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なんて顔をしているんだ。泣かないでくれ。黒崎から声をかけられているのが分かっているに、全く言葉が出てこない。
黒崎こそ話したいことがあるのに。たった一言でも、嫌な思いをしたことを吐き出してほしい。俺が泣いているから言えないだろう。それも分かっているのに、俺は泣いている。
「ごめんね。これじゃ、話したいことが……、言えないね……」
「悲しくて泣いているのか?同情じゃないのは分かっている」
「うん。同情しないよ!最初はしていたよ。……ママに再会するまでは」
「ありがとう。それがあったからこそ、会いに行けた。一人で行ったとして、遠くから別れを言えたと思うか?同じように対面したはずだ。そういうめぐり合わせだ。……産んでくれてありがとうと、同じように伝えただろうが、全く別の意味になっていた」
「それは……?」
「まだ言いたくない。お前から思いやりをもらった。何度目か数えきれない。……中山のお義母さんからの電話には笑った。ありがとう」
黒崎の声が震えた。抱きついているから顔が見えない。どんな表情をしているだろうか?変化が起きたのは声だけで、両腕も両足も力強いから安心した。何でも吐き出してもらいたいと思ったのに、この安心感を求めていた。
「頼っているわけじゃないよ。今は……、あんたがしっかり立っているから……」
「ああ。分かっている。ここはエデンだ。ここに帰ったからこそ、安心して立っていられる。嫌なことは落としてきた。……そろそろ平気なふりが必要だな。お菓子を作ってもらったのか。二葉達が喜んでいただろう?俺は作れない」
「だめだよ!……その仮面はやめてほしい」
「弟たちの前では強がりたい」
コンコン。コンコン……。
黒崎の肩越しに、2種類のノック音が聞こえてきた。はっきりと聞き取りやすい音と、落ち着いた音だ。遠慮がちにも思った。兄弟のどちらだろう?黒崎が笑っている。ドアの隙間から覗いて、どっちかが心配しているのだろうか?
「夏樹。どっちが鳴らしたと思う?」
「朝陽と二葉。カズ兄さんかな?羽音さんかも」
「親父も在宅しているぞ?忘れていただろう?」
「そんなことはないよ!降りてこないもん。スイーツを持って行く時に話すからさ……」
「遠慮がなくていい。……親父。どうだ?嫌な気分か?」
「えーー、お義父さん?」
ほんの少しだけ忘れていた。アベル兄弟が騒がしかったし、一貴さんが面白いことをしたからだ。そして、羽音さんからイジられていた時に、黒崎が帰ってきた。家族として存在している証だと思う。
お義父さんが笑っている。今更のように言い訳を頭を浮かべると、黒崎から口に出されてしまった。以心伝心すぎる。お義父さんまで言い当ててきた。
「忘れていたのは、家族としての証だろう」
「ははは。そうだね」
しかし、本気で寂しそうだから心配になって足を踏み出すと、黒崎から抱き留められて動けなくなった。2人で話す時間だ。そう察して静かにした。
「親父。そこは冷えるだろうが。遠慮するな」
「ここで構わない。夏樹ちゃん。何年一緒に住んでいると思っているんだい?……そうだな。たったの3年だ。圭一が9歳になっても理解しなかった。私も家族だということを」
「それはない。ちゃんと分かっていた。俺のことを守るために、あの人と結婚したんだろう?愛情がなかったわけじゃないのは理解している。……この家なら安全だ。拓海兄さんが、あの人が俺のことを視界に入れないように気遣っていた。晴海兄さんにも頼んだだろう?」
「悪い言葉だった……」
「それで構わない。100%悪い人でもないだろう?あんたが感情的になって、あの人のことを遠ざけろと言ったから、俺が晴海兄さんから羨まれた。あんたが俺のことを一番に可愛がっていると思ったそうだ。でも、俺に対する嫌な視線の半分以上が、別の人に向けたものじゃないか?黒崎家の親戚達だ。法事の度にため息をついているのを思い出した。やっと思い当たった。……晴海兄さんこそ、瑛子さんがそばに居られなくなった。優しい兄貴だ。それを引き出せなかったのは、親父のせいだぞ。瑛子さんが出て行ったこともだ」
「ああ……」
「おじいさんには強く言わない。今が60歳でも言わないとは思う。本気で肩の荷をおろせ。気弱でもいい。女たらしでもいい。純白おばさんから、噴水に突き落とされたそうだな?あんたが次々と恋人を作るから叱られたんだろう?その時、本当に骨折したのか?」
「ああ。それを口実に……」
「また優しくしてもらえたのか?ひどい兄貴だ。善意を利用したんだろう?」
