回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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26-12(早瀬視点)

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 17時半。
 
 18時30分開演のホール内は、ほぼ客席が埋まっている状態だ。招待客は500人だ。悠人たちはバンドコンテストで経験した人数より少ない。やりすいだろう。本人達は”実力がないから”だと、ガッカリしていた。

(2人の事をじっくり育てるためだ。久弥、応援する……。ありがとう……)

「……開演15分間前より……非常口は前方、後方の……スマートフォン等での、動画撮影はご遠慮ください……」

 用意された席は前方の通路側だ。関係者専用のスペースであり、スポンサー企業の関係者が集まっている。さらにメンバーの家族もだ。夏樹の両親、伊吹、万理。黒崎の異父弟の朝陽が、並んで話している。

 ここは祝いの席であり、ビジネスの場でもある。プロモーション展開など、顔つなぎが行われている。家族からすれば右往左往するする状況だ。あらかじめIKUの社員が張り付き、くつろいで観れるようにしてもらった。

 親父は莉奈と並んで飲み物を飲んでいる。まるで小さな女の子のように笑っている。平田と付き合うことになり、はしゃいでいた。まだ結婚は考えられないだろう。まずは毎日を楽しむことだ。

(やっと年相応の楽しみができたのか……)

 俺のそばに居るのは理久だ。佐久弥側の招待客として来ている。枝川とのことを聞いておきたい。インターンの出来事がきっかけで付き合いができて、理久がぐんと成長できた。枝川、伊吹、高野との4人で食事に行くようになったそうだ。

 桜木に想いを寄せた枝川は、中山伊吹の人柄を知らなかった。黒崎経由で紹介を受けた後、ひどい目に遭ったそうだ。その後は友人関係になったと聞いている。そこに、理久が仲間入りした。

(伊吹君が静久に似ている。暑苦しくて優しい人だ。あの図々しさも思いやりだ。理久が、まさか枝川となあ……)

「理久。枝川から話を聞いたぞ。付き合っているそうだな?」
「うん」
「似ているから好きになったのか?枝川はいい人か?」
「静久君のこと?」
「ああ。初恋の人だろう?」
「裕理君が初恋の人だよ」
「そうだったのか?」
「うん。静久君のことも好きだったよ」
「静久と瞳の色が似ているからだろう?やきもちを妬いてもいいか?」
「裕理君のグリーンの瞳が好きだよ。……こっちの珈琲は濃さが違うんだね。メーカーは同じなのに。どういう仕組みかなあ?」
「ふむふむ。どういうことか研究してごらん」
「うん。えーーっとね。こっちがね……」

 照れ隠しだろうか。理久が買ってきている二つの珈琲のテイスティングを始めた。手元が暗いからと、スマホのメモ機能を使い始めた。彼の持っているノートは情報が詰め込まれている。興味の分野が異なるだけで、こういう部分は久弥と似ている。

(聞いてみようか。天真爛漫なふりからの脱却をする理由を。静久のことを気にしているだろう……)

 理久が10歳の時だった。俺たちは大学4年生で、ミッシュアップコンテストの出場を一か月後に控えていた。佐伯兄弟と静久、蔵之介と俺との5人で出かけた時、理久が近くにある看板に気づいて走り出した。油断していた。車が多いのにと、久弥と静久が追いかけていった。

 そこへハンドルを切りそこなった左折車が歩道に突っ込み、理久と久弥に向かって来た。久弥が理久を抱えて移動したが、制御不能の車は止まらない。とっさに静久が二人を突き飛ばした。その時、静久が右手の小指を骨折した。二人に怪我はなかった。

 深く考えて慎重に行動すればよかった。一緒に遊びに行けるのが楽しくて、何も考えていなかった。理久が泣くこともできずに謝り続けた。静久が強靭な回復力をみせてコンテストに出場し、また深く考えない子になれと励ました。

 理久だけが悔いることじゃない。彼が走り出す前に一番近くにいたのは自分だった。強く手を引いておけばよかった。蔵之介が同じことを後悔した。

「裕理君?足が疲れた?」
「いや、平気だ。天真爛漫なふりの脱却を、今日からするのか?」
「うん。二週間、ゆっくり考えたよ。今からそうする。深く考える子になる」
「理久。もう一回言うぞ。苦しめるためのアドバイスじゃない」
「うん。親友を守るためだよ!」
「そうか……。もうすぐで二葉さんが着く。圭一さんから紹介される」

 理久が二葉と親しくなり、親友という間柄になった。そして俺は、二葉の教師役になることが決まった。来年の5月を予定している。今日は正式に黒崎から紹介される。実は。その前にも会っている。3年前の七夕の日に起きた出来事がきっかけだ。黒崎ホールディングス時代の頃だ。
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