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16時。
この住宅街は緩やかな坂になっている。車で進んでいくと、森のような場所に出た。手前に小さな門があり、向こうの大きな門から入った。その先にはお屋敷が建っている。
夏樹たちが住んでいるのは、東の方角にある家だ。お屋敷よりもずっとコンパクトで、可愛い感じがする。クリーム色の壁に煉瓦造りのテラスがあり、ノスタルジックな外観をしている。二人と一匹の暮らしなら、十分な広さだと言っていた。元々は、黒崎家のお父さんの妹が一人で住んでいたそうだ。黒崎さんから見ると叔母にあたるし、子供時代は同じ敷地内に住んでいたというのに、一度も会ったことが無いそうだ。そして、叔母さんは亡くなっている。
「いくら広い敷地でも会ったことないって。俺が言うのも変だけど、仲が良くない家なのかな?」
「妹さんと黒崎社長は仲が良い兄妹だった。色んなことがあって、黒崎家の集まりにも付き合いも、一切しなくなったと聞いたよ。……あの家を建てて家庭菜園をやっていたそうだ。……黒崎社長が話したがらない」
「そっか。黒崎さんは子供だったから聞かされていなかったのかな……、あああ……、人の家の詮索はだめだだめだ……」
「ははは。圭一さんが笑っていたぞ。……嫌になるのも分かる。俺も同じことをした身だといえる。その人の家に住むことになったのは縁があるって、圭一さんが言っていたそうだ。ポジティブだろう?」
「ふむふむ。夏樹もそう言っていたんだっけ?」
「そうだよ。圭一さんはポジティブな人だ。……着いたよ」
連絡しておいたから、すでに門が開けられていた。車から降りると都内に住んでいるのを忘れるぐらいに気温が低かった。木々に囲まれているからだろう。
「けっこう気温が下がっているね。雪が降りそうだよ。あの辺の雲……」
「……ホワイトクリスマスだ」
「ナツツバキの木に飾りつけをしてないよ。黒崎さんが熱を出しているもんね」
「……手伝いたいけどなあ。あ、夏樹君だよ」
「おーーい、ふたりともーー」
「あーー、なつきーー!」
玄関のそばにはインパクトのある服装をした男の子が立っていた。赤い綿入りはんてんを羽織っている。その下に着ているのは、”トラの顔”がプリントされたTシャツだ。首に巻いているのは、唐草模様の手ぬぐいであり、寒さ避けだ。
「夏樹君……、日本を楽しんでいる海外の旅行客みたいだね」
「もうーー。いいじゃんーー」
夏樹は和風のファッションを好んでおり、浅草でワードローブを揃えている。気軽に買えるもので個性を出すという考えだ。クールでカッコイいい。
そう思っていると、頭に被り始めたものを見て、ズッコケそうになった。ニット帽の形をしていて、顎の下で、パチッとスナップで止めている。淡いピンクのウサギの帽子だ。長めの耳が垂れている。似合っているから、ツッコミようがない。そして、寒いのにありがとうと言いながら、小走りで向かってきた。庭の小石を踏んづけて転びそうになっている。
「ひいいいっ、俺たちが行くからさー」
「ごめんね~、平気、平気」
「いいからーー」
「ははははー」
早瀬や黒崎さんから聞いた話だが、黒崎家は、昔から色んなことが起きている家だという。若い世代の人が事故死したり、長患いの病気にかかったりすることが多いそうだ。敷地内も家の中も綺麗に掃除されている。管理が行き届いているのに、重苦しい空気が漂っていたそうだ。しかし、こうして実際に訪ねてみると、まるで正反対だといえる。夏樹が暮らし始めてから、一気に空気が変わったらしい。遠藤さんがそう言っていた。
こんなにコミカルな子が住んでいれば、暗くなりようがないだろう。ここから見えているテラスには、柿が干してある。てるてる坊主もいる。そんな楽しい家だ。
