回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
204 / 286

20-2

しおりを挟む
 タラッタタタターー。

 朝の情報組が始まった。司会のアナウンサーの2人が出てきて挨拶をした。今日のゲストの紹介の後、ニュース見出しテロップが出た。そして、ステージに立っている佐久弥のアップが映し出された。ズッコケそうになった。朝っぱらから見たくない。

「げええええっ。佐久弥が出てきたよー。見たくない」
「ははは。仲良しだろう?一緒に寝たくせに」
「仕方ない状況だったんだよー。腰が痛いから介抱が必要だったし」
「そういう君が好きだよ」
「ありがとう……」

 今から一週間前のことだ。蔵之介さんが出張だからと、佐久弥が泊まりにきた。それは口実で、ギターの練習を見てくれる目的だった。

 その夜のことだ。ギックリ腰を起こしたのか、しばらく動けなくなっていた。健康に気をつけていても、あちこち痛くなると言っていた。スタジオで長時間座ったり、長距離の移動があったりするから、ミュージシャンは腰痛持ちが多いらしい。

 祖母が入院した時に、介護士さんから教わったテクがある。力がなくても動かせるコツだ。介抱したお礼にと、ある仕事を渡された。ベテルギウスの新アルバムに収録する、楽曲提供だ。夏樹が作詞で、俺が作曲を担当する。

「……作曲の方はどうだ?アレンジは仕上がったか?」
「99%は仕上がったよ。細かい部分で調整中だよ。途中の一秒が問題だよ」
「16部音府のAマイナー、3刻みか」
「チョーキングのタイミングもだよ。弾き手のアレンジだけどさー」
「夏樹君からの歌詞はどうだ?気にしていただろう」
「へへへ……、届いているよー」
「そうか良かった」

 負担にならないかと気にしつつ、今回のオファーがIKUから夏樹に伝えられた。もちろん本人は引き受けた。憧れのバンドで歌ってもらえる。そんな夢みたいなことが起きたからだ。楽曲イメージはポップなものを指定された。掛け声を出して、観客がノッてくれるものだ。ベテルギウスの楽曲にはない。

 80年代のアイドル歌手の楽曲を参考にした。メジャーコード進行、覚えやすい繰り返しのメロディー、かつ変化のあるものだ。その下書き段階で、リーダーのアマトリチャーナ布川さんへ送った。即答でOKが出た。キーボードで演奏した動画を夏樹へ送り、さっき歌詞が届いた。

 これが収録されるアルバムは、来年の1月に発売予定だ。すでにレコーディングに入っているらしく、午前中に布川さんへ送信する。会って話したいが、向こうも多忙な人だ。電話でやり取りをする。

「夏樹がねー、元気になったんだよ。歌詞はポジティブなものを指定されたから、余計に良かったみたい。俺の好きな言葉をタイトルにして作ったんだよ」
「ああー、だから圭一さんが口にしていたのか」
「……ん?どんなこと?」
「そのままのあなたが大好き、だそうだ」
「せいかーーい。ふむふむ、話したのか。いいことですねー」

 ポジティブな言葉を口にするのはいいことだ。そう本にも書いてあった。しかし、早瀬がグロッキー気味に見える。どうしよう?何かあったのか?

「どうしたの?」
「オフィスにいるとき、圭一さんが俺に向かって口にした。おかげでデキている噂が立ったぞ。再燃だ」
「ひいいいいっ。一年半も経つだろー?黒崎製菓に移ってきて……」
「コンビを結成して、9年目に突入だ。信憑性がある」
「すごいねー。先輩が言ってたんだけど、気がついたら年数が経っていたんだって」
「そうだぞー、あっという間だ。10代は早かったか?」
「長いような短いような……。気がついたらランドセルを背負ってたよ」

 赤ちゃんの頃の記憶がない。当たり前か。そんなことを話していると、テレビ画面に佐久弥が登場した。話していて忘れていた。ヴィジブルレイのことが話題に出ている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

処理中です...