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12時半。
今、病院にいる。点滴を受けているところだ。式典は13時からだ。自分がする挨拶は13時半を予定している。それまでに駆けつける必要がある。しかし、咳は止まらない。出席する方が迷惑をかけてしまうだろうか。そこで、挨拶を14時に変更してもらった。なんとかするしかない。俺のために、午後の日程で式典を開いてくれたのだから。
ベッドの傍らにはバーテルス氏と、バーテルスビスケット会社の社員がいる。一日の入院だそうだと伝えられて、ため息をついた。予備日を一日取っていたことが、こういう形で役に立ったということか。
「せめて式典には出る……」
「無理をするな。君の身体が大事だ。副社長が代理で君のスピーチを読む。出席者には喘息の発作だと知られている。入院したこともだ。かわいそうにと言っている人が言っていたよ。バーテルスビスケット会社は文句を言わない。アントンに会いに来たんだろう?帰りに、アントンの絵本のフェアに連れて行く。うちの出版社とバーテルスビスケット会社が合同でセレモニーをやる。それを観に行ったらどうだ?」
「外出許可をもらいたい。ドクターを呼んでくれ」
「圭一……」
どうしても式典に出たい。昔、会社を合併させたことを成功だったという証を見たい。すると、ドクターが入ってきた。俺の希望を伝えると、首を振られた。しかし、何度も交渉し、短時間の外出を許可された。
「圭一。そんな身体で……」
「かまわない。俺がしたことの結果を、この目で見たい。祝いの席だ」
「そうか……」
バーテルスビスケット会社の社員が会社に連絡を取り始めた。バーテスル氏はため息をついたが、俺を応援してくるようだ。強く手を握られた。
「アントンを製造中止にする判断をした22歳当時の君が、37歳で帰ってきた。合併後は混乱もあったようだと聞いているけど、大したことはなかったらしい。君のおかげだ。アントンがいなくなるから泣いていたんだって?影で。専務がそれを見たそうだ」
「気のせいだ」
点滴針が外された。子供の頃は手の甲に刺してあった。今は左腕だ。もう刺すことはないだろうとは思っていない。いつかこうなるとは思っていた。頭の中は夏樹のことも浮かんでいる。ステージを無事に勤め終えるまで、何日も前から体調管理にナーバスになっていた。もしかしたら歌えないかもという不安からだ。俺は傍らにいて、彼のことをなだめていた。その自分は体調管理を怠っていたということか。
「ユーリー。夏樹に連絡したのか?」
「まだだよ。君がどうしても式典に出るっていうだろうから、終わった後が良いと思った」
「ありがとう」
「君がお礼を言うなんて、水くさいじゃないか」
「フェリックス氏はどうだ?式典には出られるのか?」
「出られるよ。君の喘息は俺のせいでもある」
「そういうことを言うな」
「父には僕と決別した後、式典に出てもらいたかった」
「ユーリー。やめておけ」
以前の自分なら、バーテルス氏の言い分に首を縦に振っていただろうか。フェリックス氏の妻は、二葉のことを可愛がってくれたそうだ。頭が上がらない。優しい人だったと言っていた。バーテルス氏は、母親のことも想っているのだろう。二葉が見せてくれたドイツ滞在中の写真では、フェリックス氏の妻が笑顔で映っていた。その笑顔を曇らせたくない。今ここでもう一度、決別なんてするなと言おうか。いや、時間が必要だろう。17歳で日本に滞在した際から、フェリックス氏のことを恨んでいたのだから。
「着替える」
「手伝うよ」
そばのハンガーに掛けてあるスーツに着替えた。夏樹には今ここで電話を掛けた方がいいだろう。しかし、時間が無い。車の中で掛けよう。
ここは式典の終了後に帰ってくる病室だ。今は寂しいとは思わないことにした。この年になっても、不安感というものはあるのだと気づき、そんな自分に笑いかけた。
