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先輩の前なのに、こんな泣き顔しか向けられない。羽音さんが待ってくれている。何か話すかお礼を言わないといけない。すると、視界の中の気配が動いた。羽音さんからこめかみにキスをされたらしく、今度は全身が固くなった。
「耳元で笑うなって言っているのかな?はっきり文句を言ってくれ」
「息を吹きかけないでください~~」
「ははははーー。……どう?」
「わあ~~……」
囁き声で笑い声を立てられて、さらに優しい声で聞かれた。黒崎以外の人に色気を感じて、ドキドキするのはやめておきたい。羽音さんの変わり様に頭がついていかない。いや、気づかなかったのは自分の方だ。
「あれーー?マシな反応になった。面白くないなー」
「離れてください!」
「誘惑ステージを教えたのは僕だ。君が黒崎さんを誘惑するところを見たくて、あの時にアドバイスした。魅力的だったよ。ふううーー」
「やだってば!やめろよーー。あ……」
羽音さんの胸元を押して後ずさりをした後、満足そうな顔で微笑まれてしまった。けっこう意地悪だ。知らなかった。明るくて前向きで、冗談が好きな人だと思っていた。
「すみませんでした。分かったよ。現場では敬語で話します。プライベートではタメ口にする。うん……」
「ふうーー。よかった。黒崎さん!ご注文通りに仕上がりましたよーー」
「ええ?」
振りむく間もなかった。羽音さんから引き離されないまま、誰かに頭を抱き寄せられた。ふわっと黒崎のスーツの匂いがして、その肩口に額を埋めた。
(おかえりなさい。安心感がある。よかった……)
泣いているはずだし、視界も揺れているのに、スーツの色味だけは見えた。今朝出かけた時と同じだ。悲しい思い出を作りに行くからこそ、なるべく明るいものを選んでほしかった。その結果、黒に近い紺色のスーツを選んでくれた。
今日の黒崎は、大きな決断を突き通す。その光景を想像すると、怖いイメージしか浮かばなかった。その状態で街を歩いて欲しくない。少し明るい色味が入れば、イメージが柔らかくなる。
ほんの一瞬だけ視界に入った人を気にするのも変だが、こういう時こそ、優しい面も印象に残してもらいたかった。こうして見ていると、安心感のある色だと分かった。
「ただいま。羽音さんから勇気づけてもらえたようだな。……ありがとうございました」
「いいえ。僕の方も寂しかったので良かったです。実は夏樹君と似ているタイプだった。歌手になる前は、遠巻きにされていたんだよ?今は男女問わずモテているけど。黒崎さんに調べられちゃった。ははは!」
「黒崎さん。いけないことだよ……」
「どこがだ?久弥さんとは、プロデューサーとバンドリーダーの関係になる。親しい先輩はギタリストがメインだろう?歌手の先輩にも付いてもらいたい。だからお前のことを頼んだ」
ありがとう。黒崎の肩に顔をうずめたままで、お礼を言った。今日はTDDのメンバーがそばにいない。みんなからの思いやりを受け取った。リーダーの自分が、不安定な気持ちになっている姿を見せたくなかった。
「これからは、僕に泣き言を囁いてね。黒崎さんの公認だ。……こわ!」
「何も言っていませんが?」
「キッチンに行ってきます。甘さ控えめのプリンを運んできます。夏樹君はゆっくりしてね。はいはい……」
ガチャ。
やっぱり羽音さんだ。笑いながらリビングを出て行った。そして、ふわっと甘い匂いがしたとき、一貴さんの慌てたような声が聞こえていた。何かあったのだろう。笑いたいのにそうできない。黒崎の話を聞きたいからだ。まずは顔を見たくて見上げると、小さく吹き出して笑われた。
「耳元で笑うなって言っているのかな?はっきり文句を言ってくれ」
「息を吹きかけないでください~~」
「ははははーー。……どう?」
「わあ~~……」
囁き声で笑い声を立てられて、さらに優しい声で聞かれた。黒崎以外の人に色気を感じて、ドキドキするのはやめておきたい。羽音さんの変わり様に頭がついていかない。いや、気づかなかったのは自分の方だ。
「あれーー?マシな反応になった。面白くないなー」
「離れてください!」
「誘惑ステージを教えたのは僕だ。君が黒崎さんを誘惑するところを見たくて、あの時にアドバイスした。魅力的だったよ。ふううーー」
「やだってば!やめろよーー。あ……」
羽音さんの胸元を押して後ずさりをした後、満足そうな顔で微笑まれてしまった。けっこう意地悪だ。知らなかった。明るくて前向きで、冗談が好きな人だと思っていた。
「すみませんでした。分かったよ。現場では敬語で話します。プライベートではタメ口にする。うん……」
「ふうーー。よかった。黒崎さん!ご注文通りに仕上がりましたよーー」
「ええ?」
振りむく間もなかった。羽音さんから引き離されないまま、誰かに頭を抱き寄せられた。ふわっと黒崎のスーツの匂いがして、その肩口に額を埋めた。
(おかえりなさい。安心感がある。よかった……)
泣いているはずだし、視界も揺れているのに、スーツの色味だけは見えた。今朝出かけた時と同じだ。悲しい思い出を作りに行くからこそ、なるべく明るいものを選んでほしかった。その結果、黒に近い紺色のスーツを選んでくれた。
今日の黒崎は、大きな決断を突き通す。その光景を想像すると、怖いイメージしか浮かばなかった。その状態で街を歩いて欲しくない。少し明るい色味が入れば、イメージが柔らかくなる。
ほんの一瞬だけ視界に入った人を気にするのも変だが、こういう時こそ、優しい面も印象に残してもらいたかった。こうして見ていると、安心感のある色だと分かった。
「ただいま。羽音さんから勇気づけてもらえたようだな。……ありがとうございました」
「いいえ。僕の方も寂しかったので良かったです。実は夏樹君と似ているタイプだった。歌手になる前は、遠巻きにされていたんだよ?今は男女問わずモテているけど。黒崎さんに調べられちゃった。ははは!」
「黒崎さん。いけないことだよ……」
「どこがだ?久弥さんとは、プロデューサーとバンドリーダーの関係になる。親しい先輩はギタリストがメインだろう?歌手の先輩にも付いてもらいたい。だからお前のことを頼んだ」
ありがとう。黒崎の肩に顔をうずめたままで、お礼を言った。今日はTDDのメンバーがそばにいない。みんなからの思いやりを受け取った。リーダーの自分が、不安定な気持ちになっている姿を見せたくなかった。
「これからは、僕に泣き言を囁いてね。黒崎さんの公認だ。……こわ!」
「何も言っていませんが?」
「キッチンに行ってきます。甘さ控えめのプリンを運んできます。夏樹君はゆっくりしてね。はいはい……」
ガチャ。
やっぱり羽音さんだ。笑いながらリビングを出て行った。そして、ふわっと甘い匂いがしたとき、一貴さんの慌てたような声が聞こえていた。何かあったのだろう。笑いたいのにそうできない。黒崎の話を聞きたいからだ。まずは顔を見たくて見上げると、小さく吹き出して笑われた。
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