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26-8(早瀬視点)
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13時半。
20階のオフィスにてミーティングを終えた。室長以上を集めた、週一度の定例のものだ。黒崎が次回の日程を告げ、メンバーがデスクに戻っていった。自分はそのまま留まった。
「圭一さん。先に出させてもらうよ。ありがとう」
「気にするな。俺も早めに出る。そろそろ下に着くだろう。行ってやれ」
「ああ。親父が挨拶をしたいと……」
「向こうでしたいと伝えてくれ。莉奈さんが緊張するだろう」
「はははは。ありがとう」
今日のステージには、親父と莉奈を連れて行く。親父はスポンサー企業側としての招待客であり、莉奈はその同伴者だ。ここの一階のロビーで待ち合わせだ。そろそろ着いているだろう。じゃあ会場で。そう踵を返してデスクに戻った。
するとその時だ。ちょうどそばを枝川が通りかかった。平田も一緒に、俺の一歩前に立った。
「どうしたんだ?」
「すみません。手短に!お話したいことがあります!あの……」
「んん?」
「平田。ここで言え」
今度は枝川が平田の背中を叩いた。何かやらかしたのか?それにしてはオフィス内が落ち着いている。この騒がしい男のことなら、周りが知っているだろう。
入社後は数々の悪いヒットを飛ばした。後始末をした上で、挽回するという繰り返しをしてきた。最近ではスムーズになっているが、何をやったのか?笑い出したいのを堪えて、平田からの報告を待った。しかし、口をつぐんだままだ。時間がないぞ。そう切り出そうとすると、黒崎から声が掛けられた。
「平田、さっさと用件を告げろ」
「ははははい!」
「頑張れーーっ」
「ん?」
黒崎からの威圧感、枝川からの叱咤により、平田が背筋を伸ばした。そして俺のことを見つめた。
「早瀬代理の妹さんに、交際を申し込みました!」
「うひぇーー?」
「まだ返事は頂いておりません!」
「はあああ?」
たしかに莉奈から聞いている。好きな人が出来たと。ごく普通の会社員だと。誰なのかは聞いていない。あれやこれやと詮索するべきではない。付き合っているのかと聞いたときには、”ううん” と、首を振っていた。告白すらしていないし、二人きりで出かけたのは数えるぐらいしかないそうだ。
その出会いは、中学からの女友達と入ったレストランでのことだ。友達が平田と顔見知りだった。食事の後、みんなで二軒目に行った。莉奈にとっては、初めての夜遊びだった。
二人で会った時は、20時までには家に送り届けられた。それを聞くだけでも誠実な男だと安心した。手すら握らないというからだ。
平田は今年25歳の、入社3年目の社員だ。莉奈よりもは2歳年下で、社会経験が豊富とはいえない。だから俺に言えなかったのか?
「妹から好きな相手がいるとは聞いている。君のことか?」
「えええ?莉奈さんに好きな相手が?あああ……」
平田が見るからに落ち込み、肩を落とし始めた。日頃は失敗続きでもポジティブなくせに、こんな姿を見せるのか。莉奈の好きな相手は平田だろう。
(本当はネガティブかもしれない。頑張っているじゃないか……)
意気消沈している平田の肩を叩いた。失恋確定だと呟いている。まるで悠人のような表情だ。そう思うだけでも笑いが込み上げて、吹き出してしまった。
「はははははーー」
「早瀬代理!申し訳ございません!」
「なにがだ?」
「勝手に想いを募らせていたからです!諦めます!失礼します!」
「こら。ネガティブはやめておけ」
「いいいいいええええ……」
「ロビーで莉奈が待っている。ステージに誘ったからだ。返事を聞きに行け」
「はい。承知しました!」
それを口にすると、観念したかのような顔になった。口を一文字に引き結び、力強く頷いた。まさか親父も待っているとは知らないだろう。言わないことにした。
(今日は娘から恋人候補を紹介されて、息子のパートナーとも会うのか。めでたい日だ……)
平田を連れて出ようとすると、黒崎から枝川へ声がかかった。ついでに話しておけと言われている。
「枝川?お前も莉奈のことが好きなのか?」
「違います。俺が好きなのは……」
「誰のことだ?このオフィスか?」
「いえ。入社していません」
「誰の……。まさか理久か?」
「はい」
いつからだ?兄貴は知っているのか?聞きたいことが口からあふれ出そうだ。しかし今は時間がない。平田を連れてオフィスを出た。頭の中は、祝い事と複雑な心境とで祭り状態だ。
緊張している平田を連れてロビーへ降りると、笑顔で話している父娘を見つけた。俺の方を向き、手を振っていた。そして、平田が莉奈に返事を聞いた。すると、莉奈が恥ずかしそうに、はい、私でよかったらお願いしますと返事をした。一気に場が華やぎ、親父が笑顔を見せていた。
