回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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11-17

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 16時半。

 これからステージで演奏を始める。各楽器ごとの授賞式の進行中だ。桜木さんが佐久弥からトロフィーを受け取った。何か話しているが聞こえない。とてもいいことなのだろう。桜のような満開の笑顔を浮かべている。

 ああいう華やかな人だ。藤沢のように目を引かれるから、プロになって活躍すれば、印象的なステージになるはずだと、佐久弥が言っていた。プロのスタッフに囲まれて磨き上げられ、よりよいものに仕上げられるのだと。

 個人受賞者へのトロフィーを渡し終えて、受賞バンドの演奏まで時間がある。それぞれが肩を叩き合っている中、佐久弥と桜木さんのことを見守った。俺のところから会話が聞こえてきた。

「……腕のいいドクターを紹介する」
「……いえ。もう決めたことですから。ありがとうございます」
「……夏樹をメンバーへ推薦する。……もいる」
「……それだと。佐久弥さんは?」
「……続けてくれ」

 おそらく、佐久弥のバンドのメンバーのことだ。構成はボーカル、ツインギターだ。ベースとドラムは候補がいないそうだから、サポートメンバーになるそうだ。一年間限定のバンドメンバーになるのは、新人が条件だ。一年後の成長を見てもらう意味がある。

 ステージでは、5位から2位へと順番に呼ばれて、観客からの拍手を受けている。今回は優勝が2組いると司会者が告げると、大きなどよめきが起きた。

「……エントリー8番、IRON ANGEL、……9番、ゼロスペース!」

 わーーーー!

 リーダー達がトロフィーを受け取った。抱き合い、背中を叩き合った。これからステージを披露する。並川さん、桜木さん、藤沢にとっては最後の受賞ステージだ。IRON ANGELという船から降りた3人が、新しい道へ歩き始める。

「スタンバイ、お願いします!」
「はーーい!」

 ガヤガヤ、ガーーー。

 スピーカーからは、楽器の音や、スタッフの話し声が聞こえた。これから夏椿の天使の演奏を披露する。

「……ポジショニングOK?」
「……オッケーー!」

 メンバー同士で手を振り合った。大きな歓声が起こっている。ここまで歓迎してもらえるなら、思い出に残るものにしたい。夏樹が観客に向かって声を張り上げた。

「ありがとうございますーー!夏椿の天使ーー!」

 ガーー、ダダダダダーー!

 ドラム音が鳴り響き、ベースと、ギターのフレーズが鳴り響いた。岸に降り立った3人が、新たな第一歩を踏み出した靴音だ。出発の合図でもある。

「同じ空をみてーー、Angel of ーー、トリャーー!」

 夏樹が煽ると、トリャーー!と観客席から返って来た。たった一度のシャウトを覚えてくれたのか。目の前には海が広がっている。まるで、うねる波のようだ。

 桜木さんのギターソロへ入り、夏樹のそばへ行って向かい合って踊った。夏樹の目には涙がにじみ、嗚咽をこらえているのが分かった。

 ここで泣いてもいいじゃないか。そう声をかけると、夏樹がぶんぶんと首を振った。そして、口の動きだけで意思を伝えて来た。

(ここでは泣かない。終わった後にする!)
(俺も同じだよーー。あ……)

 夏樹の肩越しに佐久弥の姿があった。ステージから観客に見えないギリギリの場所に立ち、ガッツポーズをされた。ベースの弦を押さえる手ぶりの後、ギター演奏の指の動きをした。最後はピックを投げる仕草をした。

 すっかり気を取られてしまった。演奏の手が止まっていたようで、佐久弥の顔がひきつり、戻れ!と声をかけられた。あれでは、スピーカーから聞こえるだろう。

(わわわ……、遅れる!みんなー。ありがとう)

 縁の下の力持ちとして役目を果たす決心をしたのに、遅れてしまったベースフォローをしてもらえた。並川さんがイントロのリズムを叩き、桜木さんが大笑いをしながら、二曲目の再開のフレーズを奏でた。さらに藤沢が話しかけて来た。

「タラタラー、タタター。悠人君、どうしたの?」
「わわわ、ありがとう!これでOK。桜木さーん」
「夏樹君が煽っているから待っていよう。ほら、君のうちわを持っているぞ。裏面が”ゆうと”だ」
「わわわっ。えーっと。げえええっ」

 赤い光の照明で見えづらかった。夏樹がシャウトした後、俺の方へ振り向いた。観客のジャンプに合わせて踊っている。笑い声と歓声が混ざっている。

 どうしよう?夏樹が腰に差したうちわには、たしかに俺の写真が貼られていた。控え室にいた時は、黒崎さんの分だったのに。

「……see!……that with my own eyes!まだいけるかーー、オラアーー!」

 ワーーー!

 桜木さんから背中を押されて、夏樹の隣へ立った。ベースのリズムを再開させて、夏椿の天使の演奏に戻った。次の曲では踊れないから、ここでやっておく。

「ゆうとーー、せーーのーー!」
「せーーのーー!」

 めちゃくちゃ楽しい。また佐久弥が視界に入った。見たことがない程の真剣さが漂っている。

 あの技で仕上げたい。ドラムのそばへ行って合図を送った。"アイアンエンジェルスペシャル"という技を使う。一斉に音を止ませて、同時に再開させる方法だ。

「エンジェル、オブ、アイアンエンジェルーー!トリャーー!」

 夏樹のシャウトが発射の合図だ。不思議と緊張感を持たない。高揚した気持ちのままで突っ走り、そのスペシャル技が大成功した。ありがとう。観客へ向けて心の中で呟くと、大きな声援が送られた。ステージから下りたくない。心からそう思った。
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