回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
203 / 286

20-1 早瀬とのデート

しおりを挟む
 8月7日、水曜日。午前6時。

 カレンダーを見ると、72候の欄には、涼風至・すずかぜいたると書かれていた。

「夏の暑い風から、秋の涼しい風に替わりはじめる頃。……秋の味覚の匂いが分かりやすくなるねー」
「……ははは。本当に食いしん坊だな」
「食欲が増える時期がやって来るね。美味しく食べられるよー」
「……俺のことを食べるなら大歓迎だ」
「トリャー!」

 大学は夏休みに入った。先月中旬の定期試験の後から入っているが、プロモ撮影のことで忙しくて実感がなかった。ひと段落したことで、やっと気づいた状態だ。今週の土曜日は、撮影終了の打ち上げパーティーに出席する。そして、再来週からバンド練習が再開される。それまでの数日間は、家でゆっくり休むことにした。

 夏樹の体調が回復した。今後のスケジュールを見直して、優先順位を付けて計画を立て直した。完璧にやろうとする性格を直したがっている。俺も協力して、周りがフォローしていくことにした。

 ジューーー。

 今朝の朝ごはんは一品多い。昨日作った、きんぴらごぼうを用意した。和食も覚えたいからと、夏樹から教わったレシピで作った。身近な人に聞く方がいい。おかげで上手に仕上がり、自信がついた。

「裕理さーん。ごはんが出来たよーー」
「はーーい」
「美味しそうな匂いがするだろ?」
「……美味しそうだね」

 返事と一緒にボディーソープの匂いが漂ってきた。やけに近くに聞こえるのは、背後から抱きつかれているからだ。それだけならいいのに、吸引力のいいキスを襟足に受けている。

「裕理さんー、食べようよー」
「いいね、この襟足。アップにすると似合うよ」
「結んでいるだけだよ?長いから」
「振り向いたら可愛い子がいた。こっちを向いて……」
「もうーーー」

 情熱的な日課の一つだ。なんとか無事に切り抜けて、ダイニングテーブルへ追いやった。早瀬は冗談でやっている。二日前と同じことにならないように。ベタベタやっているうちに本気を出した結果、バタバタして出勤する羽目になった。

 最近は切り替えが上手くいかないと言っていた。頑固なヒーローユーリの仮面が、エロ行動によって取っ払われたようだ。しかし、切り替え上手だと思う。早瀬がお箸とお茶をテーブルにセットし、あとは俺が椅子に座るだけでいい状態にされた。

「さあ、食べようか。今朝も美味しそうだ」
「昨日も食べたやつだけど。いいよねー?」
「もちろん構わない。毎日でも食べたい。悠人君がゴボウを食べたから嬉しいよ。豚汁以外でも箸が進んだから」
「うん。裕理さんのごぼうサラダも好きだよー。少しだけマスタードが入っているから、アクセントになっているよ。ゆでたまごを混ぜたバージョンも好きだよ!」
「そうか。明日の夜はスペシャルにしようか?すりおろしゴボウ寒天ゼリー、ごぼう茶、きんぴらサラダ、トルティーヤのごぼう巻き」
「げええええっ。わざとだよね?冗談だよね?」
「どうかなーー?触らせてくれない子には意地悪するぞー」
「もうーー」
「ははは、モウモウ言い過ぎだ。牛乳になるぞ?」
「ヤギミルクが好きだもん。メエメエーー」
「こーら。卵焼きが冷めるぞ」
「いただきまーーす」
「いただきます。きんぴらに使った出汁も美味い……」
「醤油もキシヤマ味噌のやつだよ。夏樹も使っていたんだ。黒崎家では、昔からこれだって決まっているんだって。美味しいし。50年ぐらい前に、キシヤマさんに家族がお世話になったそうだよ。義理堅いなーって思ったんだ」
「ああ。早瀬家とは反対だ。……すまない」
「もうーー」

 さっきまでの子供が消えた。今は大人の早瀬が向かいにいる。大人と子供の共存だ。それは自分も同じだ。お互いに棲みついている。その存在を認め合って、育て合っている状況だ。心の中の子供を成長させて、それを長所に変えようね。そう話している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

処理中です...