回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
45 / 286

4-13

しおりを挟む
 19時。

 マンションに荷物をおろして着替えを済ませた後、今夜のレストランにやって来た。一軒家風の店だ。9月に食べに来たことがあり、3カ月ぶりだ。

 早瀬の仕事が忙しくて、外食といえば、マンションの近くで済ませていた。もちろん色んな店には行ったが、見える景色が同じだったから、今夜は遠くに来たような気分だ。

 天井が高くて開放感がある。あまり席数は多くないらしい。周りからは話し声がしており、リラックスして食べられる。カジュアルなイタリアンレストランというものだろう。

「お肉のロースト、美味しいよーー」
「この店を気に入っているね。やっと連れて来られたよ。行きたいって言ってくれたから」
「気にしないでよ。これからいっぱい来れるだろ。夏樹もこの店が好きなんだよ。あっさりめのメニューが多いから」
「たくさんお腹に入るだろう?追加オーダーしたから、もっと料理が来るよ」
「へへへ、全メニューを食べたいぐらいだよ」

 コース料理は順番に来て、前菜、スープ、メインの肉料理、パスタなどが続く。しかし今夜は特別で、料理が一度にやってきた。次々と平らげていくと、新しい料理が出された。

「カツレツがあるなんて思っていなかったよ。このジャガイモの冷製スープ、あっという間に飲んだよ」
「おかわりする?……ビシソワーズスープをお願いします。魚の香草パン粉焼きも。……彼の分だけで」

 さっそくスタッフに声をかけてもらった。早瀬の前ではバクバク食べることが出来る。レストランや料亭には、両親と何度か行ったことがある。親族の集まりや、知り合いの人に会うときだ。行儀よくして、丁寧な受け答えをしていた。

 久田さんのお子さんは、いい子ですね。うちの子にも見習ってほしい。マナーがいい。そんなことを言われるたびに、両親が嬉しそうにしていた。自分にとっては普通のことで、ちっとも美味しく感じなかった。コンビニのパンや、ラーメン屋で食べたチャーハン。そっちの方が、よっぽど美味しかった。その時は友達と一緒だった。今では、どんな店でも美味しい。カジュアル、高級、何でもいい。自分の焼いた、焦げた卵焼きですら美味しい。

「悠人君、どうした?お腹がいっぱいになったのか?」
「違うよ!カツレツのソースが美味しくて、どうやって作るのかなって思ったんだ」
「家で再現してみるよ。デミグラスソースを使っているはずだ」
「やったーー。裕理さんが食べたしじみのスープパスタ、俺も作りたいよ」
「正月休みに作ろう。他にはあるのか?」
「えーっとね……」

 黒崎製菓の年末年始の休みは、12月29日からだ。もう一息だと言い、早瀬が笑っている。その休みの間に、彼から料理を習うことにした。

「……こちらです」
「……ありがとう」

 スタッフと早瀬が囁き合っている。どうしたんだろう?テーブルには追加料理が置かれているのに。

 冷製スープを飲みながら、そばのテラス窓から見える庭を眺めた。クリスマス仕様になっているから、カラフルな箱がいくつか置かれている。動物の形のイルミネーションもある。サンタクロースがいると楽しいなと思っていると、目の前にいた。各テーブルをまわって、何かを客に渡している。

「わわわ……っ」
「今日はお店のイベントデーだ。えらく驚いているね。サンタクロースが苦手なのか?」
「違うよーー。庭のモニュメントにもサンタがいたらいいなあって思ってたんだ。そこにいたからビックリしたんだ」
「よかった。こっちに来てくれたよ。君へのプレゼントだ」
「わあ……。ありがとうございました!」

 サンタクロースから渡されたのは正方形の箱だ。まわりのテーブルでは、焼き菓子が入っていたと話している。この箱は小さいから違うようだ。ワクワクしながら開けると、紺色のケースが入っていた。これには見覚えがあり、胸がドキッとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

処理中です...