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4-1 2人のクリスマス
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12月24日、月曜日。午前9時。
今日はクリスマスイブだ。大学が冬休みに入った。早瀬が会社の休みを取ってくれて、ゆっくり過ごそうと思っている。夕食はビュッフェレストランに行く。
リビングのカレンダーを見ると、72候の欄には、乃東生・なつかれくさしょうずと書かれている。
「夏になると枯れてしまうウツボグサの芽が出る頃。この草以外の草木のほとんどは枯れていきます。……モミの木は違うから良かったね」
「……クリスマスには定番だね」
「夏樹たちが庭の木に飾りつけをするんだって。ナツツバキの木だよ。写真を送ってもらうんだ」
「……広い庭だから、雪が降ると良いムードがあるだろう」
ビーフシチューを作りながら、早瀬が笑った。コトコト煮込んでいる鍋には、昨日から仕込んでおいた材料が入っている。牛肉、にんじん、玉ねぎ、ローリエ、赤ワインだ。アクを取りながら弱火で煮込んでいる。
「夏樹も作ってるところかな?」
「そろそろ煮込みを始めるだろう。気に入ってもらえるといい」
「裕理さんのレシピだから大丈夫だよ。あとで電話してみるよ。遠藤さんからの誘いのことも聞きたいし」
早瀬が作るビーフシチューが美味しいと話すと、夏樹がレシピを知りたいと言った。さっそくラインで送ったのが一昨日のことだ。
ビーフシチューの煮込みが終わるまで、ソファーでダラダラしながらテレビを観始めた。寝転がった早瀬の上に、さらに俺が寝転がっている。広めのソファーだから、こんな風にしなくてもいいのに。つまりは”イチャついている”状態だ。クールな男でいたい自分としては抵抗がある。しかし、家の中ならOKということにした。
テレビを観ていると、冬にピッタリな料理の紹介へ移った。タレントの前には数種類の商品が並んでいる。食品メーカーのもので、日本酒の瓶、レトルトおかゆ、鍋の具材、スープなどだ。司会者が日本酒の瓶を手に取った。出来上がった料理も出て来た。
「……『サエキ酒造の純米吟醸を使ったものがこちらです』」
「佐久弥の実家だよね?」
「そうだよ。昔からあるからファンが多い」
「曾おじいさんの代から酒蔵をやっているんだよね?」
「そのぐらいだ。佐久弥の弟の理久が“一人分の甘酒製造機”を設計している。インターンシップ参加のエントリー時に、試作品のアイデアを売り込んできた。その中にあったものだ」
「面白い子だね!夏樹も言ってたよ。インターンシップで仲良くなったって。遊びに行こうって誘われたよ。でも、理久君のバイトがあって、1月の終わりになりそうだよ」
「何のバイトだろうね」
「動物園の着ぐるみに入るバイトだよ。都内にあるんだよ。結構人気のある動物園で……」
スマホでホームページを検索した。すぐに出てきて、マスコットキャラを見つけた。クマやレッサーパンダのようだ。これに入るのか。動画を観ると、ダンスをしている。きっと理久もやるのだろう。多才な子だと思った。
来月のスケジュールが載っていた。なんと月夜のレンジャーのショーがあるという。特にブルーが好きで、彼のキック技を練習している。観に行きたいが、ショーの日程は、1月26日と27日の2日間だ。26日は大事なスケジュールがある。バンドのコンテストに出場する。
「……月夜のレンジャーのショーがあるんだよ。コンテストの次の日だよー」
「連れて行くよ。君が疲れていなかったら」
「わああ、行きたい!このショーは参加型なんだよ。観客から選んで戦うんだ」
「それをご褒美に頑張れ」
「へへへ……。選ばれるといいな」
これで楽しみができた。今年の8月に出場したコンテストで入賞した結果、さらに大きな大会への出場資格を得られた。それが今度のコンテストだ。これがきっかけで、IKUからデビューすることもある。ディアドロップとガーネリウスも、このコンテストの出身だ。出られるだけでもすごいと思う。
夏樹がIKUエンタテイメントから所属契約のオファーを受けている。バンドメンバーもだ。しかし、夏樹はまだ知らないことだ。黒崎さんが伝えるタイミングを見計らっている。これからどうするのか相談したくても出来ない状況に、胸が苦しくなっている。
