回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ワイドショーでは、千尋製菓内の派閥を面白おかしく報道された。それが去年の11月のことだった。あれから何も報道されないから気になっていた。

 さすがに早瀬には聞くことができない。いくらライバル企業である黒崎製菓の社員であっても、父親がつらい目に遭っているのだから。仲のいい父親だと聞いた。血のつながりがないのに可愛がってくれたという。

「裕理さん。チャンネルを変えるよ」
「大丈夫だよ。さあ、どんなニュースかなあ?」
「あ……」

 リモコンを奪われてしまった。朝っぱらから観たくないだろうに。しかし、早瀬は笑顔になっている。アナウンサーが伝えたのは、落ちていた業績が回復しつつあるというものだった。

「……『専務取締役、早瀬孝則氏により……上方修正、業績回復の一手が……』」
「裕理さん、回復だって……」
「朝一番のニュースで取り上げられると思っていたんだよ」
「だから起きたんだね!言ってくれればいいのに」
「眠いだろう?他の時間帯でもやるだろうし、ネットニュースでも出ているよ」
「マジで?見る見るーー」
「あの人が親父だよ。優しそうな人だろう?」
「ほお……」

 画面の中で、数人が会議をしているような場面が映った。その中に、ふっくらした体型の男性が話している。温厚そうだが、しっかりした話し方をしている。どっしり構えているようにも見えた。早瀬から聞いたのは、一族の中では発言力が弱く、奥さん、つまりは早瀬の母親からも馬鹿にされているということだ。とてもそんな風には見えない。業績回復をさせた人でもある。

「裕理さん。よかったね!」
「ああ。俺も嬉しいよ。これで親父のことを見直すだろう」
「聞いたイメージとは違うよ。凄い事をことをやったのに……」
「いや……」

 今まではそうではなかったと言った。どういう事だろう?言葉を待っていると苦笑されてしまった。

「俺の家族に興味があるのか?」
「当たり前だよ!結婚相手のことを知らないなんて。裕理さんのことだから知りたいんだ。いい加減な理由じゃないよ」
「ごめんごめん。疑っていない。嬉しかったからだ」
「もうーーっ」
「……頼りにならないとか、大人しいからとか。色んな事を言われていた。俺から見てもそうだったよ。リーダーシップを取って、先頭を切るタイプとは違う。じっくり話を聞いて判断する人だ。……それを分かっていないのが、早瀬家の人間だ。……若い頃から頭角を出す人、晩年になってからの人、それぞれだよ。親父は大器晩成だろう。……もしかすると、最初からそうだったかもしれない。気づかなかった自分が情けない……」

 早瀬がため息をついた。今回のことは嬉しいのに、自分のことが恥ずかしいとまで言い出した。ここは話を聞いて励ますのがベターだろうが、社会人としての経験が浅い自分では、役不足だろう。失礼だとも思う。

「そんなに残念がるなよ。お父さんが社会人になったのは、何歳から?千尋製菓で働き始めたのは?今は何歳なんだよ?いつからお父さんになってくれたの?」
「親父は今年で68歳だ。大学卒業後、千尋製菓グループで秘書をやっていた。25歳で千尋製菓で勤務を始めた。33歳で母と結婚して、早瀬家の婿養子になった。41歳の時に、俺の父親になってくれた。4歳から育ってもらった。母の妹が本当の母親だと知った時、そばにいてくれた」
「見抜けなかったのは、おかしくないじゃん。裕理さんが社会人になったのって、22歳だろ?まだ9年しか経っていないんだよ?その時のお父さんは、59歳だよ。……まだ分かるわけないよ。どうして仕事ぶりが理解できるんだよー?」
「はははー、叱られた。正論だ。完敗だー」
「もう……」

 茶化しているのか?どうでもいいことだ。どんな理由でも笑顔を取り戻せたなら。分かっていないからこそ、出来ることもあるだろう。何かお祝いをしたい。

「裕理さん。お祝いをしようよ。美味しいものを食べに行こう」
「いいよ。君が食べたいだけだろう?」
「もうー。そうじゃないよー」
「ごめんね。親父に会ってくれないか?向こうも君に会いたがっている。まだ仕事に時間が取られているから、来月あたりになるそうだ」
「もちろん喜んで!プレゼントを買わないとね」
「それは要らないよ。楽しく食事をしてくれるのが一番の贈り物だ」
「うん……」

 すると、早瀬が何か思いついた様子で笑いかけてきた。簡単に出来ることだというから、それならやると答えた。それは何かと質問すると、真面目な顔で答えを口にした。そして、早瀬のことを幻滅した。

「変質者!浴衣を着崩して、ベッドで待てだってー!?」
「そんなに怒るな。明日から出張だぞ。浴衣を着崩して見せてくれ」
「しかも座っていろって?なんの映画だよ?」
「夢だったんだ」
「知らないよ!寝るからね」
「ゆうとくーん、朝ごはんを食べよう。オムレツを用意するから」
「バカーー!」

 楽器部屋に籠城した。しばらくして、ドアの隙間から料理の匂いが入って来た。バターと卵焼きだろう。ちょうど腹が空いていた。さっそくドアを開けると、早瀬がオムレツを持って立っていた。ごめんねと謝りながら。
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