今、病院にいる。点滴を受けているところだ。式典は13時からだ。自分がする挨拶は13時半を予定している。それまでに駆けつける必要がある。しかし、咳は止まらない。出席する方が迷惑をかけてしまうだろうか。そこで、挨拶を14時に変更してもらった。なんとかするしかない。俺のために、午後の日程で式典を開いてくれたのだから。
ベッドの傍らにはバーテルス氏と、バーテルスビスケット会社の社員がいる。一日の入院だそうだと伝えられて、ため息をついた。予備日を一日取っていたことが、こういう形で役に立ったということか。
「せめて式典には出る……」
「無理をするな。君の身体が大事だ。副社長が代理で君のスピーチを読む。出席者には喘息の発作だと知られている。入院したこともだ。かわいそうにと言っている人が言っていたよ。バーテルスビスケット会社は文句を言わない。アントンに会いに来たんだろう?帰りに、アントンの絵本のフェアに連れて行く。うちの出版社とバーテルスビスケット会社が合同でセレモニーをやる。それを観に行ったらどうだ?」
「外出許可をもらいたい。ドクターを呼んでくれ」
「圭一……」
どうしても式典に出たい。昔、会社を合併させたことを成功だったという証を見たい。すると、ドクターが入ってきた。俺の希望を伝えると、首を振られた。しかし、何度も交渉し、短時間の外出を許可された。
「圭一。そんな身体で……」
「かまわない。俺がしたことの結果を、この目で見たい。祝いの席だ」
「そうか……」
バーテルスビスケット会社の社員が会社に連絡を取り始めた。バーテスル氏はため息をついたが、俺を応援してくるようだ。強く手を握られた。
「アントンを製造中止にする判断をした22歳当時の君が、37歳で帰ってきた。合併後は混乱もあったようだと聞いているけど、大したことはなかったらしい。君のおかげだ。アントンがいなくなるから泣いていたんだって?影で。専務がそれを見たそうだ」
「気のせいだ」
点滴針が外された。子供の頃は手の甲に刺してあった。今は左腕だ。もう刺すことはないだろうとは思っていない。いつかこうなるとは思っていた。頭の中は夏樹のことも浮かんでいる。ステージを無事に勤め終えるまで、何日も前から体調管理にナーバスになっていた。もしかしたら歌えないかもという不安からだ。俺は傍らにいて、彼のことをなだめていた。その自分は体調管理を怠っていたということか。
「ユーリー。夏樹に連絡したのか?」
「まだだよ。君がどうしても式典に出るっていうだろうから、終わった後が良いと思った」
「ありがとう」
「君がお礼を言うなんて、水くさいじゃないか」
「フェリックス氏はどうだ?式典には出られるのか?」
「出られるよ。君の喘息は俺のせいでもある」
「そういうことを言うな」
「父には僕と決別した後、式典に出てもらいたかった」
「ユーリー。やめておけ」
以前の自分なら、バーテルス氏の言い分に首を縦に振っていただろうか。フェリックス氏の妻は、二葉のことを可愛がってくれたそうだ。頭が上がらない。優しい人だったと言っていた。バーテルス氏は、母親のことも想っているのだろう。二葉が見せてくれたドイツ滞在中の写真では、フェリックス氏の妻が笑顔で映っていた。その笑顔を曇らせたくない。今ここでもう一度、決別なんてするなと言おうか。いや、時間が必要だろう。17歳で日本に滞在した際から、フェリックス氏のことを恨んでいたのだから。
「着替える」
「手伝うよ」
そばのハンガーに掛けてあるスーツに着替えた。夏樹には今ここで電話を掛けた方がいいだろう。しかし、時間が無い。車の中で掛けよう。
ここは式典の終了後に帰ってくる病室だ。今は寂しいとは思わないことにした。この年になっても、不安感というものはあるのだと気づき、そんな自分に笑いかけた。
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