20階のオフィスにてミーティングを終えた。室長以上を集めた、週一度の定例のものだ。黒崎が次回の日程を告げ、メンバーがデスクに戻っていった。自分はそのまま留まった。
「圭一さん。先に出させてもらうよ。ありがとう」
「気にするな。俺も早めに出る。そろそろ下に着くだろう。行ってやれ」
「ああ。親父が挨拶をしたいと……」
「向こうでしたいと伝えてくれ。莉奈さんが緊張するだろう」
「はははは。ありがとう」
今日のステージには、親父と莉奈を連れて行く。親父はスポンサー企業側としての招待客であり、莉奈はその同伴者だ。ここの一階のロビーで待ち合わせだ。そろそろ着いているだろう。じゃあ会場で。そう踵を返してデスクに戻った。
するとその時だ。ちょうどそばを枝川が通りかかった。平田も一緒に、俺の一歩前に立った。
「どうしたんだ?」
「すみません。手短に!お話したいことがあります!あの……」
「んん?」
「平田。ここで言え」
今度は枝川が平田の背中を叩いた。何かやらかしたのか?それにしてはオフィス内が落ち着いている。この騒がしい男のことなら、周りが知っているだろう。
入社後は数々の悪いヒットを飛ばした。後始末をした上で、挽回するという繰り返しをしてきた。最近ではスムーズになっているが、何をやったのか?笑い出したいのを堪えて、平田からの報告を待った。しかし、口をつぐんだままだ。時間がないぞ。そう切り出そうとすると、黒崎から声が掛けられた。
「平田、さっさと用件を告げろ」
「ははははい!」
「頑張れーーっ」
「ん?」
黒崎からの威圧感、枝川からの叱咤により、平田が背筋を伸ばした。そして俺のことを見つめた。
「早瀬代理の妹さんに、交際を申し込みました!」
「うひぇーー?」
「まだ返事は頂いておりません!」
「はあああ?」
たしかに莉奈から聞いている。好きな人が出来たと。ごく普通の会社員だと。誰なのかは聞いていない。あれやこれやと詮索するべきではない。付き合っているのかと聞いたときには、”ううん” と、首を振っていた。告白すらしていないし、二人きりで出かけたのは数えるぐらいしかないそうだ。
その出会いは、中学からの女友達と入ったレストランでのことだ。友達が平田と顔見知りだった。食事の後、みんなで二軒目に行った。莉奈にとっては、初めての夜遊びだった。
二人で会った時は、20時までには家に送り届けられた。それを聞くだけでも誠実な男だと安心した。手すら握らないというからだ。
平田は今年25歳の、入社3年目の社員だ。莉奈よりもは2歳年下で、社会経験が豊富とはいえない。だから俺に言えなかったのか?
「妹から好きな相手がいるとは聞いている。君のことか?」
「えええ?莉奈さんに好きな相手が?あああ……」
平田が見るからに落ち込み、肩を落とし始めた。日頃は失敗続きでもポジティブなくせに、こんな姿を見せるのか。莉奈の好きな相手は平田だろう。
(本当はネガティブかもしれない。頑張っているじゃないか……)
意気消沈している平田の肩を叩いた。失恋確定だと呟いている。まるで悠人のような表情だ。そう思うだけでも笑いが込み上げて、吹き出してしまった。
「はははははーー」
「早瀬代理!申し訳ございません!」
「なにがだ?」
「勝手に想いを募らせていたからです!諦めます!失礼します!」
「こら。ネガティブはやめておけ」
「いいいいいええええ……」
「ロビーで莉奈が待っている。ステージに誘ったからだ。返事を聞きに行け」
「はい。承知しました!」
それを口にすると、観念したかのような顔になった。口を一文字に引き結び、力強く頷いた。まさか親父も待っているとは知らないだろう。言わないことにした。
(今日は娘から恋人候補を紹介されて、息子のパートナーとも会うのか。めでたい日だ……)
平田を連れて出ようとすると、黒崎から枝川へ声がかかった。ついでに話しておけと言われている。
「枝川?お前も莉奈のことが好きなのか?」
「違います。俺が好きなのは……」
「誰のことだ?このオフィスか?」
「いえ。入社していません」
「誰の……。まさか理久か?」
「はい」
いつからだ?兄貴は知っているのか?聞きたいことが口からあふれ出そうだ。しかし今は時間がない。平田を連れてオフィスを出た。頭の中は、祝い事と複雑な心境とで祭り状態だ。
緊張している平田を連れてロビーへ降りると、笑顔で話している父娘を見つけた。俺の方を向き、手を振っていた。そして、平田が莉奈に返事を聞いた。すると、莉奈が恥ずかしそうに、はい、私でよかったらお願いしますと返事をした。一気に場が華やぎ、親父が笑顔を見せていた。
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