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「Visible ray、IKUエンタテイメント株式会社、代表取締役社長よりご挨拶申し上げます」
会場に流れているアナウンスを聞いて、気合いを入れるために鼻息を荒くした。ザワザワした会場に入った後、ステージサイドに移動した。すぐに目に飛び込んできたのが、大型スクリーンだ。華やかな世界が広がっている。テレビで観たことがあるパーティーのようだ。各テーブルに席が設けられているから、結婚式披露宴にも見える。
「ひいいいいっ、なつきーーっ」
「普段通りの自分になれないよーーっ」
「そうだ。変身マントを使おうよ!ダダダー、ギタリストYu-toー!ボーカルNatsukiーー。だめだだめだーー、ひいいい……」
「同じ気持ちだよ……」
「なつきー。あ……」
夏樹の方を見て言葉に詰まった。目をつむり、無言になっていた。集中しているのかもしれない。夏樹に握られた手はそのままで、静かに待った。すると、手がどんどん熱くなり、今度は冷たくなった。
(集中しすぎだ。また倒れたら落ち込むに決まっている。どうしよう?ここで声をかけると中途半端だ……)
心の中で慌てていると、背後に誰かが立った。振り向きざまに、佐久弥が夏樹の肩を叩いた。今夜のステージ衣装は、ディアドロップ時代とは真逆だった。黒ジャケットに軽いメイクをしている。ステージでの佐久弥は女性的に見えていたが、今は男性的だ。プライベートの佐久弥にしか見えない。吹っ切れたのかな?ぼんやりそう思っていると、夏樹の頬を包み込んで笑い始めた。夏樹が緊張が解けたような顔をしている。
「なつきー、ズバリ指摘していいか?」
「うん!おかしいところを教えて」
「Visible rayのボーカルに変身しようとしているだろー?」
「うん……。公式の場だし」
「その必要はない。無理に作り上げたものは不自然だ」
「ステージを盛り上げたいんだ」
「……そうか」
佐久弥が真剣な顔に変わっいそうだた。ドキッと鼓動が強く打った。ざっくばらんな空気から、引き寄せられるようなものに変わったからだ。まるで自分が見つめられているかのようだ。
「……おまえは黒崎夏樹だ。かつ、Visible rayのNatsukiだ。違う人になろうとするな。根性見せろって言ったから、誤解させたんだろう。……今から思うとおりにやってみろ。俺がフォローする。黒崎夏樹として、ステージに出てみろ!」
「佐久弥……。俺は……」
夏樹の唇がガタガタと震えている。心細そうな目をしている。まるで鏡の中の自分のようだ。強くて頑張れる子。実は家に帰ると泣いている。それを見せないだけで、わあわあ泣いている。そういう気がした。
(これが夏樹のドアだ。いっぱいありそうだ。人に頼りたくない。弱音を吐きたくないっていうドアだ。頑張りすぎているんだ……)
「そうしないと怖いからだよ。今さらだって分かっているよ。だったら仕事を引き受けるなって……」
「それで構わない。……俺は完璧な人には魅力を感じない。グッチャグチャに悩んで泣いて、表では笑っているやつが好きだ。親しい人の前で弱音を吐くやつだ」
「なつきーーっ」
夏樹の体に抱きついた。すぐにこっちを見た後、俺のことを庇おうと抱きしめられそうになった。しかし、今日はそれではいけない。守られるだけの自分とは別れる。
こうしよう。パッと離れて立った。仁王立ちになり、夏樹のことを真っ直ぐに見つめた。そして、腹に力を入れて宣言した。
「なつきー。大丈夫だよ。俺だって弱いし、変身マントを使おうとしたもん。やめるって決めた!」
「ゆうとー……」
「もしも倒れたら?……俺が左側を支えるから、安心してぶっ倒れろよ!支え切れなくても下敷きになる。少しは痛みがマシだ!」
「うぇ……」
「思う存分に倒れろよ。俺は男だ!」
「……分かったか?」
ありったけの心意気と決心を宣言した後、佐久弥が大きく頷いた。ドアを蹴破ぶれただろうか。
「せっかくのメイクが崩れるぞ。……それでもいいか。夏樹は夏樹だ。こういうメイクは、ステージ映えするためのものだぞ?着ぐるみのようなものだ。ウサギーっているだろう?遊園地に。トラッコとか。それと同じだ。お前が中身だ。黒崎夏樹だ!」
「さくやーー、リスペクトするよ!」
「よく言った!」
まだやりたいことがある。早瀬から贈られた腕時計と指輪を見つめた。その左手を差し出した。夏樹の左手にも指輪とブレスレットがある。左手の拳を合わせて、ゴチゴチやった。けっこう痛くて笑えた。
「あいさつが始まります。入ってくださーーい!」
「はい!」
「はいっ」
