回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 演奏が終わった。大歓声が起きている光景を目に焼き付けようと、メンバー全員で手を振った。スタッフへ頼み、5分ほど時間を取ってもらえた。頭上のカメラが動き、ステージ前方には、仙頭カメラマンが立っている。ミライの時にも撮ってくれていた人だ。

 このステージへ戻ってこようねと、夏樹と手を握り合った。彼の首筋から汗が流れているのに、違和感があるほど手が冷たくなっていた。横顔が青ざめているのに、肝心の本人が気づいていないようだ。

「なつきー。サイドへ戻ろうねーー」
「ううん。もっとみんなの顔を覚えて帰る!みんなに久しぶりって言いたいからっ」
「どうして脈がバクバク打っているんだよ。なつきー?待って!」

 やっぱり限界が来た。藤沢と2人で夏樹の身体を支えた。並川さんがスタッフへ声をかけている間、桜木さんが黒崎さんのことを呼びに行った。こういう時に息が合いたくない。あたふたしたい。しかし、これが現実だ。桜木さんが腱鞘炎のことを内緒にした理由の一つでもある。夏樹は聞いた話によって体調に変化を起こすからだ。この入賞ステージの前に、桜木さんと話したことを思い出した。

(夏樹君は3か月後が誕生日だ。20歳まで頑張ってもらう)
(身体のことですよね……)
(そう。願掛けだよ。それを超えたら大丈夫だと思っているんだ。ギターをやめる理由付けにさせてもらった。俺は療養する。悠人君は夏樹君の手を引いてあげて。アルバムの参加があるだろう?)
(正式に決まっていません。所属契約の話だけ済ませました)
(バタバタしてきたね!後で話そう)

 夏樹の身体を抱きしめた。左側の額の傷跡を見て、胸が痛くなった。左手にもある。少し呼吸が楽になったようだ。ステージサイドから大和が駆け寄ってきて、並川さんがスタッフと話をしている。医療スタッフの手配が始まった。

 夏樹が両足を踏ん張っている。俺達に寄りかかってもらいたい。そこへ、桜木さんが戻ってきて、彼の耳元で話しかけた。

「夏樹君。座ろうね。……大和君はスタンバイしてね」
「うん。夏樹君、頑張れよ。あとで……」
「なつきー。黒崎さんが来てくれたよ。もう大丈夫!」
「ナツキーー!」
「お母さん……大丈夫だよ」
「俺が連絡しておくから。こっちに来て!」

 夏樹のお母さんが観客席から彼の名前を呼んでいる。こんな歓声の中なのに聞こえて来た。そばへ来たいだろう?それを堪えているのか。俺が抱きかかえて連れて行こうかと思ったが、まずは休ませる方が先だと思った。

 藤沢と力を合わせて、夏樹の身体を支えた。するとその時だ。視界の中に黒崎さんの姿があった。来てくれたようだ。これで元気全開になる。ほっとして力を抜いてしまい、藤沢が慌てふためいた。

「黒崎さん……くろさき……さん」
「……今度は走るな」
「黒崎さーんっ、やったよーー」
「いい子だから。椅子に座れ」
「やだよ、くろさき……さんっ。黒崎さーーーん!」
「なつきーー!ストップー!げええええっ」
「うわーー、ああー、キャッチ……」

 夏樹が黒崎さんの元に走り出した。また転ぶだろうと冷や汗が流れたが、ちゃんと着地点へ到達していた。自然と笑い声が出てきて、周りのスタッフから拍手が起きた。

 達成感の中だと、体調が悪いことに気づかないものだ。ふっと気が抜けた瞬間が危ない。でも、心配なさそうだ。クルクル回ってくれと、黒崎さんに要求している。こんなに人の多い場所で求めるのか。ステージに強いわけだ。

 すると、2人が端の方へ移動した。こっそりという感じが面白い。さっそく言い合いが起きそうな予感がして、ハラハラした。そこへ、後ろから肩を叩かれた。俺のことを呼んだのは早瀬だ。会いたくなっていた。しかし、それは早瀬では無く、彼の声真似をした佐久弥だった。

「げえええっ」
「悠人君、どうしたんだ?」
「さくやー。声真似をするなよ!」
「ぎゃははは。裕理!悠人を抱きかかえても構わないか?」
「やめてよーー!」

 後からやって来た早瀬へ助けを求めた。男らしくないが仕方がない。やり過ごして控え室へ戻りたい。しかし、早瀬から前へ押し戻された。男になっておいでという声掛けつきで。すると、佐久弥が目の前に来て、俺のわきの下に両腕を差し込んだ。

「心配するな。理久にやっていた。15年前だけど、要領は覚えている」
「なんのことだよ?まさか……」
「ぎゃははー。ゆうとくーん、クルクル回ってやろうか?」
「うるさい!毒々しい魔法使い!ひいいいっ」

 こんなに佐久弥に腕力があるのかと驚いた。軽々と持ち上げられた後、両足が浮き上がった。そして、佐久弥を軸にして回転を始めて、クルクル回り始めた。佐久弥が余裕をかましてスピードを速くし、早瀬が笑いだした。桜木さん達からは拍手が起きている。

「ゆうとくーん、どうだー?」
「裕理さーーんっ」
「……はいはい。佐久弥、もっとやってくれ」
「げえええっ」
「ゆうとー。聞いておけ」
「なんだよー、ひいいいっ」
「よくやった。ご褒美をもらっておけ!」

 ストン。意外なほどに軽く、床に着地した。そして、すでに興味を失ったかのような振る舞いをして、佐久弥が奥へ歩いて行った。誰かから呼ばれたようだ。その先ではスーツ姿の男性と話している。また真剣な表情に戻ったのを見て、胸が熱くなった。かっこいい。リスペクトすると決めた。

 夏樹のことが心配で振り向くと、俺のことに気遣う様子で控え室へ向かっていた。さっきのは見ていないよ?というジャスチャーを送ってきたから、ズッコケそうになった。

 するとその時だ。いきなり身体が宙に浮き上がった。早瀬の肩に担がれてしまった。そのまま通路へ出て、カメラが回っている中、控え室へ運ばれてしまった。
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