回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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26-9(悠人視点)

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 15時。
 
 午前中に最終リハを終えて、昼ご飯を食べた。その後すぐにヘアメイクさんの手により、ステージ仕様のスタイルになった。そして雑誌のインタビューを3本受けた。事前にQ&Aは出来ていて、答えるだけの形だった。

 その場での写真撮影もラフなもので、実際に使用するかどうかは分からない。きっとIKUが用意したものを使うだろう。だからリラックスしてねと、加藤さんからアドバイスされた。それだけガチガチになっていた。

「これからもっと緊張する場面がーーっ」
「こらこら、悠人君。ヘアセットが乱れるわよ?」
「ごめんなさい。だめだだめだだめだーーっ」
「ほらほら。早瀬さんのお父さんがいらっしゃる時間よ?」
「ユーリにすがりつくよーー」

 控え室には ”トラのユーリ” を連れて来ている。身長100㎝の、ふっくらボディーに抱きついていると、少しだけ鼓動が落ち着いた。

 さっき早瀬から連絡が入った。お父さんと妹の莉奈さんと一緒に、控え室に来てくれるそうだ。お茶の用意をしながら、そわそわしている。

「将来設計プラン、来年の抱負。もしも病気になった時の生活のこと、親の介護のこと。うんたらかんたら……」

 結婚相手の親に会う際には、どんなことを話せばいいのか。本を読んで調べてきた。すでに結婚しているため、どストライクの答えはなかった。

 つまりは誠実に話すのみだ。向こうも忙しい人だから、簡潔にポイントを絞って伝える。そう考えていると、伝えたいことが山のように出てきてしまい、今更になって慌てている状況だ。

 すごく優しい人なのは分かっている。ここまで緊張することはないだろう。どう取り繕っても自分でしかない。ありのままを見てもらいたい。しかしヘアメイクさんが、こんなことを言った。

「ありのままの私を見ては、それなりに小綺麗にしてからの話よ。ふむふむ。正論ですねー。俺もボサボサ頭で言いたいくないもん。息子さんのパートナーですって……」
「悠人君。彼女が言ったのは違う意味よ」
「確信を突いてるよー。相手が不安に思うもん。裕理さんの出勤スタイル、ピシッとしているもん。ああでもしないと、中身のエロさとギャップに気づかれるし。あああ……。前髪を整えた方がいいかな?」
「また取材が来るからだめよー。その格好で会社員のヘアスタイルは違和感があるの。そうだ、トイレに行った方がいいわよ。お父さんたちがいらっしゃった後は……」
「おおー、そうだった。気晴らしに廊下のトイレに行ってくるよ」
「出て右へまっすぐよ?迷子にならないように」
「いってきまーす。わわわっ。んがーーっ」

 ガチャ、ボフ!

 ドアを開く前に、先に開けられてしまった。さらに入って来たから、弾力のあるものに体が当たった。この感触と揺れは、遠藤さんの腹回りに違いない。様子を見に来ると言っていた。これにもすがりついておこう。

「ふっくら腹回りだーー」
「悠人君。良い揺れだろう?」
「裕理さんもいるんだねー。いいですねえ。このふっくらボディー……。げええええっ」

 早瀬がここにいるなら、お父さんたちもいるだろう。その予定だからだ。慌てて顔を上げると、テレビで観たことのある、温厚そうな男性が笑いながら立っていた。

「はじめまして。裕理の父です」
「ははは、はじめまして!」

 想定外のことに慌てふためいた結果、自己紹介をしないまま、大事な用件を口にしてしまった。

「息子さんをボクにください!」

 その結果、早瀬親子から爆笑されてしまった。俺は真剣に言ったのに。可愛いとまで言われてしまった。その後、早瀬のお父さんから丁寧にお礼を言われた。何にも無い息子ですが、どうぞよろしくお願いしますと。俺は感動して動けなくなり、そういう俺の背中を、早瀬がさすってくれていた。
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