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13-1 バレンタイン・イベント
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2月14日、木曜日。午前6時。
カレンダーを見ると、72候の欄には、魚上氷・うおこおりをいずると書かれている。そばに置いてあるクーラーボックスの中も同じ状態だ。昨日釣りに出かけた、早瀬の友達の高野さんから貰った魚が入っている。
「割れた氷の間から魚が飛び跳ねる頃。水が温かくなるんだね。……高野さんからいっぱい貰ったね」
「……昨日は温かかったから良かった。伊吹君と2人で釣りに行ったそうだ」
「もう一回見るよ。おおーー。薄氷が張っているよ」
「……もうすぐ田辺さんが取りに来てくれる」
この部屋の下の階に住んでいる人だ。早瀬のお父さんの元同級生の女性で、小さい頃の早瀬のことを知っている。たまたま同じマンションに住んでいることを知り、それ以来、近所付き合いが始まった。
田中屋のかぼちゃ食パンを持って行ったところ、美味しさにハマり、毎週買いに行くようになったと話していた。田辺さんからは野菜を貰っている。お取り寄せの定期コースに入っていて、夫婦ふたりでは食べきれなくなったと嘆いていた。とても美味しいから、分けてもらえて嬉しい。
「ゆうとくーん。落ち着きなさい」
「落ち着けないよ。明日がオーディションだもん。夏樹は今月末だって思っているのに……。一緒にやりたいから嘘をついてもいい」
「今回は許してもらおう。責めるわけがないぞ?君が一番知っているはずだ」
とうとう運命の日がやって来た。夏樹が佐久弥のバンドメンバーに決まるかどうかのオーディションの日が開かれる。夏樹は緊張するタイプだから、ぶっつけ本番がいいだろうと黒崎さんが言い、今月末が日程だと言ってある。本当は明日だ。俺の方は決定していて、仮契約も結んである。
明日のオーディションは数人のボーカル候補者が歌う。俺は演奏で手伝いをすることになった。貴重な体験ができるという意気込みで参加する。夏樹は自分のことでも大変なのに、俺のことを心配して、あれやこれやと料理を持って来てくれた。食欲が無くなると元気が出なくなるし、早瀬の仕事が忙しくて、食事作りができないだろう?と。
コンテストの後、俺は黒崎家へ遊びに行き、佐久弥のライブ映像を観て、ボーカルとギターで練習している。桜木さんも協力してくれた。
「はあーー。夏樹、大丈夫かな?ぶっつけ本番だなんて。……プロの前で歌えるなんて。こんな機会はないよ!って言っていたけど」
「夏樹君は泣いていないそうだ。君と一緒にオーディションを受けて楽しめるからだよ。親友が夢をかなえるところを見られて、いい刺激を受けている。……圭一さんも応援している。夏樹君のご両親から頼まれたからだよ。期間限定のバンドで使ってもらえるなら、ぜひ経験させてやってほしいと。佐久弥に引っ張ってもらえることが大きい。君の存在もある。佐久弥にも恩返しをしたいそうだ」
「恩返し?」
「実はね。夏樹君はコンテストよりも前に、佐久弥と出会っている。佐久弥がディアドロップのツアー中に、会場の外を散歩していた時に、夏樹君が大学生から絡まれているのを助けたんだ。乱闘していたし、怪我をしていたから、夏樹君は佐久弥だと気づいていなかった」
「それ、聞いたことあるよ……。佐久弥だったんだね」
「そうだよ。高校生の時のことだ。夏樹君のことを好きになった大学生の子から車に連れ込まれそうになって、取っ組み合いになった。怪我をして搬送された……」
「どんどん記憶が薄れていくんだよね?ショックなことが起きた時って。その時のことをあんまり覚えていないって言っていたよ」
「そう。身体を守るためだ。やっと人前に出られるようになった」
それは残念な出来事だったと聞いた。佐久弥が早瀬に話したのは、助けに入った時の夏樹の目が忘れられないということだった。自分と似ていると感じて、それがきっかけで、ディアドロップの活動を続ける気になれた。佐久弥はディアドロップのツアーが終わった後、表舞台から去る気でいたそうだ。
「佐久弥は夏樹に話さないスタンスなんだね?」
「そう聞いている。これは大きな縁だろう。君が繋いだものだ」
「うん!」
「さすがだなーー?ギタリスト・ユート!」
ピーーン、ポーーン!
