回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 今、佐久弥が来た。沈んだ顔をしている様子で、リビングへ入った。急にごめんと謝りながら。電話を切った10分後に訪ねて来たから、急いでいたそうだ。よっぽどの事が起きたのだろう。まずは珈琲を飲んで落ち着いてもらう。

 コト……。トレーから珈琲カップををテーブルに置くと、佐久弥がありがとうとお礼を言ってきた。いつもより遠慮しているようだ。

「そんなに遠慮するなよーー」
「お茶菓子のセレクトがいい。裕理が選んだのか?」
「これは俺が買ってきたよ。大学内のカフェで。美味しいよー」
「へえー。何ていう店だ?」
「……”追憶との遭遇”だよー」
「……哲学的だな?学食ゾーンの方じゃないだろう?」
「どうして知っているんだよ?」
「悠人君。佐久弥はね……」

 早瀬がキッチンから声を掛けてきた。君と同じ大学出身、理学部だよと。驚いてズッコケそうになった。こんな共通点、ほしくない。

「ぜんぜん!聞きたくない。それよりさー、何があったんだよ?」
「……まだ周りには伏せてもらえるか?うちのバンドのTAKAが、大麻所持容疑で逮捕された。勾留されているから、マスコミにバレるのは時間の問題だ。もっと前にも捕まった。これで2回目だ……」
「たまたまツイッターで見つけたよ。それかな?」
「ああ、聞いたことがある。……バンドを解散させるつもりだ」
「そうなんだね……」
「スタジオと実家の方にも、報道陣がマークしていた。他のメンバーにも張り込んで、コメントを取ろうとしている。実家は迷惑がかかるし、クラのマンションも避けている」
「しばらく、ホテル暮らしになるの?」
「今のところは。すぐに飽きるだろうから、一週間程度だ。俺の方は新しいプロジェクトがあるから、騒動を避けている」

 佐久弥はスタジオからの帰りだった。そこで事務所から連絡を受けて、すぐに隠れるところが必要だった。ホテルは知られてしまうから、大きなカフェで迎えを待つことになったそうだ。幸いにも、うちのマンションの近くだった。

「今夜は泊まって行ってよー。裕理さん、いいだろー?……もちろんだってさ」
「今日は帰るよ。ありがとう。……ああ、事務所からだ。……もしもし。羽柴アイランドのマンションにいる。友達のマンション。……分かった」

 佐久弥が電話を切った後、大きなため息をついた。こんなことしかできないが、何度も背中をさすった。彼がマンションを出る間際に、遠藤さんから連絡が入った。今回のことで対応が必要なため、スタジオ見学は延期にすると。俺の方は、佐久弥がここにいることを伝えた。

 しばらくして、迎えの車が到着した。早瀬とエントランスまで佐久弥のことを見送った。その時には、少しだけ笑顔が戻っていた。
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