232 / 286
22-6
しおりを挟む
……ありがとうございました!
……今度ゆっくりきてね。
……お世話になりました。
ミントアップルを出た後、駐車場までの道のりを早瀬と2人で歩いている。佐久弥は先に会場入りすると言い、タクシーで出発した。俺達2人にしてくれたのだろう。気を遣わせてしまった。
朝っぱらから家に遊びに来たのは、俺がナーバスになっているからだ。おかげで余計なことを考えずに済んだ。ちょっかいをかけてくる度に言い返していると、悩むのがアホらしくなるからだ。佐久弥からの魔法だ。
「裕理さん。ありがとう。すっきりしたよ」
「髪の毛のことかー?」
「もうーー。それだけじゃないよ!」
「何のことだ?」
「……」
忘れたふりをしているのか。みっともなくも、わあわあ泣いたからだ。泣き腫らした顔で鏡の前に座り、全てのエクステを取り外した。そして、中途半端な部分をカットし、スッキリしたヘアスタイルになった。
長さを変えずに整えるという方法を知った。グッチャグチャに悩んだ結果、解決方法が見つからなくてもOKだ。白黒志向の自分の中に、やっとグレー色が出現したようだ。どんなことで悩んでいたのかを話しておきたい。
「裕理さん。話したいんだ」
「ちゃんと伝わっていた。あえて何も聞かなかった。聞くだけが解決方法だとは思わない。君の方からドアを蹴破るのを待っていた」
「……っ」
どうしよう?また涙が出てきたじゃないか。これでは夏樹の大泣きのようだ。話に聞いただけだから想像でしかない。さっきの自分のような感じだろうか?
(夏樹の大泣きかー。黒崎さんが言っていたけど、見たことがない。本当に泣くのかな?あんなに凛としているのに……)
たしかに、バンドコンテストの後では、黒崎さんに抱きついて泣いていた。あれはうれし泣きだ。誰でも同じようになるだろう?
「ねえ、裕理さん。夏樹の大泣きってどんな感じ?」
「わあわあ泣くことだよ」
「まだ見たことが無いんだ。ステージの後のやつはうれし泣きだったからさ。大泣きとは違うと思う。俺の前ではやったことがないんだ」
「夏樹君のドアも蹴破ってみろ。君なら出来る」
「黒崎さんにしかぶつけていない気がするよ。俺には愚痴るし、倒れた後も電話がかかってけど。ずっと我慢をしている気がするんだ。あの子にも呪いがかかっているのかな?」
「どんな呪いだろうね?」
「分かっているんだよね?教えてよ!」
「親友のキミが暴こうね。あの強固なドアを蹴破ってごらん。これでクリアになるだろう」
「うん。黒崎家に入ったからだよね?明るくなっても、まだ囲われた家だと思う。俺が言える立場じゃないけど……」
「親友として出来ることがあるだろう。寄り添ってごらん」
「それだけじゃないよ。あの子にしてあげられることを見つけたんだ。俺と同じ気がする」
「そうだと思う……」
何でも頑張れる子だ。だからこそ、あの家に飛び込んだ。黒崎家のお父さんから望まれたからだ。黒崎さんは反対しながらも、心の中では求めていただろう。羨ましく思っていたのは否定できない。だったら自分に出来ることをしよう。支えてくれた人たちへの恩返した。不義理なことをしてはいけない。美容師さんから教えてもらった言葉だ。俺は踏ん張る。
「夏樹のことを迎えに行くよ。家にって意味じゃなくて……」
「分かっているよ。迎えに行ってあげて」
「うん。早く行こうよー。駐車場までダッシュ!」
「転んで怪我をしたら、ギターが弾けないぞー?」
「よっしゃー。これならどうだーーーっ」
早瀬の背中におぶさった。楽しそうに笑っている。通行人からの視線を感じている。どうでもいい。
目指すはIKUのホールだ。俺が迎えに行ってやる。自力で歩いていないがOKだ。今夜までの体力温存だ。胸を張るとヨロけてしまい、慌てて背中にすがりついた。ひいいいいっと声をあげながら。
……今度ゆっくりきてね。
