回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 23時半。

 リビングのソファーにて、パソコンを広げて0時を待っている。音楽配信サイトと、ヴィジブルレイのサイトを開いた。そして、ベテルギウスのカバーアルバムのページも開いた。ベテルギウスのメンバーと、参加したミュージシャンの集合写真がジャケットになっている。俺と夏樹が並んで立って笑っている。植本さんの冗談に笑った瞬間だ。

「こうして見ると、大人びて見える。二人とも」
「ふむふむ。色んなことがあったもん。全ては肥やしだよ」
「えらいじゃないか。ポジティブ発言が飛び出したな」
「うん。20歳になるし……」

 やせ我慢だ。ポジティブ発言をしておいで、指先が震えている。それにはツッコミが入らず、頭を抱き寄せられて、グリグリと撫でられた。

「ドキドキするよーー。収録曲は20曲。一曲ずつの購入も出来るから……。俺たちの分が売れなかったらって……」
「君だけじゃないはずだ。いいか?今からユーリの呪文を教えてやる。復唱しろ」
「うん!」
「ミュージシャンとしてやることをやった。結果は次への参考だ。……はい」
「ミュージシャンとしてやることをやった。結果は次への参考だ」

 両方の頬をホールドされている。真っ直ぐに視線を向けて繰り返し唱えた。何度か口にするたびに笑われた。カタカタ震えながらも唱えた。励ましのキスをされては唱えて、また笑っての繰り返しだ。

 気がつくと0時を過ぎていて、お互いに声をあげた。カウントダウンをしようと思っていたのに。早瀬まで慌てている。開いているページには、すでに配信開始の表示が出ている。

「あああ……。配信開始しているぞ」
「あああ……。俺たちのジャケットの写真がないよー。どこだろう?あああーー」

 さっきまで開いていたのは、№3に収録されている ”ヴィジブルレイ” のページだ。参加ミュージシャンの紹介と写真が載っていた。しかしここでは別の写真になっている。何度確認しても同じだ。

「なんでだろーー。あああ……」
「ゆうとー。懐かしい写真を使ってもらっているぞ?」
「うひぇー?」
「これは誰かなー?今年の冬の写真っぽいぞー?」

 写真を広大させると、そこに居たのは、IRON ANGELのメンバーだった。1月のコンテストで、優勝後に撮影されたものだ。さらに、紹介文にもバンドのことが書かれている。嬉しいことなのに涙があふれてきた。ちっとも読み進められない。早瀬が代わりに読み上げてくれた。

「……10月1日発売、ベテルギウス・カバーアルバム。20人のアーティストが参加。……№3 Visible ray 10月30日デビューを迎える、ボーカルNatsuki、ギタリストyu-to……IRON ANGEL活動後 ……」
「裕理さん……。うぇうぇ……」
「IRON ANGELが過去形で書かれているからか?活動後って?プライベートで活動中だと書かれているのにか?」
「うん……。うぇ……」
「これが前に進むということだ。全員が進んでいる。ほら……、ラインが続々と入って来たぞ?」

 そばに置いてあるスマホには、続々とメッセージが届いている。IRON ANGELのメンバーと森本達、如月、理久、二葉。緑川さんからも届いている。買ったよ!と書いてくれている。これから聴くそうだ。

「夏樹にも教えるよ。この写真に気づかないかも。天然ボケだから」
「はいはい。泣き止んでからにしろ」
「うん。……もしもーし、なつきーー」

 うれし泣きをしながら夏樹に電話をかけると、彼の方も、今、ページを見たところだった。同じように泣いている。

「もしもし。ゆうとー。今ページを開いたところなんだ。このまま待っていてね。……10月1日発売、ベテルギウス・カバーアルバム。20人のアーティストが参加。……№3 Visible ray 10月30日デビューを迎える、ボーカルのNatsuki、ギタリストのyu-to。IRON ANGEL活動中に……っ」
「どうーー?見てるーー?」
「なんだよ。悠人の方こそ半泣きじゃん。佐久弥から誘われたよね。俺も一緒に……」
「うん。考えてよ!待っているから……っ」

 無理に泣き止んで電話しなければよかった。夏樹も泣いていた。黒崎さんから、ディアドロップの名前の由来を聞いただろうか?ワクワクしながら話題に出すと、まだ聞かされていなかった。黒崎さんとしては、俺の方から話すのがいいと判断したということだ。早速話すことにした。

「……なつきー。裕理さんから聞いた話を伝えるよ。黒崎さんには話してあるそうだよ。今日まで内緒にしてもらったんだって。ディアドロップの名前の由来のことだよ」
「どんな話?誰かにあてたものかな?」
「そうだよ。裕理さんと佐久弥がプロデビューのオファーを受けた時、もう一人も誘われたんだ……」

 俺は夏樹に静久さんの話をした。すると、夏樹の泣き声が聞こえてきた。俺も泣いている。

「……静久さんの49日の法要の時に、お寺の木に朝露が残っていて、植本さんが雫だって言ったそうだんだ。それで、早瀬さんが、バンド名を親愛なる雫で、ディアドロップにしたらどうかって言ったそうなんだよ。裕理さんからの笑い話なんだけど、静久さんって、面白い人だったみたい。名前の字が、静と久で静久しずくなんだけど、性格は真逆だったそうだよーー。凄く賑やかで、佐久弥が怒っていたレベルだって。……‥静かって名前のくせに。久しぶりに静かになってくれ!ってさ。……佐久弥の家に遊びにきたら、理久のことをイジっていたんだって。こんな話も聞いたよ……。理久が深く考え込むタイプだったから、Not deepっていうバンド名を付けたんだけど、静久さんがイジって、裕理さんが、”undeep”って名付けたんだってさーー。……でも、理久は深く考えていないふりをしているよね?」
「うん。佐久弥から電話があったんだ。理久が脱却するって宣言したそうだよ。俺たちも頑張ろうね」
「うん。頑張ろうねー」
「黒崎さんのお土産話を聞いてもらいたい。明日、うちにおいでよ。……うん。じゃあね。お休み」
「ばいばい。また明日ね。行くときに電話するよ!」

 お互いの意気込みが伝わり合い、明日夏樹の家に遊びに行くことにした。黒崎さんのお土産話も聞きたい。

 10月1日。新しい航海が始まった。Visible rayという船に乗って。親愛なる雫たちと共に。
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