泣いて転んでドロだらけでいい。なんでもOKだ。それを俺が伝えてやりたいと思った。
会場に流れているアナウンスを聞いて、気合いを入れるために鼻息を荒くした。ザワザワした会場に入った後、ステージサイドに移動した。すぐに目に飛び込んできたのが、大型スクリーンだ。華やかな世界が広がっている。テレビで観たことがあるパーティーのようだ。各テーブルに席が設けられているから、結婚式披露宴にも見える。
「ひいいいいっ、なつきーーっ」
「普段通りの自分になれないよーーっ」
「そうだ。変身マントを使おうよ!ダダダー、ギタリストYu-toー!ボーカルNatsukiーー。だめだだめだーー、ひいいい……」
「同じ気持ちだよ……」
「なつきー。あ……」
夏樹の方を見て言葉に詰まった。目をつむり、無言になっていた。集中しているのかもしれない。夏樹に握られた手はそのままで、静かに待った。すると、手がどんどん熱くなり、今度は冷たくなった。
(集中しすぎだ。また倒れたら落ち込むに決まっている。どうしよう?ここで声をかけると中途半端だ……)
心の中で慌てていると、背後に誰かが立った。振り向きざまに、佐久弥が夏樹の肩を叩いた。今夜のステージ衣装は、ディアドロップ時代とは真逆だった。黒ジャケットに軽いメイクをしている。ステージでの佐久弥は女性的に見えていたが、今は男性的だ。プライベートの佐久弥にしか見えない。吹っ切れたのかな?ぼんやりそう思っていると、夏樹の頬を包み込んで笑い始めた。夏樹が緊張が解けたような顔をしている。
「なつきー、ズバリ指摘していいか?」
「うん!おかしいところを教えて」
「Visible rayのボーカルに変身しようとしているだろー?」
「うん……。公式の場だし」
「その必要はない。無理に作り上げたものは不自然だ」
「ステージを盛り上げたいんだ」
「……そうか」
佐久弥が真剣な顔に変わっいそうだた。ドキッと鼓動が強く打った。ざっくばらんな空気から、引き寄せられるようなものに変わったからだ。まるで自分が見つめられているかのようだ。
「……おまえは黒崎夏樹だ。かつ、Visible rayのNatsukiだ。違う人になろうとするな。根性見せろって言ったから、誤解させたんだろう。……今から思うとおりにやってみろ。俺がフォローする。黒崎夏樹として、ステージに出てみろ!」
「佐久弥……。俺は……」
夏樹の唇がガタガタと震えている。心細そうな目をしている。まるで鏡の中の自分のようだ。強くて頑張れる子。実は家に帰ると泣いている。それを見せないだけで、わあわあ泣いている。そういう気がした。
(これが夏樹のドアだ。いっぱいありそうだ。人に頼りたくない。弱音を吐きたくないっていうドアだ。頑張りすぎているんだ……)
「そうしないと怖いからだよ。今さらだって分かっているよ。だったら仕事を引き受けるなって……」
「それで構わない。……俺は完璧な人には魅力を感じない。グッチャグチャに悩んで泣いて、表では笑っているやつが好きだ。親しい人の前で弱音を吐くやつだ」
「なつきーーっ」
夏樹の体に抱きついた。すぐにこっちを見た後、俺のことを庇おうと抱きしめられそうになった。しかし、今日はそれではいけない。守られるだけの自分とは別れる。
こうしよう。パッと離れて立った。仁王立ちになり、夏樹のことを真っ直ぐに見つめた。そして、腹に力を入れて宣言した。
「なつきー。大丈夫だよ。俺だって弱いし、変身マントを使おうとしたもん。やめるって決めた!」
「ゆうとー……」
「もしも倒れたら?……俺が左側を支えるから、安心してぶっ倒れろよ!支え切れなくても下敷きになる。少しは痛みがマシだ!」
「うぇ……」
「思う存分に倒れろよ。俺は男だ!」
「……分かったか?」
ありったけの心意気と決心を宣言した後、佐久弥が大きく頷いた。ドアを蹴破ぶれただろうか。
「せっかくのメイクが崩れるぞ。……それでもいいか。夏樹は夏樹だ。こういうメイクは、ステージ映えするためのものだぞ?着ぐるみのようなものだ。ウサギーっているだろう?遊園地に。トラッコとか。それと同じだ。お前が中身だ。黒崎夏樹だ!」
「さくやーー、リスペクトするよ!」
「よく言った!」
まだやりたいことがある。早瀬から贈られた腕時計と指輪を見つめた。その左手を差し出した。夏樹の左手にも指輪とブレスレットがある。左手の拳を合わせて、ゴチゴチやった。けっこう痛くて笑えた。
「あいさつが始まります。入ってくださーーい!」
「はい!」
「はいっ」
泣いて転んでドロだらけでいい。なんでもOKだ。それを俺が伝えてやりたいと思った。
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