった。この家のことも」
「……しっかりした人だとは思っている。今も」
「……晴海には悪いことを吹き込んだ。それも私の責任だ」
「ああ。人を信じられなくなったそうだ。まだ聞きたいことがあるが、年明けにしたい。疲れただろう?そろそろソファーに座ってくれ。……これは話しておく」
子供時代に感じていたことは変わらない。過去は変えられない。”やっぱり嫌だ。最悪だった。それを認めた”と黒崎が言い切った時、お義父さんが笑った。泣き笑いでもない。悲しそうでもない。口元だけが笑みの形を取った。
「泣くか笑うか、どちらかを選択しろ」
「どちらでもない。お前の方で選んでくれ」
「面倒くさい。選択してきただろうが。慣れているはずだ」
「選択しない」
「そうか……」
黒崎があっさりと頷いて、何もなかったかのように俺の方を向いた。じっと見つめ返した。何か話してもらいたい。
その答えとして、黒崎から片手で顔を覆われてしまった。これで納得した。お義父さんが涙ぐんでいるのだろう。それを見てもいいのは黒崎だけにしたい。
今から3年前の七夕の日に、お義父さんの感情があふれ出したのを前にした。俺にすがって泣いていた。もう嫌だろう。いくら息子になった今でも。
「羽音さんが付き添ってくれている。……まだ親父に紹介していないだろう?」
「うん。おやつを作ってくれたんだ。迎えに行ってくるよ。一緒に食べようね!元気を出してね。はいはい……」
ガチャ!
リビングのドアを開けようとした時、そのドアが目の前から遠ざかってしまった。行き場を失った手の力が宙に浮き、足元がフラついた。
「おーーっと……」
右足でバランスを取った。とっさに頭で考えて、一歩だけ真横に移動した。黒崎との練習の成果が身に着き、瞬時に反応して動けるようになった。でも、背中がヒヤッとしたから、まだ練習が足りない。これは冷静になれた。
「夏樹。ごめん!大丈夫か?」
ドアを開いた先には、朝陽が立っていた。その後ろに居るのが一貴さんであり、おやつをのせたトレーを持っていた。羽音さんが紅茶のポットを持ち、にこっと笑いかけてくれた。朝陽だけが慌てている。
「あさひー。平気だよ。お義父さんがショゲているんだ。実習の成果を見せてよ」
「何のことだ?」
本気で気づかないようだ。聖河さんに朝陽のことを話すと、以前勤務していた病院の実習で朝陽が来ていて、指導したことがあったそうだ。数日後には入院患者さんの人気者になり、あれやこれやと用事を言いつけられていたと聞いた。患者さんは朝陽に会いたくて言っていた。先生の質問に答えるのがおぼつかなくても、一生懸命にやるから、可愛いと言われていたそうだ。
「山岸聖河先生から聞いたよ。人気者なんだろー?うへへ。整形外科の患者さんから」
「ああ。話しかけてくれていた。しばらく休学しているから……、どうして知っているんだ?先生のことを」
「この家の、6番目のお兄ちゃんなんだ」
「うわーー、泥沼だな!ああ、すみません……。知っていたのに。いえ、山岸先生のことじゃなくて、兄弟が多いことをです」
「そうか……」
黒崎が肩を揺らして笑った。こんな風に肯定的に明るく突っ込まれるのは、これが初めてだと言った。俺も同じだ。誰もがさっと話題を逸らせるのに。
そういえば、TDDのメンバーは大きな反応をしたことがない。淡々としている。悠人もそうだった。感情がフラットだということか?普段はにぎやかでも。自分には必要な人たちだと思う。そして、朝陽のような、喜怒哀楽のはっきりした子も。
「どうして俺に話さなかった?あの人のことを。ここで暮らし始めたならいいだろう」
「悪いことを吹き込みたくなかった。彼女の方も、お前には一切、私のことを吹き込まなかった。この家のことも」
「……しっかりした人だとは思っている。今も」
「……晴海には悪いことを吹き込んだ。それも私の責任だ」
「ああ。人を信じられなくなったそうだ。まだ聞きたいことがあるが、年明けにしたい。疲れただろう?そろそろソファーに座ってくれ。……これは話しておく」
子供時代に感じていたことは変わらない。過去は変えられない。”やっぱり嫌だ。最悪だった。それを認めた”と黒崎が言い切った時、お義父さんが笑った。泣き笑いでもない。悲しそうでもない。口元だけが笑みの形を取った。
「泣くか笑うか、どちらかを選択しろ」
「どちらでもない。お前の方で選んでくれ」
「面倒くさい。選択してきただろうが。慣れているはずだ」
「選択しない」
「そうか……」
黒崎があっさりと頷いて、何もなかったかのように俺の方を向いた。じっと見つめ返した。何か話してもらいたい。
その答えとして、黒崎から片手で顔を覆われてしまった。これで納得した。お義父さんが涙ぐんでいるのだろう。それを見てもいいのは黒崎だけにしたい。
今から3年前の七夕の日に、お義父さんの感情があふれ出したのを前にした。俺にすがって泣いていた。もう嫌だろう。いくら息子になった今でも。
「羽音さんが付き添ってくれている。……まだ親父に紹介していないだろう?」
「うん。おやつを作ってくれたんだ。迎えに行ってくるよ。一緒に食べようね!元気を出してね。はいはい……」
ガチャ!
リビングのドアを開けようとした時、そのドアが目の前から遠ざかってしまった。行き場を失った手の力が宙に浮き、足元がフラついた。
「おーーっと……」
右足でバランスを取った。とっさに頭で考えて、一歩だけ真横に移動した。黒崎との練習の成果が身に着き、瞬時に反応して動けるようになった。でも、背中がヒヤッとしたから、まだ練習が足りない。これは冷静になれた。
「夏樹。ごめん!大丈夫か?」
ドアを開いた先には、朝陽が立っていた。その後ろに居るのが一貴さんであり、おやつをのせたトレーを持っていた。羽音さんが紅茶のポットを持ち、にこっと笑いかけてくれた。朝陽だけが慌てている。
「あさひー。平気だよ。お義父さんがショゲているんだ。実習の成果を見せてよ」
「何のことだ?」
本気で気づかないようだ。聖河さんに朝陽のことを話すと、以前勤務していた病院の実習で朝陽が来ていて、指導したことがあったそうだ。数日後には入院患者さんの人気者になり、あれやこれやと用事を言いつけられていたと聞いた。患者さんは朝陽に会いたくて言っていた。先生の質問に答えるのがおぼつかなくても、一生懸命にやるから、可愛いと言われていたそうだ。
「山岸聖河先生から聞いたよ。人気者なんだろー?うへへ。整形外科の患者さんから」
「ああ。話しかけてくれていた。しばらく休学しているから……、どうして知っているんだ?先生のことを」
「この家の、6番目のお兄ちゃんなんだ」
「うわーー、泥沼だな!ああ、すみません……。知っていたのに。いえ、山岸先生のことじゃなくて、兄弟が多いことをです」
「そうか……」
黒崎が肩を揺らして笑った。こんな風に肯定的に明るく突っ込まれるのは、これが初めてだと言った。俺も同じだ。誰もがさっと話題を逸らせるのに。
そういえば、TDDのメンバーは大きな反応をしたことがない。淡々としている。悠人もそうだった。感情がフラットだということか?普段はにぎやかでも。自分には必要な人たちだと思う。そして、朝陽のような、喜怒哀楽のはっきりした子も。
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