この住宅街は緩やかな坂になっている。車で進んでいくと、森のような場所に出た。手前に小さな門があり、向こうの大きな門から入った。その先にはお屋敷が建っている。
夏樹たちが住んでいるのは、東の方角にある家だ。お屋敷よりもずっとコンパクトで、可愛い感じがする。クリーム色の壁に煉瓦造りのテラスがあり、ノスタルジックな外観をしている。二人と一匹の暮らしなら、十分な広さだと言っていた。元々は、黒崎家のお父さんの妹が一人で住んでいたそうだ。黒崎さんから見ると叔母にあたるし、子供時代は同じ敷地内に住んでいたというのに、一度も会ったことが無いそうだ。そして、叔母さんは亡くなっている。
「いくら広い敷地でも会ったことないって。俺が言うのも変だけど、仲が良くない家なのかな?」
「妹さんと黒崎社長は仲が良い兄妹だった。色んなことがあって、黒崎家の集まりにも付き合いも、一切しなくなったと聞いたよ。……あの家を建てて家庭菜園をやっていたそうだ。……黒崎社長が話したがらない」
「そっか。黒崎さんは子供だったから聞かされていなかったのかな……、あああ……、人の家の詮索はだめだだめだ……」
「ははは。圭一さんが笑っていたぞ。……嫌になるのも分かる。俺も同じことをした身だといえる。その人の家に住むことになったのは縁があるって、圭一さんが言っていたそうだ。ポジティブだろう?」
「ふむふむ。夏樹もそう言っていたんだっけ?」
「そうだよ。圭一さんはポジティブな人だ。……着いたよ」
連絡しておいたから、すでに門が開けられていた。車から降りると都内に住んでいるのを忘れるぐらいに気温が低かった。木々に囲まれているからだろう。
「けっこう気温が下がっているね。雪が降りそうだよ。あの辺の雲……」
「……ホワイトクリスマスだ」
「ナツツバキの木に飾りつけをしてないよ。黒崎さんが熱を出しているもんね」
「……手伝いたいけどなあ。あ、夏樹君だよ」
「おーーい、ふたりともーー」
「あーー、なつきーー!」
玄関のそばにはインパクトのある服装をした男の子が立っていた。赤い綿入りはんてんを羽織っている。その下に着ているのは、”トラの顔”がプリントされたTシャツだ。首に巻いているのは、唐草模様の手ぬぐいであり、寒さ避けだ。
「夏樹君……、日本を楽しんでいる海外の旅行客みたいだね」
「もうーー。いいじゃんーー」
夏樹は和風のファッションを好んでおり、浅草でワードローブを揃えている。気軽に買えるもので個性を出すという考えだ。クールでカッコイいい。
そう思っていると、頭に被り始めたものを見て、ズッコケそうになった。ニット帽の形をしていて、顎の下で、パチッとスナップで止めている。淡いピンクのウサギの帽子だ。長めの耳が垂れている。似合っているから、ツッコミようがない。そして、寒いのにありがとうと言いながら、小走りで向かってきた。庭の小石を踏んづけて転びそうになっている。
「ひいいいっ、俺たちが行くからさー」
「ごめんね~、平気、平気」
「いいからーー」
「ははははー」
早瀬や黒崎さんから聞いた話だが、黒崎家は、昔から色んなことが起きている家だという。若い世代の人が事故死したり、長患いの病気にかかったりすることが多いそうだ。敷地内も家の中も綺麗に掃除されている。管理が行き届いているのに、重苦しい空気が漂っていたそうだ。しかし、こうして実際に訪ねてみると、まるで正反対だといえる。夏樹が暮らし始めてから、一気に空気が変わったらしい。遠藤さんがそう言っていた。
こんなにコミカルな子が住んでいれば、暗くなりようがないだろう。ここから見えているテラスには、柿が干してある。てるてる坊主もいる。そんな楽しい家だ。
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