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29-1 結ばれた約束の夜
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10月30日、水曜日。午前11時。
黒崎がドイツから帰国して数日が経った。喘息の発作は落ち着いている。今日は俺と黒崎の結婚記念日だ。明日はハロウィンだから、黒崎製菓主催のイベントに出かける。今日のうちに溜まった用事を片付けようと、掃除機を片手に、家の中を歩き回った。大学のレポート課題と、新しいバンドの打ち合わせ会議、TDDのラストコンサートの打ち合わせ、アルバムの収録などがあり、家事を後回しにしていた。
黒崎がこう言った。月に一度、ハウスクリーニングを頼もうと。今は夏と冬の年2回頼んでいる。その回数を増やそうというのは、家事の負担の軽減だ。お風呂と洗面所、キッチンを頼めば、俺も黒崎も随分と助かる。黒崎も風呂掃除をやってくれている。しかし、彼の方こそ忙しい。そこで、依頼しようかと思い始めた。俺は掃除をするのは好きだ。磨くことも好きだ。汚れが溜まっていても、楽しんで落とすことができる。しかし、黒崎はどうかというと、俺と同じではないだろうと思った。
「うーーん。便利なサービスがあるもんねえ。黒崎さんの腰が悪くなったらいけないから、頼もうかな。音楽の仕事が目白押しだもん」
ありがたいことに、音楽の仕事がたくさん来ている状態だ。11月のラストコンサートは久弥の引退になるから、絶対に成功させなければならない。なにより、久弥とファンが楽しめるように。ディスレクトサイドゼロの楽曲が出来上がりつつあり、久弥はスタジオにこもっている日々だ。リーダーの俺もスタジオ入りしている。雑誌の取材も入っている。その時はスタイリストさんが選んでくれた服を着る。TDDのナツキの完成だ。変身するという感覚は持たないようにして、あくまでも、普段の俺であるように心がけている。
するとその時だ。黒崎が俺のことを呼んだ。ちょうど掃除機をかけ終えたところだ。彼はリビングにいる。さっそく、掃除機を片付けて、黒崎の元に行った。
「黒崎さん。どうしたの?」
「伊吹君がテレビに出ているぞ。2曲目を熱望しているそうだ」
「ヒャーーーッ。恥ずかしい!」
伊吹は久弥とのコラボで、ねこといぬのハーモニーという楽曲を発表したばかりだ。2人が歌っている。最初、伊吹はタンバリンのみの参加かと思っていた。昔聴いた時よりも歌が上手くて驚いた。テレビ出演は音楽番組が3本の予定だ。しかし、伊吹の事が面白かったのか、バラエティー番組に呼んでもらえた。たしかそれも3本あった。伊吹の顔の下には、同局のバラエティーにも出演とテロップが出ていた。
「勢いがある」
「バンドよりも、お兄ちゃんの方がテレビに出ているよ」
「バラエティーに出たいのか?話があっただろう」
「あったんだけど。俺、しゃべれないからさ。今は無理しないようにしようって、長谷部さんが」
「そうか。今なら出来るんじゃ無いのか?」
「そうかな?聡太郎君ぐらいだよ~。緊張しないのは。みんな、カチコチになるからさ~」
できれば、羽音さんのようにトークが出来るようになりたい。勅使河原さんと共演したい。願いは沢山ある。どれも贅沢な願い事だ。
そういえば、今年の七夕の短冊に書いた願い事は叶っただろうか。黒崎は家族の健康が守られますようにだった。俺は欲張って、あれこれと短冊に書いて願った。
「黒崎さんの七夕の短冊の願い事は叶っているね。家族が健康だよ。お義父さんが具合悪くなったけど、良くなったし。あんたの喘息の発作も、あれから出ていないからさ」
「ああ。お前の願い事は多かったな。どうだった?叶ったか?」
「叶ったものはあるよ。音楽番組で緊張せずに話せますようにっていうやつだよ」
「もう一度、七夕をやろうか?」
「え?」
「今年はバタバタして用意していただろう。笹と笹飾りは外の倉庫に置いてあるんだろう?すぐに支度できる」
「やるの?季節外れだよ。夜空には織り姫も彦星も浮かんでいないよ」
「結婚記念日だ。大目に見てもらおう。何かしたかった」
「そうなんだ」
胸がキュンとした。記念日だと覚えてくれていたし、何かしたいと積極的に動いてくれるのは久しぶりだ。それに可愛いと思う。七夕が好きなのだろう。こうなれば、黒崎家のみんなを呼んでこよう。短冊をたくさん付けていきたい。
「みんなを呼ぶよ」
さっそく、二葉に連絡を取った。朝陽と一貴さんと晴海さんとお義父さんにも。うちに短冊を書きに来て欲しいと伝えると、誰もが笑っていた。季節外れだからだ。バンドメンバーは来られなくて、ラインで願い事を教えてもらって、俺が短冊に書くことにした。悠人には早瀬さんの願い事も聞いてもらった。これも俺が代わりに書く。大学の友達にも聞いた。あっという間に願い事が集まり、賑やかな笹になりそうだと予感した。
