回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 12時半。

 二時限目の宇宙科学の授業が終わった。学食で昼ご飯を食べながら、早瀬とビデオ通話をする予定だ。今日はタイミングが合うらしい。久しぶりのことだ。

(へへへ……。電話の声が違うんだよーー)

 早瀬の通話中の声は、ハスキーに聞こえる。もちろん普段の声も大好きだ。自分は声フェチかもしれない。早瀬相手が限定だが。

 いつもの薄味学食にやって来た。相変わらずの空き具合だろう。そう思って入って行くと、けっこう学生が多かった。夏樹と森本との3人で、顔を見合わせて驚いた。

「今日は人が多いねえ。ゆうとー、限定メニューがあったっけ?」
「ううん。何もないよ。森本も情報を掴んでないだろ?」
「特には。ああ、真羽だ。聞いてみるか」

 カウンター近くで、剣道部員と話している姿を見つけた。山崎もいる。真羽達が俺たちへ手を振ってきた。さっそく近くまで行くと、周りが騒がしくなった。何かあるのだろうか?

「おつかれー。しんばー。今日って何かあるのー?」
「お前らを待っているんだよ」
「うひぇー?」
「サイトに顔が出ていたし、カバーアルバムの配信が始まるだろう?デビューしたから、時の人だ」
「わあああ~っ」
「うぇー?」

 夏樹が顔を真っ赤にした。そそくさとメニューの衝立に顔を隠した。森本が何かを察して、背後に庇った。視線の先には男女のグループがいる。

 女の子から手を振られて、”キャーーッ” と声を上げられていた。いかにも夏樹らしい反応だ。女の子からモテることに耐性がない。イケメンなのに。

「なつきー、手を振ってあげなよ。絵里奈ちゃん達なら平気だろ?」
「そうだけどさー。恥ずかしいもん。キャーーって」
「ふむふむ。ステージ上では別人だなあ」

 仕方がないから、夏樹の手を取ってブンブンと振った。ドッと笑いが起き、男女のグループが手を振り返した。それが呼び水になり、学食内に拍手が起きた。

「ほらー。応援してくれてるって」
「うん……」

 モジモジと立ち上がり、恥ずかしそうにしている。これでは昼ご飯の時間が始まらない。引きずり出していると、俺の名前を呼んでいる、野太い声が聞こえてきた。男グループから手を振られていた。

「久田くーーん!」
「可愛いーー!」
「どうもーー」

(全く嬉しくない。女の子からキャーーって、言われてみたいな……)

 すると、剣道部が先導して、俺たちをカウンターへ連れて行ってくれた。ボディーガード的な役目をしてくれるそうだ。伊吹さんからの指令だと聞いた。

(さすがは伊吹さんだ。物事を円滑に進める姑息な手段。ああいう考え方を取り入れないとなあ……)

 伊吹さんのことを憧れている。剣道部の後輩に慕われている上に、文武両道の男だ。割り切っているようで、全てがそうじゃないと思う。わざとふざけている気がする。

 カウンターの奥の料理を取って、テーブルに運んだ。夏樹と並んで座った後、ふと、彼の瞳の色を見た。明るい茶色をしている。早瀬の瞳も明るい色をしている。しかも、緑色っぽく見えるときもある。夏樹がどうしたんだよ?と聞いてきた。

「裕理さんの瞳の色がね、グリーンっぽく見えるときがあるんだよ。夏樹も明るいから、そうなのかなって」
「そうなんだ?俺はお祖母ちゃんに似ているんだ。悠人は俺の目の色のこと、聞いてこなかったね。めずらしいぐらいだよ」
「そんなに聞かれるの?」
「二回目に会ったら必ず。海外の血が混ざっているの?って」
「ふむふむ……」
「早瀬さんのことだけど。内緒にする話じゃないんだってさ。本当のお父さんは、たぶん海外の人だってさ。早瀬さんが小さい頃に、早瀬さんのお母さんのお姉さん夫婦の養子になったんだって、黒崎さんが言っていたよ」

 その話に驚いた。早瀬からは何も聞かされていない。整理できない気持ちがあるのだろうか。

「ほお……。お父さんに会ったことがあるって言ってた?」
「それはないそうだよ。早瀬さんが黒崎さんに話したんだ」
「ほお……。今のお父さんと似ていないから悩んだかな」
「それはあると思う。二葉ちゃんがそうだから。育てのお父さんと似ていないから。小さい頃から知っていたって。早瀬さんもそうかもしれない」
「そっか……。今の家族が一番だもんね」
「二葉ちゃんもそう言っていたよ。両親には ”過去を悔やむことはして欲しくない” って。お義父さんにも。今はそう思えるようになったそうだよ。……ゆうとー、泣くなよ~。俺は最初から親が同じだからさ。当事者じゃないから気持ちが分かるとは言えない。二葉ちゃんはこう話していたんだ。他の人には泣いてほしくない。同情は要らないって……」
「裕理さんもそうだよね」
「そうだと思うよ」
「……っ。俺に出来ることはステージだ!」

 ガタン!

 勢いよく立ち上った結果、テーブルに体をぶつけてしまった。あああ……。カッコ悪いとヘコんだ俺のことを、夏樹達が慰めてくれた。

 こんなタイミングで、早瀬からのビデオ通話が掛かってきた。痛みを我慢しながら通話に出ると、画面の向こうの人が笑っていた。それに対してブーブー文句を返すと、エロ発言が返ってきて、幻滅してしまった。
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