489 / 514
28-1 戻らない過去と再会
しおりを挟む
10月15日、火曜日。16時。
今日は黒崎が昼過ぎに帰ってきた。明後日ドイツに発つ準備のために。俺は荷造りを手伝っているところだ。スーツ類と仕事関係のものと着替えを用意した。
行きの機内では寝ているか、イラストを描いて過ごすと言っているから、荷物としては少ない方だと思う。これは国内出張のレベルだと、早瀬さんが荷物を見て苦笑していた。元秘書として段取りを手伝ってくれた。黒崎は丸投げだった。
カタカタ……。
日暮れが近くなり、このテラス周辺の気温が下がってきた。冷え性が改善された分だけ、まだ指先がぽかぽか温かい。すぐに冷たい手になっていた頃が懐かしい。夕方の畑の世話の時にはホッカイロを持っていたが、今は暑いぐらいになった。
「ふうーー。ボーカリストの仕事の影響だね。血流が良くなるもん。黒崎さーーん。干し柿は真空パックに加工するよ。今夜はいくつ食べる?……来ないなあ?どこに行ったのかな?」
ここはリビングに面した場所だ。リビングで書類を読んでいるはずなのに返事がない。大きな声で呼んだから、聞こえないわけがない。羽音さんとまではいかないが、普通の声色にて、リビングの端まで声を響かせられる。
まあいいか。予定通りの個数を取っておこう。ビニールひもで結んだ干し柿に手を伸ばした。細い木の棒を添えてあるから作りやすかった。佳代子さんから習った方法だ。さて、もう一つの目的の物を取ろう。
「てるてる坊主を持って行く。いいのかな。使っている分でも……」
これは”雨に濡れないてるてる坊主”という、理久の発明品だ。牛乳パックで囲ってあるから濡れないし、安定感がある。これはバーテルスさんへのお土産だ。クリスマスマーケットで売っている雑貨類を送ってもらったし、二葉もお世話になった。ノアの助け舟もある。しかし、簡単なものをリクエストされた。
「ああーーー。遊ばれたよ……」
太いゴム紐で結んだてるてる坊主に手を伸ばすと、するっと向こうに移動してしまった。まるで遊んでいるかのように見えるタイプに作ってあるから、触ったり、風が吹いたりしたら動き回る仕組みだ。ちっとも落ち着きがない。テラスの広さを利用した分、移動距離も長い。すると、黒崎が庭に出てきた。
「ゆうとーー。戻ってこいよーーー」
「悠人君が来ているのか?」
「黒崎さーーん。違うよ~。あのてるてる君が逃げて行ったからだよ。干し柿と反対だよ」
「そうか。取ってやろう。……難しいな。さすがは理久君だ」
「黒崎製菓のパッケージに使うんだよね?牛乳パック形状のお菓子」
「期間限定版だ。まだサンプルが届いていないだろう?計画が止まっている」
「そうなんだ。何かあったの?……あれーー?またあっちに行ったよ。そっちに待機してね」
黒崎が反対方向に立った。でも、円を描くようにして動くから捕まらない。だったら、もう一つの方にしよう。それなら動きが少ない。
黒崎が先に歩いて行き、高い位置に下げてある、黄色いてるてる坊主に触れた。すると、低音の賑やかな鈴の音が鳴り響き、笑い声を立てているかのような状況になった。
「わあーー、怖いよ。大和の笑い声に合わせたって言っても」
「似ているじゃないか。賑やかだ。二葉とはまた違う」
「ゲラゲラだもん。古めの鈴を使っているんだ。……あんたの見る目は凄いね。ワタベ電機さんよりも、先に理久のことを誘ったんだから」
「お前も賑やかだ……」
黒崎が苦笑した。けっこう寂しがっている。23日に帰国予定だ。約一週間の留守は初めてのことだが、電話もビデオ通話もできる。直接触れないだけだ。一週間離れるのは、これからのために練習しておきたい。
TDDの後のバンド”ディストリックサイドゼロ”では、ツアーコンサートを開催する計画が立ち上がっている。最初から華々しく活動する方向に話がまとまった。
今日は黒崎が昼過ぎに帰ってきた。明後日ドイツに発つ準備のために。俺は荷造りを手伝っているところだ。スーツ類と仕事関係のものと着替えを用意した。