……お世話になりました。
ミントアップルを出た後、駐車場までの道のりを早瀬と2人で歩いている。佐久弥は先に会場入りすると言い、タクシーで出発した。俺達2人にしてくれたのだろう。気を遣わせてしまった。
朝っぱらから家に遊びに来たのは、俺がナーバスになっているからだ。おかげで余計なことを考えずに済んだ。ちょっかいをかけてくる度に言い返していると、悩むのがアホらしくなるからだ。佐久弥からの魔法だ。
「裕理さん。ありがとう。すっきりしたよ」
「髪の毛のことかー?」
「もうーー。それだけじゃないよ!」
「何のことだ?」
「……」
忘れたふりをしているのか。みっともなくも、わあわあ泣いたからだ。泣き腫らした顔で鏡の前に座り、全てのエクステを取り外した。そして、中途半端な部分をカットし、スッキリしたヘアスタイルになった。
長さを変えずに整えるという方法を知った。グッチャグチャに悩んだ結果、解決方法が見つからなくてもOKだ。白黒志向の自分の中に、やっとグレー色が出現したようだ。どんなことで悩んでいたのかを話しておきたい。
「裕理さん。話したいんだ」
「ちゃんと伝わっていた。あえて何も聞かなかった。聞くだけが解決方法だとは思わない。君の方からドアを蹴破るのを待っていた」
「……っ」
どうしよう?また涙が出てきたじゃないか。これでは夏樹の大泣きのようだ。話に聞いただけだから想像でしかない。さっきの自分のような感じだろうか?
(夏樹の大泣きかー。黒崎さんが言っていたけど、見たことがない。本当に泣くのかな?あんなに凛としているのに……)
たしかに、バンドコンテストの後では、黒崎さんに抱きついて泣いていた。あれはうれし泣きだ。誰でも同じようになるだろう?
「ねえ、裕理さん。夏樹の大泣きってどんな感じ?」
「わあわあ泣くことだよ」
「まだ見たことが無いんだ。ステージの後のやつはうれし泣きだったからさ。大泣きとは違うと思う。俺の前ではやったことがないんだ」
「夏樹君のドアも蹴破ってみろ。君なら出来る」
「黒崎さんにしかぶつけていない気がするよ。俺には愚痴るし、倒れた後も電話がかかってけど。ずっと我慢をしている気がするんだ。あの子にも呪いがかかっているのかな?」
「どんな呪いだろうね?」
「分かっているんだよね?教えてよ!」
「親友のキミが暴こうね。あの強固なドアを蹴破ってごらん。これでクリアになるだろう」
「うん。黒崎家に入ったからだよね?明るくなっても、まだ囲われた家だと思う。俺が言える立場じゃないけど……」
「親友として出来ることがあるだろう。寄り添ってごらん」
「それだけじゃないよ。あの子にしてあげられることを見つけたんだ。俺と同じ気がする」
「そうだと思う……」
何でも頑張れる子だ。だからこそ、あの家に飛び込んだ。黒崎家のお父さんから望まれたからだ。黒崎さんは反対しながらも、心の中では求めていただろう。羨ましく思っていたのは否定できない。だったら自分に出来ることをしよう。支えてくれた人たちへの恩返した。不義理なことをしてはいけない。美容師さんから教えてもらった言葉だ。俺は踏ん張る。
「夏樹のことを迎えに行くよ。家にって意味じゃなくて……」
「分かっているよ。迎えに行ってあげて」
「うん。早く行こうよー。駐車場までダッシュ!」
「転んで怪我をしたら、ギターが弾けないぞー?」
「よっしゃー。これならどうだーーーっ」
早瀬の背中におぶさった。楽しそうに笑っている。通行人からの視線を感じている。どうでもいい。
目指すはIKUのホールだ。俺が迎えに行ってやる。自力で歩いていないがOKだ。今夜までの体力温存だ。胸を張るとヨロけてしまい、慌てて背中にすがりついた。ひいいいいっと声をあげながら。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる