回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 17時。

 早瀬の冗談が続いてみんなが大笑いした後、ピアノが弾きたくなった。早瀬からやめておけと止められたが、左手だけでもメロディーは奏でられる。黒崎さんがピアノ好きにとっては我慢できない状況だとフォローを入れてくれて、ピアノの前に座ることができた。

 そばの窓から庭が見える。木々が多くて遠くが見えない。ナツツバキの白い花が咲いているから、これが見たくて整えていないのだと、黒崎さんが教えてくれた。お父さんの家のダイニングから見た池の景色も好きで、見どころ満載だと思う。

 さっそくピアノを弾かせてもらった。佐久弥のソロ楽曲がカッコいいから、ピアノバージョンにアレンジしてみた。

「悠人君。アレンジが上手いな」
「へへへ。ありがとうございます」
「いろんな面を持っているよね~」

 夏樹がため息をついた。ピアノの音色が綺麗でウットリしたそうだ。夏樹こそ多面体だと言える。気が強くて喧嘩っ早い。女の子から人気が出て囲まれたときは、森本の後ろに隠れたことがあった。真っ赤になった顔を見られたくないからだ。本当に嬉しそうにしていた。黒崎さんから苛められて大泣きするし、奥村の件では冷静に対処してくれた。向こうがビビッて近づかない時期もあった。今はニヤけた顔をしている。

「なつきー。キミは”可視光線”みたいだよ。光は波長の長さでいろんな色になるんだ。自分が”赤色”に見えても、隣の人にとってはオレンジ色かもしれない。夏樹は何色にでもなれると思う。……へへへ。いいことを言いました?」

 黒崎さんから褒められた。佐久弥が目を閉じて聞いている。早瀬がそばに立って楽譜をめくってくれた。黒崎さんにバトンタッチしてもらい、さっきのアレンジを即興で弾いてもらった。いつまでも聴いていたい演奏だ。

 黒崎さんもプロの道を諦めた人だ。プロのピアニストを目指していたのに、お父さんが勝手に音大の入学を辞退した。黒崎さんなら強い意志で貫くだろう?と、最初に話を聞いたときは思ったが、別の理由もあると分かって胸が痛くなった。亡くなったお兄さんと、黒崎製菓で働く約束をしていたから、大学生の時に黒崎製菓で秘書の仕事を始めたそうだ。

「なつきーー。このアレンジはどう思う?黒崎さんが弾いたらクラシックって感じになって……。あれ?どこかな?」

 夏樹と理久の姿がない。リビングの方を眺めても気配がない。佐久弥が心配そうにキョロキョロしている。

「理久と夏樹がいないぞー?どこだーー?」
「なつきーー。りくーー?あああ……。寝転がっているよー」

 さっそくキッチンへ向かうと、2人が床に寝転がっていた。真っ赤な顔をしている。カウンターには、甘酒製造機と湯呑が置かれている。まさか、甘酒で酔ったのか?

 佐久弥が理久に水を飲ませた。黒崎さんが夏樹の介抱を始めて、早瀬がタオルと洗面器を持ってきた。2人はアルコール耐性が弱いらしい。

「さくやー。甘酒は子供でもOKだよね?」
「加熱すれば、アルコール分が飛ぶ。足りなかったんだろう」
「ふむふむ。そうなのか。真っ赤だよー」

 リビングのソファーに寝かせた。やっと返事が出来るようになり、顔色も普通に戻ってきた。このまま様子を見ることにした。

 佐久弥が電話をかけ始めた。相手はお母さんだ。予定より早いが、迎えに来てくれと頼んでいた。俺が悪いから理久を叱るなと、シュンとした様子で話しているのを見て驚いた。

 あの佐久弥が中学生のような顔をして、ごめんなさいと呟いていた。黒崎さんが気にしないでくれと声をかけても、母の方からもお詫びしますと言っている。

「なつきー。ごめん!もっと注意するべきだった。具合はどうだ?」
「佐久弥……。そんな顔をしてないでよ。話していたら甘酒がすすんで……、飲みすぎたよ」
「げええええっ」

 それだけ甘酒を飲めたことが凄い。わりと甘さがあるだろう。残っていた甘酒の匂いを嗅いでみると、酒の匂いしかしなかった。これを自分達が飲んだら、マズイと気づかなかったのか?理久が安心した顔で笑っていた。佐久弥に介抱されながら。その姿を見て、リスペクトしたくなった。
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