今日はクリスマスイブだ。大学が冬休みに入った。早瀬が会社の休みを取ってくれて、ゆっくり過ごそうと思っている。夕食はビュッフェレストランに行く。
リビングのカレンダーを見ると、72候の欄には、乃東生・なつかれくさしょうずと書かれている。
「夏になると枯れてしまうウツボグサの芽が出る頃。この草以外の草木のほとんどは枯れていきます。……モミの木は違うから良かったね」
「……クリスマスには定番だね」
「夏樹たちが庭の木に飾りつけをするんだって。ナツツバキの木だよ。写真を送ってもらうんだ」
「……広い庭だから、雪が降ると良いムードがあるだろう」
ビーフシチューを作りながら、早瀬が笑った。コトコト煮込んでいる鍋には、昨日から仕込んでおいた材料が入っている。牛肉、にんじん、玉ねぎ、ローリエ、赤ワインだ。アクを取りながら弱火で煮込んでいる。
「夏樹も作ってるところかな?」
「そろそろ煮込みを始めるだろう。気に入ってもらえるといい」
「裕理さんのレシピだから大丈夫だよ。あとで電話してみるよ。遠藤さんからの誘いのことも聞きたいし」
早瀬が作るビーフシチューが美味しいと話すと、夏樹がレシピを知りたいと言った。さっそくラインで送ったのが一昨日のことだ。
ビーフシチューの煮込みが終わるまで、ソファーでダラダラしながらテレビを観始めた。寝転がった早瀬の上に、さらに俺が寝転がっている。広めのソファーだから、こんな風にしなくてもいいのに。つまりは”イチャついている”状態だ。クールな男でいたい自分としては抵抗がある。しかし、家の中ならOKということにした。
テレビを観ていると、冬にピッタリな料理の紹介へ移った。タレントの前には数種類の商品が並んでいる。食品メーカーのもので、日本酒の瓶、レトルトおかゆ、鍋の具材、スープなどだ。司会者が日本酒の瓶を手に取った。出来上がった料理も出て来た。
「……『サエキ酒造の純米吟醸を使ったものがこちらです』」
「佐久弥の実家だよね?」
「そうだよ。昔からあるからファンが多い」
「曾おじいさんの代から酒蔵をやっているんだよね?」
「そのぐらいだ。佐久弥の弟の理久が“一人分の甘酒製造機”を設計している。インターンシップ参加のエントリー時に、試作品のアイデアを売り込んできた。その中にあったものだ」
「面白い子だね!夏樹も言ってたよ。インターンシップで仲良くなったって。遊びに行こうって誘われたよ。でも、理久君のバイトがあって、1月の終わりになりそうだよ」
「何のバイトだろうね」
「動物園の着ぐるみに入るバイトだよ。都内にあるんだよ。結構人気のある動物園で……」
スマホでホームページを検索した。すぐに出てきて、マスコットキャラを見つけた。クマやレッサーパンダのようだ。これに入るのか。動画を観ると、ダンスをしている。きっと理久もやるのだろう。多才な子だと思った。
来月のスケジュールが載っていた。なんと月夜のレンジャーのショーがあるという。特にブルーが好きで、彼のキック技を練習している。観に行きたいが、ショーの日程は、1月26日と27日の2日間だ。26日は大事なスケジュールがある。バンドのコンテストに出場する。
「……月夜のレンジャーのショーがあるんだよ。コンテストの次の日だよー」
「連れて行くよ。君が疲れていなかったら」
「わああ、行きたい!このショーは参加型なんだよ。観客から選んで戦うんだ」
「それをご褒美に頑張れ」
「へへへ……。選ばれるといいな」
これで楽しみができた。今年の8月に出場したコンテストで入賞した結果、さらに大きな大会への出場資格を得られた。それが今度のコンテストだ。これがきっかけで、IKUからデビューすることもある。ディアドロップとガーネリウスも、このコンテストの出身だ。出られるだけでもすごいと思う。
夏樹がIKUエンタテイメントから所属契約のオファーを受けている。バンドメンバーもだ。しかし、夏樹はまだ知らないことだ。黒崎さんが伝えるタイミングを見計らっている。これからどうするのか相談したくても出来ない状況に、胸が苦しくなっている。
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