回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 そそくさと帰っていく記者たちが見えなくなった。佐久弥の手を握った。タクシーが停まっているから乗ろうと声をかけた。佐久弥が頷いた。タクシーへ向かっている間も手を繋いだままだ。小言は聞かないと宣言してあるのに、佐久弥の方から聞かされた。

「……あのなあ。ああいう連中は相手にするな」
「さくやー、ちゃんと笑顔だったね。えらいよ。見直した」
「当たり前だ。どういう繋がりがあるかも分からない。そもそもこういう商売は、人気があってこそだ。サエキ酒造のことで言うと、いくら上手い酒を造ってもだな、知名度が低いと飲んでもらえない。知る人ぞ知るでもいい。俺はそういう考え方をしていない。いいものを広めたいし、いいものを作りたい」
「ふむふむ……」

 いいことを聞かせてもらっている。心にとどめておこう。毒々しい魔法使いのくせに、けっこう溜まっているものがあるようだ。不機嫌な顔を見せると”カンジが悪い”と、ネットで拡散される。そういう仕事をしている人だ。叱られているふりをして吐き出させよう。

「聞いているのか?お前の名前を呼ばなかったのだな……」
「調べられるからだよね?ただの学生に?って思うけど……」
「繋がりを知りたいからだ。情報を持っておきたいわけだ」
「嫌な仕事だね」
「こら!そういう言い方をするな」
「なんで?生活のためだって分かるけど……」

 なんだかムカムカしてきた。佐久弥の愚痴を吐き出させたいのに、こっちのほうが吐き出したくなった。しかしここは抑えておこう。

「どんな仕事でもいい。犯罪はだめだぞ?」
「どんなって?ムカつく奴らだったよ?失礼だし、都合が悪くなったら退散したじゃん。後ろめたいことがあるからだよ」
「それは当たってる。俺が言いたいのは、いろんな人がいるっていうことだ。本気で相手にするだけムダだ」
「なんで?バカにされるよ?」
「それでいい。大事な人にだけ正面を向く。それが俺のスタイルだ」
「ほお……。コンテストの時、取材を受けたんだ。丁寧な人だったよ?5人とも。IKUのサポートがあるけど、隠せないものがあるもん」
「丁寧なことを出来ない人がいる。家に帰ったら泣いているかもしれない。こんな仕事はイヤだけど、奥さんと子供を食べさせるためだからって我慢している。社会部とか、希望通りの部署には行けない。……ああやらないとコメントが取れないんだろう」
「協力してあげるわけ?」
「絶対にしない。さっきのは利用している。……佐久弥って紳士的だなーとか、広まるんだ。いいだろう?……ほんの数分のことで」
「ストレスが溜まりそうだよ。うちのお父さんも……」
「お父さんがどうした?」
「ううん!何でもない。佐久弥の話を聞きたい」
「小言を聞かされたくないんだろう?」
「あああ……」

 どうしよう?この人は大人だった。佐久弥の方を見ると笑っていた。早瀬でも黒崎さんでもない。本当の友達になりたい。ここで相談してもいいのかな?いや、佐久弥の話を聞きたい。まるで幼稚園児のように手をつないで歩いている。お兄ちゃんと弟のようだ。帰り道、そういう兄弟を見て、羨ましい思いながら帰っていた。そこで、父との関係を話すことにした。

「……お父さんとは今まで、こんなことがあったんだ。どう思う?」
「……お父さんに会ったことがないから、想像でしか言えないぞ?」
「それでいいんだ。31歳の佐久弥から見てで……」
「そうか。この先に身体が悪くなっても、面倒をみてもらえない可能性があっただろう。寂しいと思った時には、周りには誰もいない。これが俺から見た感想だ。……黒崎家のようだな」
「お父さんのことだよね?」
「ああ。たとえ話だ。ちゃんとやっているだろう?今は」
「優しい人だよ。うちのお父さんとは、抱えている社員の数がケタはずれに違う。……お父さんの事務所は80人ぐらい。黒崎家のお父さんは、もっと大変だよね。優しくしてくれてさ……。口だけなら何とでも言えるもん。行動に出しているもん」
「今は人が集まっているだろう?黒崎圭一さんもだ」
「そうだと思う……」
「裕理も同じだ……」

 そうなのか。佐久弥たちは長い時間一緒に過ごしてきた。小さな頃から知っている。まだ自分には理解できないことがあるのを知り、ジレンマを感じている。
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