モニターから来訪者を伝える音が鳴った。田辺さんが田中屋の限定ローパンを持って来てくれた。玄関先で物々交換をした後、今日のバレンタインイベントの話をした。外食して帰ろうと決めて、ビュッフェの店をネット予約した。
カレンダーを見ると、72候の欄には、魚上氷・うおこおりをいずると書かれている。そばに置いてあるクーラーボックスの中も同じ状態だ。昨日釣りに出かけた、早瀬の友達の高野さんから貰った魚が入っている。
「割れた氷の間から魚が飛び跳ねる頃。水が温かくなるんだね。……高野さんからいっぱい貰ったね」
「……昨日は温かかったから良かった。伊吹君と2人で釣りに行ったそうだ」
「もう一回見るよ。おおーー。薄氷が張っているよ」
「……もうすぐ田辺さんが取りに来てくれる」
この部屋の下の階に住んでいる人だ。早瀬のお父さんの元同級生の女性で、小さい頃の早瀬のことを知っている。たまたま同じマンションに住んでいることを知り、それ以来、近所付き合いが始まった。
田中屋のかぼちゃ食パンを持って行ったところ、美味しさにハマり、毎週買いに行くようになったと話していた。田辺さんからは野菜を貰っている。お取り寄せの定期コースに入っていて、夫婦ふたりでは食べきれなくなったと嘆いていた。とても美味しいから、分けてもらえて嬉しい。
「ゆうとくーん。落ち着きなさい」
「落ち着けないよ。明日がオーディションだもん。夏樹は今月末だって思っているのに……。一緒にやりたいから嘘をついてもいい」
「今回は許してもらおう。責めるわけがないぞ?君が一番知っているはずだ」
とうとう運命の日がやって来た。夏樹が佐久弥のバンドメンバーに決まるかどうかのオーディションの日が開かれる。夏樹は緊張するタイプだから、ぶっつけ本番がいいだろうと黒崎さんが言い、今月末が日程だと言ってある。本当は明日だ。俺の方は決定していて、仮契約も結んである。
明日のオーディションは数人のボーカル候補者が歌う。俺は演奏で手伝いをすることになった。貴重な体験ができるという意気込みで参加する。夏樹は自分のことでも大変なのに、俺のことを心配して、あれやこれやと料理を持って来てくれた。食欲が無くなると元気が出なくなるし、早瀬の仕事が忙しくて、食事作りができないだろう?と。
コンテストの後、俺は黒崎家へ遊びに行き、佐久弥のライブ映像を観て、ボーカルとギターで練習している。桜木さんも協力してくれた。
「はあーー。夏樹、大丈夫かな?ぶっつけ本番だなんて。……プロの前で歌えるなんて。こんな機会はないよ!って言っていたけど」
「夏樹君は泣いていないそうだ。君と一緒にオーディションを受けて楽しめるからだよ。親友が夢をかなえるところを見られて、いい刺激を受けている。……圭一さんも応援している。夏樹君のご両親から頼まれたからだよ。期間限定のバンドで使ってもらえるなら、ぜひ経験させてやってほしいと。佐久弥に引っ張ってもらえることが大きい。君の存在もある。佐久弥にも恩返しをしたいそうだ」
「恩返し?」
「実はね。夏樹君はコンテストよりも前に、佐久弥と出会っている。佐久弥がディアドロップのツアー中に、会場の外を散歩していた時に、夏樹君が大学生から絡まれているのを助けたんだ。乱闘していたし、怪我をしていたから、夏樹君は佐久弥だと気づいていなかった」
「それ、聞いたことあるよ……。佐久弥だったんだね」
「そうだよ。高校生の時のことだ。夏樹君のことを好きになった大学生の子から車に連れ込まれそうになって、取っ組み合いになった。怪我をして搬送された……」
「どんどん記憶が薄れていくんだよね?ショックなことが起きた時って。その時のことをあんまり覚えていないって言っていたよ」
「そう。身体を守るためだ。やっと人前に出られるようになった」
それは残念な出来事だったと聞いた。佐久弥が早瀬に話したのは、助けに入った時の夏樹の目が忘れられないということだった。自分と似ていると感じて、それがきっかけで、ディアドロップの活動を続ける気になれた。佐久弥はディアドロップのツアーが終わった後、表舞台から去る気でいたそうだ。
「佐久弥は夏樹に話さないスタンスなんだね?」
「そう聞いている。これは大きな縁だろう。君が繋いだものだ」
「うん!」
「さすがだなーー?ギタリスト・ユート!」
ピーーン、ポーーン!
モニターから来訪者を伝える音が鳴った。田辺さんが田中屋の限定ローパンを持って来てくれた。玄関先で物々交換をした後、今日のバレンタインイベントの話をした。外食して帰ろうと決めて、ビュッフェの店をネット予約した。
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