回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 夏樹の沈んだ顔になった。そこで、佐久弥が早瀬に話しかけた。やっぱり無理を言っているだろうか?と。すると、黒崎さんが首を振った。乗り越えさせたい件だ。いつまでも同じではいられないのだと。それは高宮さんが言っていたことが関係しているのだと思う。外見を活かしたいと言われたからだと思う。俺達はミュージシャンだ。まずは音楽で引きつけたいというのが夏樹の考え方だ。危ない目に遭ってきた夏樹からすると、外見をクローズアップするというのは引っかかる部分なのだろう。それを黒崎さんは乗り越えさせたいと言っている。

 佐久弥と黒崎さんが話し始めた。2人が顔を見合わせて話している姿が不思議に思う。サエキ酒造時代に、取引先として会ったことがあるとはいえ、息が合っている。以前から知り合いのように見える。

(元から知り合いなのかな?黒崎家のお父さんが、佐久弥のことを知っていたぐらいだし。……あ、夏樹が顔をあげたー)

 俺の方も、今回はポジティブに受け取ってもらいたいと思う。不思議なことに、音楽のことになると前向きでいられる。押しの強さまで出てきた。

「なつきー。今回は仕事と夢のコラボって考えようよ。悪い意味で注目はされないんだよ?」
「うん……」
「……夏樹。また俯いているぞ」

 黒崎さんが夏樹の顎を持ち上げた。何か引っかかると俯く癖を直しているそうだ。愛情が込められた笑顔を向けている。強引なのに優しい。こういう形で引っ張っていけたらいいのに。まだ自分は力不足だ。

「PVもステージだろう?」
「……え?」
「20歳の誕生日を思い出せ」

 誕生日に過ごしたテーマパークの件だ。レストランでミニライブをやった。IRON ANGELとしてだ。みんなで作り上げるのっていいねと話した。

 黒崎さんの話に耳を傾けている夏樹のことが、もっと年下に見える。何でも出来る子だ。頑張れる子でもある。実際はもがいている。白鳥が水面下では足を動かしているように。

(いい言葉をかけられない。俺が言うのは役不足だ。もっと年を取るといいのかな?)

「ウサギーとトラッコが歩いているのを見て、みんなが手を振っただろう。お前はそれを見て、これもステージと同じだと笑っていたぞ。みんなで作り上げている。……PVも同じことだ。距離があるかないかだけの差だ」
「そっかー。同じ映像を観て、ステージに立っているんだね!」

 すーっと腑に落ちる感覚か?パッと明るい顔になった。黒崎さんが頭を撫でている。ホッとしたとき、理久が言い出したことに笑いが起こった。

「あのさーー。お兄ちゃんって、ディアドロップのイメージから脱却したいって言うわりにはねーーー」
「りくーー、何かあったか?」
「あったじゃん」

 理久がキッチンからやって来た。甘酒づくりの準備をしてくれていた。そして、弟から見た佐久弥のイメージとエピソードを話したことで、しんと静まり返った。そして、一斉に笑いが起きた。ディアドロップでのイメージを嫌がっていたくせに、理久から似合うと言われて、ディアドロップのイメージの綺麗な色のショールを羽織って散歩に出かけたことがあるそうだ。

「りくー。あれはお前への嫌がらだぞ」
「俺は本気で似合うって言ったんだよ?お兄ちゃんも本気だよね?ショールを羽織ってラジオ体操の集まりに出かけたもん」
「朝は寒いからだ。ちょうどいい。あれぐらいが……」
「ほらねーー?夏樹君、悠人君。こういう人なんだ!ディアドロップのイメージも悪くないって思っているはずなんだ。いろいろ気にしなくていいからね」
「それを言うなら圭一さんも……」
「俺がどうかしたのか?」

 早瀬が言い出したことに笑いが起きた。黒崎さんのことをイジっている内容だ。理久がやめようよと声をかけたが、早瀬はやめようとしない。そのまま言った。

「こういうことだよ。圭一さんが赤い着物を羽織って登場したら恐怖だろう?」
「うんうん……」
「悠人みたいなエクステを付けると?どうなると思う?」
「ひいいいっ」

 どうしよう?こんなたとえは失礼だ。

「ディアドロップ時代の佐久弥みたいになると、恐ろしいだろう?妖艶なのか魔物なのか分からないよ」
「ぎゃはははーっ」
「……おい。言い過ぎだ」
「早瀬さん。もっと例えを聞かせてよ」
「他にはね」
「……あのなあ」

 黒崎さんがイジられている。みんなの笑い声が落ち着いた頃、レコーディングの話に移った。いい子マンの早瀬がクランに化けて、俺の隣に座った。苛められると警戒したら、どっちでもない人がいた。

 これも不思議だ。2人分のバージョンが存在しているはずなのに、最近は1人しか感じない。じっと見ていると鼻をつままれて、俺が減るからあんまり見るなと言われた。いじめっ子だ。仕返ししていると、みんなから笑われて、離れて座り直した。
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