黒崎が優しく質問をした。お義父さんが答えた。さらに新しい質問がされて、お義父さんがゆっくり答えていくという、昔の光景の逆パターンが始まった。
黒崎こそ話したいことがあるのに。たった一言でも、嫌な思いをしたことを吐き出してほしい。俺が泣いているから言えないだろう。それも分かっているのに、俺は泣いている。
「ごめんね。これじゃ、話したいことが……、言えないね……」
「悲しくて泣いているのか?同情じゃないのは分かっている」
「うん。同情しないよ!最初はしていたよ。……ママに再会するまでは」
「ありがとう。それがあったからこそ、会いに行けた。一人で行ったとして、遠くから別れを言えたと思うか?同じように対面したはずだ。そういうめぐり合わせだ。……産んでくれてありがとうと、同じように伝えただろうが、全く別の意味になっていた」
「それは……?」
「まだ言いたくない。お前から思いやりをもらった。何度目か数えきれない。……中山のお義母さんからの電話には笑った。ありがとう」
黒崎の声が震えた。抱きついているから顔が見えない。どんな表情をしているだろうか?変化が起きたのは声だけで、両腕も両足も力強いから安心した。何でも吐き出してもらいたいと思ったのに、この安心感を求めていた。
「頼っているわけじゃないよ。今は……、あんたがしっかり立っているから……」
「ああ。分かっている。ここはエデンだ。ここに帰ったからこそ、安心して立っていられる。嫌なことは落としてきた。……そろそろ平気なふりが必要だな。お菓子を作ってもらったのか。二葉達が喜んでいただろう?俺は作れない」
「だめだよ!……その仮面はやめてほしい」
「弟たちの前では強がりたい」
コンコン。コンコン……。
黒崎の肩越しに、2種類のノック音が聞こえてきた。はっきりと聞き取りやすい音と、落ち着いた音だ。遠慮がちにも思った。兄弟のどちらだろう?黒崎が笑っている。ドアの隙間から覗いて、どっちかが心配しているのだろうか?
「夏樹。どっちが鳴らしたと思う?」
「朝陽と二葉。カズ兄さんかな?羽音さんかも」
「親父も在宅しているぞ?忘れていただろう?」
「そんなことはないよ!降りてこないもん。スイーツを持って行く時に話すからさ……」
「遠慮がなくていい。……親父。どうだ?嫌な気分か?」
「えーー、お義父さん?」
ほんの少しだけ忘れていた。アベル兄弟が騒がしかったし、一貴さんが面白いことをしたからだ。そして、羽音さんからイジられていた時に、黒崎が帰ってきた。家族として存在している証だと思う。
お義父さんが笑っている。今更のように言い訳を頭を浮かべると、黒崎から口に出されてしまった。以心伝心すぎる。お義父さんまで言い当ててきた。
「忘れていたのは、家族としての証だろう」
「ははは。そうだね」
しかし、本気で寂しそうだから心配になって足を踏み出すと、黒崎から抱き留められて動けなくなった。2人で話す時間だ。そう察して静かにした。
「親父。そこは冷えるだろうが。遠慮するな」
「ここで構わない。夏樹ちゃん。何年一緒に住んでいると思っているんだい?……そうだな。たったの3年だ。圭一が9歳になっても理解しなかった。私も家族だということを」
「それはない。ちゃんと分かっていた。俺のことを守るために、あの人と結婚したんだろう?愛情がなかったわけじゃないのは理解している。……この家なら安全だ。拓海兄さんが、あの人が俺のことを視界に入れないように気遣っていた。晴海兄さんにも頼んだだろう?」
「悪い言葉だった……」
「それで構わない。100%悪い人でもないだろう?あんたが感情的になって、あの人のことを遠ざけろと言ったから、俺が晴海兄さんから羨まれた。あんたが俺のことを一番に可愛がっていると思ったそうだ。でも、俺に対する嫌な視線の半分以上が、別の人に向けたものじゃないか?黒崎家の親戚達だ。法事の度にため息をついているのを思い出した。やっと思い当たった。……晴海兄さんこそ、瑛子さんがそばに居られなくなった。優しい兄貴だ。それを引き出せなかったのは、親父のせいだぞ。瑛子さんが出て行ったこともだ」
「ああ……」
「おじいさんには強く言わない。今が60歳でも言わないとは思う。本気で肩の荷をおろせ。気弱でもいい。女たらしでもいい。純白おばさんから、噴水に突き落とされたそうだな?あんたが次々と恋人を作るから叱られたんだろう?その時、本当に骨折したのか?」
「ああ。それを口実に……」
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