黒崎がドイツから帰国して数日が経った。喘息の発作は落ち着いている。今日は俺と黒崎の結婚記念日だ。明日はハロウィンだから、黒崎製菓主催のイベントに出かける。今日のうちに溜まった用事を片付けようと、掃除機を片手に、家の中を歩き回った。大学のレポート課題と、新しいバンドの打ち合わせ会議、TDDのラストコンサートの打ち合わせ、アルバムの収録などがあり、家事を後回しにしていた。
黒崎がこう言った。月に一度、ハウスクリーニングを頼もうと。今は夏と冬の年2回頼んでいる。その回数を増やそうというのは、家事の負担の軽減だ。お風呂と洗面所、キッチンを頼めば、俺も黒崎も随分と助かる。黒崎も風呂掃除をやってくれている。しかし、彼の方こそ忙しい。そこで、依頼しようかと思い始めた。俺は掃除をするのは好きだ。磨くことも好きだ。汚れが溜まっていても、楽しんで落とすことができる。しかし、黒崎はどうかというと、俺と同じではないだろうと思った。
「うーーん。便利なサービスがあるもんねえ。黒崎さんの腰が悪くなったらいけないから、頼もうかな。音楽の仕事が目白押しだもん」
ありがたいことに、音楽の仕事がたくさん来ている状態だ。11月のラストコンサートは久弥の引退になるから、絶対に成功させなければならない。なにより、久弥とファンが楽しめるように。ディスレクトサイドゼロの楽曲が出来上がりつつあり、久弥はスタジオにこもっている日々だ。リーダーの俺もスタジオ入りしている。雑誌の取材も入っている。その時はスタイリストさんが選んでくれた服を着る。TDDのナツキの完成だ。変身するという感覚は持たないようにして、あくまでも、普段の俺であるように心がけている。
するとその時だ。黒崎が俺のことを呼んだ。ちょうど掃除機をかけ終えたところだ。彼はリビングにいる。さっそく、掃除機を片付けて、黒崎の元に行った。
「黒崎さん。どうしたの?」
「伊吹君がテレビに出ているぞ。2曲目を熱望しているそうだ」
「ヒャーーーッ。恥ずかしい!」
伊吹は久弥とのコラボで、ねこといぬのハーモニーという楽曲を発表したばかりだ。2人が歌っている。最初、伊吹はタンバリンのみの参加かと思っていた。昔聴いた時よりも歌が上手くて驚いた。テレビ出演は音楽番組が3本の予定だ。しかし、伊吹の事が面白かったのか、バラエティー番組に呼んでもらえた。たしかそれも3本あった。伊吹の顔の下には、同局のバラエティーにも出演とテロップが出ていた。
「勢いがある」
「バンドよりも、お兄ちゃんの方がテレビに出ているよ」
「バラエティーに出たいのか?話があっただろう」
「あったんだけど。俺、しゃべれないからさ。今は無理しないようにしようって、長谷部さんが」
「そうか。今なら出来るんじゃ無いのか?」
「そうかな?聡太郎君ぐらいだよ~。緊張しないのは。みんな、カチコチになるからさ~」
できれば、羽音さんのようにトークが出来るようになりたい。勅使河原さんと共演したい。願いは沢山ある。どれも贅沢な願い事だ。
そういえば、今年の七夕の短冊に書いた願い事は叶っただろうか。黒崎は家族の健康が守られますようにだった。俺は欲張って、あれこれと短冊に書いて願った。
「黒崎さんの七夕の短冊の願い事は叶っているね。家族が健康だよ。お義父さんが具合悪くなったけど、良くなったし。あんたの喘息の発作も、あれから出ていないからさ」
「ああ。お前の願い事は多かったな。どうだった?叶ったか?」
「叶ったものはあるよ。音楽番組で緊張せずに話せますようにっていうやつだよ」
「もう一度、七夕をやろうか?」
「え?」
「今年はバタバタして用意していただろう。笹と笹飾りは外の倉庫に置いてあるんだろう?すぐに支度できる」
「やるの?季節外れだよ。夜空には織り姫も彦星も浮かんでいないよ」
「結婚記念日だ。大目に見てもらおう。何かしたかった」
「そうなんだ」
胸がキュンとした。記念日だと覚えてくれていたし、何かしたいと積極的に動いてくれるのは久しぶりだ。それに可愛いと思う。七夕が好きなのだろう。こうなれば、黒崎家のみんなを呼んでこよう。短冊をたくさん付けていきたい。
「みんなを呼ぶよ」
さっそく、二葉に連絡を取った。朝陽と一貴さんと晴海さんとお義父さんにも。うちに短冊を書きに来て欲しいと伝えると、誰もが笑っていた。季節外れだからだ。バンドメンバーは来られなくて、ラインで願い事を教えてもらって、俺が短冊に書くことにした。悠人には早瀬さんの願い事も聞いてもらった。これも俺が代わりに書く。大学の友達にも聞いた。あっという間に願い事が集まり、賑やかな笹になりそうだと予感した。
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