回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ……悠人くん!そのまま!
 ……右へ入ってーー、照明ーー。

 13時。

 今日がプロモ撮影の最終日だ。気迫が漂っているスタジオ内で、数台のカメラの前でギターソロを弾いた。さっきまで佐久弥とのツインギターの分を撮っていた。順調に進んでホッとした。

 今回の監督が全体を見ている。これ以上は引き伸ばせないスケジュールだ。気合を入れて、最後のフレーズを弾き終えた直後に、監督からのオッケーというフレーズが響き渡った。

「オッケーーー!」
「おつかれーー!」
「ゆうとーー!よくやった!」
「やったーー……」

 監督プロデューサー、カメラマンのOKのサインが遠くに聞こえた。腕を下ろしても実感がない。佐久弥から背中を叩かれたことで我に返れた。

「さくやーー」
「戻ってきたか?……休憩しよう。夏樹のそばに行こう」
「うん!」

 機材スタッフ、スタイリストがやって来た。ギターを渡して顔の汗を拭いてもらった。自分のパートは終わりだが、まだ残っている役目がある。夏樹が白い檻を蹴り倒すシーンだ。タイミングを合わせるために、俺も映りこまない位置に立って、一緒に蹴り倒す動作をやる。コンテストのステージと同じだ。お互いのリズムを合わせて動く。ただし、今回は横に並ぶ形になる。

 ガーーーー。

 大きなカメラが頭上を動いている。どれだけの人数がスタジオ内にいるのだろうか。スタッフが固唾を飲んで見つめている場所がある。そこには、赤い着物を羽織った夏樹がいた。

「夏樹君!三つぶりで柱を見て!おヘソも柱に向けて!」
「はい!」

 仙頭カメラマンが話しかけて取り続けている。なんと4時間以上も経っている。合間には、10分程度の休憩を入れているとはいえ、やり過ぎではないだろうか?

 今日の昼前には、体調を崩したスタッフが2人いる。緊張と達成感が繰り返される現場では、出演者やスタッフの気迫に押されて倒れる人がいるそうだ。佐久弥から聞いた。

(こうなればとことんいけ!か。大丈夫かな?倒れるかも知れない。……あああ。空気を読まないとな。何も言えない立場だもん。経験を積まないといけない……)

 奥のスペースでは、黒崎さんと早瀬が見学している。張り詰めた顔をしているのが分かる。黒崎家のお父さんも見学に来ている。とても険しい顔になっている。頑張れと応援しているようには見えない。そばに来た佐久弥から肩を叩かれた。

「ゆうとー、もどかしいだろー。自分には何も出来ないって」
「なんで分かったんだよ?」
「お前の顔を見ればわかる。お前と夏樹は違う人間だ。マラソンか100メートル走の違いがある。あの子には瞬発力がある。お前はじっくりと腰を据えたスタイルだ」
「悔しいよー。いい言葉が思いつかない」
「ほら、見てみろ。仙頭さんの魔法だ。……ボーカル・Natsukiがいる」
「うん。すごいなあーー」 

 佐久弥から肩を抱かれて揺すられた。親友が頑張っているところを見ておけと言われた。何年か後には笑っているだろうと断言された。それはどうして?と聞くと、今の自分がそうだからだと答えが返ってきた。

 切磋琢磨できる相手がいるのは幸せなことで、お互いを思いやれる関係を羨ましいと思っているのだと、真面目な顔で言われた。ありがとう。胸がいっぱいで、お礼しか言えない。

「……なつき君はー、ボーカルだよーー!……ステージではどんな風かなーー?」

 仙頭さんが呪文を唱えているかのようだ。大学生の夏樹から、Visible rayのボーカルのNatsukiに変化した。カメラの前で集中している姿は別人のようだ。

「おおー。悠人、お前も変身したぞ。いい芸名を思いついたなー?yu-to、音楽の記号みたいだ」
「うん。その通りのイメージだよ」
「夏樹とは違ったクリエイティブな面がある。グッズのデザインの話かきたら、ぜひ引き受けるといい。よーし、もうすぐだ」

  こうして未来の話をされる度に勇気が出る。自分では気づかない一面を教えてもらった。練習のたびに下手くそ加減を思い知り、ギターを弾くことが好きだという気持ちまで奪われそうになることも、事前に教えてくれた。その通りのことが続いた時、夏樹がこっそり泣いているのを見つけた。高宮さんから下手くそだと言われて練習を積んでいた時だった。その時、自分の涙を拭いた。自分も頑張りたいからだ。
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