行きの機内では寝ているか、イラストを描いて過ごすと言っているから、荷物としては少ない方だと思う。これは国内出張のレベルだと、早瀬さんが荷物を見て苦笑していた。元秘書として段取りを手伝ってくれた。黒崎は丸投げだった。
カタカタ……。
日暮れが近くなり、このテラス周辺の気温が下がってきた。冷え性が改善された分だけ、まだ指先がぽかぽか温かい。すぐに冷たい手になっていた頃が懐かしい。夕方の畑の世話の時にはホッカイロを持っていたが、今は暑いぐらいになった。
「ふうーー。ボーカリストの仕事の影響だね。血流が良くなるもん。黒崎さーーん。干し柿は真空パックに加工するよ。今夜はいくつ食べる?……来ないなあ?どこに行ったのかな?」
ここはリビングに面した場所だ。リビングで書類を読んでいるはずなのに返事がない。大きな声で呼んだから、聞こえないわけがない。羽音さんとまではいかないが、普通の声色にて、リビングの端まで声を響かせられる。
まあいいか。予定通りの個数を取っておこう。ビニールひもで結んだ干し柿に手を伸ばした。細い木の棒を添えてあるから作りやすかった。佳代子さんから習った方法だ。さて、もう一つの目的の物を取ろう。
「てるてる坊主を持って行く。いいのかな。使っている分でも……」
これは”雨に濡れないてるてる坊主”という、理久の発明品だ。牛乳パックで囲ってあるから濡れないし、安定感がある。これはバーテルスさんへのお土産だ。クリスマスマーケットで売っている雑貨類を送ってもらったし、二葉もお世話になった。ノアの助け舟もある。しかし、簡単なものをリクエストされた。
「ああーーー。遊ばれたよ……」
太いゴム紐で結んだてるてる坊主に手を伸ばすと、するっと向こうに移動してしまった。まるで遊んでいるかのように見えるタイプに作ってあるから、触ったり、風が吹いたりしたら動き回る仕組みだ。ちっとも落ち着きがない。テラスの広さを利用した分、移動距離も長い。すると、黒崎が庭に出てきた。
「ゆうとーー。戻ってこいよーーー」
「悠人君が来ているのか?」
「黒崎さーーん。違うよ~。あのてるてる君が逃げて行ったからだよ。干し柿と反対だよ」
「そうか。取ってやろう。……難しいな。さすがは理久君だ」
「黒崎製菓のパッケージに使うんだよね?牛乳パック形状のお菓子」
「期間限定版だ。まだサンプルが届いていないだろう?計画が止まっている」
「そうなんだ。何かあったの?……あれーー?またあっちに行ったよ。そっちに待機してね」
黒崎が反対方向に立った。でも、円を描くようにして動くから捕まらない。だったら、もう一つの方にしよう。それなら動きが少ない。
黒崎が先に歩いて行き、高い位置に下げてある、黄色いてるてる坊主に触れた。すると、低音の賑やかな鈴の音が鳴り響き、笑い声を立てているかのような状況になった。
「わあーー、怖いよ。大和の笑い声に合わせたって言っても」
「似ているじゃないか。賑やかだ。二葉とはまた違う」
「ゲラゲラだもん。古めの鈴を使っているんだ。……あんたの見る目は凄いね。ワタベ電機さんよりも、先に理久のことを誘ったんだから」
「お前も賑やかだ……」
黒崎が苦笑した。けっこう寂しがっている。23日に帰国予定だ。約一週間の留守は初めてのことだが、電話もビデオ通話もできる。直接触れないだけだ。一週間離れるのは、これからのために練習しておきたい。
TDDの後のバンド”ディストリックサイドゼロ”では、ツアーコンサートを開催する計画が立ち上がっている。最初から華々しく活動する方向に話がまとまった。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
没落令息はクラスメイトの執着に救われる
夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。
アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる