回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 人だかりの奥の方に、エスニック柄のニット帽が見えた。すぐに佐久弥のものだと分かった。だったら周りにいるのは記者か?仕事関係の人には見えない。笑顔で話しているようでも、困っているように見えた。

「ここで停めてださい!」
「どうされましたか?」
「知り合いを見つけたので。待って頂くことは出来ますか?」
「はい」

 タクシーが裏道へ入り停車した。すぐに降りた後、佐久弥の元へ走って行った。ここから店までは近い距離だ。すぐにたどり着いた。

 佐久弥のことを取り囲んでいる男たちはウィンドブレーカー姿で、普通にこの街に溶け込んでいる。それでも空気感が周りと違う。コンテストで雑誌の取材を受けた時、相手の記者は丁寧だった。学生相手でもだ。しかし、今ここにいる男達はそうではない。自分の勘には自信をもっている。

 俺がそばに行くと、男たちが、”知り合いか?”と狙うような目で見てきた。佐久弥は知らないふりをしている。俺が巻き込まれない為にやっているのだろう。いいや、俺が悪者になってやる。

「さくやーーー!」
「……友達の方?バンド関係?」
「……N新聞の……です」
「まってたんだよーー?行こうよ!」

 男達が俺に話しかけてきた。しかし、それには答えずに、強引に佐久弥の手を引いた。すると、男が文句の声をあげた。こっちは仕事だと言われた。男達は記者だと分かった。俺のことは『どこかの偉い手』には見えないだろう。だからそういう態度をとる。佐久弥は社会人としての立場がある。俺は19歳だ。これを利用してやる。

「この人にどんなご用ですか?」
「ご用があるんだよ。佐久弥さん、時間を取らせませんので。TAKAさんはどこにいるんですか?」
「……お答えしません」
「勾留されているんですよね?あなたにも関係しているんですか?そう受け取りますよー?」
「ふうん……」

 問題発言だ。都合がいい。二人の間に入り、その記者に告げた。

「それは名誉棄損です!」
「キミも知り合い?」
「あなたには関係ない!名誉棄損です!発言を取り下げてください。謝罪もお願いします」
「はは……」
「……ここで失礼します」
「佐久弥さーーん、コメントだけです」
「謝罪をお願いします!」

 記者たちがニヤニヤと笑い始めた。だったらTAKAさんはどこにいるんですか?と。佐久弥から肩を抱かれて、歩道に押し出されそうになった。それならば言い返してやる。それらしく、早口で言ってやろう。間違えていても、ツッコめない。これは早瀬の戦法だ。

「もう一度、言います。佐久弥に謝罪してください」
「だからー、名誉棄損っていうのはーー」
「『公然と事実を摘示して、人の名誉を既存したとき』に成立します」
「キミには関係ないよね?」
「名誉毀損罪が成立するには、不特定又は多数の第三者が見ているか、見ることができる状況、かつ、人の名誉を毀損する事実を摘示することが必要です」
「キミのことは言っていないのに?」
「『俺という第三者』が存在します!分かった?」
「めんどくさいなあ……」

 ここで夏樹の戦法を活用しよう。かなりムカつくものだ。真面目な顔をして、真っ直ぐに相手を見つめた。真剣な声を出すのがポイントだ。思い切りバカにするためだ。

「分かった?どう?」
「ち……っ」
「どうかな?」
「なんだ……」
「どう?聞いてる?」
「ああ……」
「どう?聞いてるー?次のテストに出るよー?」
「……あのね。憲法上保障されているんだよ。表現の自由だ。それを否定することになるぞ?僕たちはそうして……」
「へへへ……」

 やっぱりこう来たか。関係ないのに。こう言い返してやろう。侮辱罪にはならない。佐久弥の背中越しに記者を見つめた。どうしても庇われている。ここで追い払ってやる。面倒くさいガキとして。

「あんた『法律』って顔をしてないよ。無理するな」
「だーーー、もう!どこの大学だ?」
「10代の子に何を聞くんですか?」
「はあ……?」
「こっちは10代だよ。19歳!子供みたいなものだよ。分かってんのか?」
「もう、やめておけ……」

 他の記者が間に入ってきた。帰ろうとしている。やっぱりマズいのか。ここでムカつくことを言って、終わりにする。

「俺の親、総合法律事務所のトップだから。大企業の顧問弁護士。わかったー?」
「帰ろう……」

 これが理由で怯んだわけではない。とにかく面倒くさいから嫌になったわけだ。早瀬達の戦法をミックスさせると物を投げたくなる。おそらく彼らも同じだろう。
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