【完結】29歳で「売れ残り」とお見合い勧告されましたが、裏では最強のアルファ部長が「運命だ」と逃がしてくれません

Marine

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期限切れ通告

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「単刀直入に言う。牧田君、君は『期限切れ』だ」

 金曜日の午後、小さな会議室。
 総務の吉田課長の言葉は、俺のオメガとしての価値を否定するには十分すぎる響きを持っていた。

(……っ、)

 椅子に座り直した瞬間、腰の奥がズクッと疼いた。
 昨日、あんなに激しく『鎮められた』のだから当たり前だ。
 まだ体の奥に激しくイかされた熱が残っている。
 目の前の課長は俺を「期限切れ」と言うが、スーツの下の俺の身体は、最強のアルファによってドロドロに書き換えられたばかりだった。

 隣にいる産業医の早川先生が重々しく言った。
 
「29歳を過ぎた、未番(みつがい)のオメガの社員は、必ずお見合いしてもらうことになっている」

 特定第二性・特別保健指導。
 噂には聞いていた。

「30歳を過ぎたら、徐々に抑制剤が効きにくくなるのは知っているね。
 注意すべきなのは、まれに発情暴走が起きることなんだ」

 ……知っている。
 しかし、この面談、少し遅かったようだ。
 その『発情暴走』なら――実は昨日、起こしたばかりだ。
 そしてそのとき、俺の上司である桐生部長に……セックスをして鎮めて貰ってしまった。

「ちょっと知りたいのですが、発情暴走を起こすとどうなりますか?」
「周囲のアルファが激しく混乱して、君をつがいのように扱ってくるだろう」
「……アルファはみんな混乱するんですか?」
「個体差はある。アルファとして能力の高いものが、より混乱を受けやすいというデータが出ている」

 うわあ、桐生部長に完全に当て嵌まっている。
 俺の脳裏に昨日のことが浮かんできた。

 昨日の残業中に突然体が熱くなって、机に突っ伏してしまった。
 そのとき、営業部は全員、帰宅しているか出払っていて、桐生部長しか残っていなかった。
 突然の体調不良? と混乱している俺の肩をたたき、
 熱い声で『牧田』と呼ばれて……気づいたら……。

 そのあとのことは記憶が途切れ途切れになってしまっている。
 ただ、行為の最中、彼の目が金色に輝いていたことを鮮明に覚えている。

「それで、君には恋人はいるのかね?」

 早川先生の声に、はっとして首を振った。

「いいえ」
「いないのであれば、適切な相手を紹介するのが社内ルールとなっている」
「そ……それは、桐生部長はご存知なのでしょうか?」
「いや、オメガの人事権は総務にあるから、この面談のことも連絡はしていない」

 そう言われて、俺は思わずワイシャツの胸元をぎゅっと握りしめた。
 生地の下、鎖骨から乳首にかけて散らされた無数のキスマークが、服に擦れてヒリヒリと痛む。

 桐生部長が知ればどんな反応をするだろうか。
 昨日はあんなに激しく抱かれて……『運命だ』『俺のものだ』と低い声で囁かれ続けたのに。

「君には、とてもいい話が来ているんだ」

 総務課長の、老眼鏡の奥の目が、少しだけ見開かれた。

「これは絶対に秘密にしてほしい。若いオメガたちが羨ましがるからね」
 テーブルの上の黒いファイルから、彼は一枚の二つ折りの紙を取り出した。



 佐藤 健一 (35)
 属性: アルファ(商社次長)
 婚歴: 離婚1回(子なし)
 コメント: 「派手な交際よりも、落ち着いた家庭生活を希望。パートナーの年齢にはこだわらず、精神的な自立を最優先する」



「佐藤さんはあの五洋物産の物流企画部、次長をしておられる。離婚歴はあるが、収入が高いから、安定した暮らしを望めるよ」

 全く興味はなかったが、少し気になったので聞いてみた。
 
「そんな方が、どうして俺を?」
「それなんだよ。普通は若いオメガから売れていくんだが……この方はいろいろあって、離婚になってしまって……次は愛情や可愛さは求めないから、とにかく精神的に自立した、真面目なオメガを……というご希望で……」

「はぁ、そうなんですね」

「こんな機会はめったにないよ。この方を断ったら、あと紹介できるアルファの年収は半分以下に落ちる」
「俺は、営業部で頑張りたいと思っているんですが……」
「桐生部長は高位のアルファだ。オメガの発情暴走などに影響を受けやすいから、リスク管理の観点から、未番で30才を過ぎたら営業アシスタントからは外れてもらうよ」

 もう手遅れなんだけどね……っていったら、この二人はどういう顔をするだろうか。

「分かりました……」
「お見合いは、急だけど来週の日曜日だ。必ず行ってくるように」

 俺はそれを受け取った。
 個人情報保護用の黒くマスキングされたクリアファイル。

「もう一つだけ知りたいんですが」
「なんだね」
「混乱したアルファって、見分けられますか?」
「ああ、虹彩に異常が出る。理性が飛び、瞳の色が変質して混濁するんだ」

 ……やはり、そうだ。
 俺は昨夜、覆いかぶさってくる桐生部長の瞳を、至近距離で見た。
 いつもの冷徹なダークブラウンが消え失せ、ギラギラとした恐ろしいほどの『金色』に変わっていた。
 あれは、ただの色変わりなんてものじゃなかった。
 理性が完全に消し飛んだ、医学的な異常(エラー)としての輝きだったんだ。

「やけに詳しく聞いてくるね。やはり怖いのかい?」
「それは……発情暴走なんて……嫌ですし」
「だったら、つがいの儀式を行ってフェロモンを早く安定化させるしかないよ」
「……そうですね」
「まぁ、我々も脅しすぎたかな。フェロモン暴走なんて、かなり確率は低い。そうそう起こらないよ」
「そ、そうですよね。はは……」

 俺は、奥まで貫かれたからだの火照りを誤魔化しながら、乾いた笑いを浮かべていた。
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